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27 再びの襲来

「おい!! お前速度上げすぎだ! もっと下げろ!! じゃないと僕たちが落ちる!!」

「黙っていろ! ただでさえ操作が難しいのに動かれては堪らない! それに今は三十キロ程度しか出していないっ」

「そんな馬鹿な!!」


 俺たちは空飛ぶ桜井に掴まりながら、空中を飛行していた。

 こんな光景を全く知らない人に見られたら、明日は空飛ぶ人に掴まる人たちと報道されまくるだろう。

 まあしかし、空中と言っても木の少し上を飛行しているに過ぎない。


「てか、桜井。なんでここにきたんだ?」

「なに? なんと言った? 耳栓をしている上に爆音だから何も聞こえない!」

「なんで来たんだ!!」

「ああ。その話か。それなら後にしろ!」


 まあ確かに、今は呑気に話をしている場合では無いか。

 桜井の背中に長原さん、両肩に俺と有野が必死に掴まっている状況。

 こんな辛い状況は早く終わって欲しい!


「わかった。とにかく、今は車に行くぞ!」

「その車はどこだ!」


 車の場所? こんな木々が生い茂る場所で見つけるなんて無茶だろ。

 俺が車を見つけられず、下をキョロキョロと見回していると、突然長原さんがピッと指を指した。


「あっちです!」

「わかった!」


 すぐに桜井は軌道を変え、長原さんが指す方向にゆっくりと着地──すると思ったのだが、その着地速度は想像よりも速かった。


「おいおいおいおいおい!! これだだの落下だよ!! もっと出力上げろ!」


 慌てて声を荒げたので、すぐに桜井も反応して、出力を上げるボタンをグッと押したのだろう。

 その影響で、俺たちはたちまち急上昇した。


「うぉぉぉぁぁ!!」

「し、死ぬ!!」

「──っ!」


 と思ったら急降下し、それを何度か繰り返してようやく地面に着地した。

 色々な意味で命懸けの脱出劇だった。

 俺と有野は、ようやく出会えた地面に両手をつきながら息を整えていた。

 そんな俺たちを見て、桜井は淡々と、


「お前、結構上手だったんだな」


 その一言だけ言った。

 もうこんなのは勘弁してほしい。


「イッッ。なんか足裏も痛いし……。ほんとに散々だ」

「いや、それは知らないぞ」


 まあ、だろうな。あれだけ荒い操作をした桜井だが、俺の足裏にまで痛みを与える操作はしなかった。

 最後の着陸は殆ど衝撃はなかったしな。


「まあいい。今はさっさと車に戻ろう」


 着地したのは森の中だったが、すぐそこには道路がある。そこまで歩くだけだ。

 流石にここまで来る追っ手はいないようで、俺たちが静かになれば、辺りは冬の森なだけあって、夏のようにうるさくはなかった。

 俺たちはすぐに車に乗り込み発車した。

 走り始めてから何十分が経っても、追っ手らしいものは見当たらないので、俺たちはようやく安心することができた。


「いやー良かった良かった。追っ手も来ないみたいだし大成功じゃん!」

「んなわけあるか。大失敗だよ。危うく死ぬところだったじゃねぇか」

「そ、そういえばそうだったね」


 あのまま桜井が助けに来てくれなければ、俺たちは確実にあの場所で死んでいただろう。


「そういえば、どうして来てくれたんだ?」


 助けてくれたことには本当に感謝しているが、桜井は一人残って飛行装置の強化に努めていたはず。それなのに何故?

 俺の疑問に対し、桜井は特に考えた様子もなく、軽く答え始めた。


「いや、ただ出来たから暇になって、ぼーっとしていたら心配になってきたから行ってみただけだ。試運転も兼ねていたしな。性能テストとしては、申し分ない結果となった。ついでにお前たちも助けられたしな」


 桜井が言う飛行装置を見る。確かに今朝見た飛行装置とは結構変わっていた。

 これまでは、本当にただレールガンをつけただけといった状態だったのに対し、今ではレールガンの他にもテーザー銃もつき、しっかりと固定されていて、デザインも非常にロマン溢れるものになっていた。

 これはものすごい進化だ。

 

「ん。また渋滞……。回りましょう」


 不意に聞き馴染みのある声が聞こえて来た。

 もしあの時死んでたら、もうこの声も聞けなかったんだな。

 そう考えると、安心して気が抜けたせいなのか分からないが、不意に足の痛みを思い出した。

 そういえば脱出後、地面に着地した時何故か痛みを覚えたな。

 俺は揺れる車内で靴を脱ぎ、パッと中を見る。


「あれ? 何も入ってない……」


 おかしいな。てっきり靴の中に石でも入っているのかと思ったのだが……。

 ならば靴下の方に棘でも刺さっているのかと思い、足の裏を触るがとくに何もなし。


「杉田。お前さっきから何してんの?」

「いや、ずっと足の裏が痛かったからなんか入ってんのかと思ったんだけど、何も入ってなかったんだ」

「ふーん。じゃ、靴の裏にでも釘が刺さってんじゃない?」

「んな物騒な……」


 軽くあしらいながら靴の裏を見る。すると、そこには──。


「──っ!? こ、これっ! 長原さん! これってまさか!」

「なんですか? 今車を停めますから」


 運転中によそ見はいけない。それは分かっているので流石に急かすことはできないが、それでも急かしてしまいそうになる。


「はい。停めました。それで、なんですか?」

「これ、見てください!」


 俺は靴の裏に刺さっていた、一見画鋲に見える、小さな針のついた金属を渡した。


「え? これって……まさか!」


 長原さんは説明もなく、すぐさまその謎の金属を車内から放り投げた。


「みなさん。すぐに出しますっ」

「え?」


 まさか? けどこの慌てよう。多分これはGPS発信機だ。

 有野はキョトンとしていたが、桜井は顎に手を当てて真剣に考えている様子だったので、薄々気付いたのだろう。


「ち、ちょっと。何なのさ!」

「有野さん。あれは多分、我々の位置を敵に知らせる発信機です」

「なっ!」


 やっぱりか。多分着地の衝撃で、靴裏の奥深くにまで刺さったのだろう。それがなければ多分ずっと気づけなかった。


「じゃあやばいじゃん!」

「はい。なのですぐに移動しているのですが……。また、渋滞です」


 そういえば、さっきも渋滞だったか。

 こんな田舎道で何度も渋滞? 別に今は帰省ラッシュ真っ只中というわけではないはず。なのに何故?

 悪い予感がした。そして、その悪い予感は大きな音によって答え合わせすることになった。


「なあ、この音ってさ、前にも聞いたよな……」


 有野が初めに気づく。俺たちも耳を澄ませると、確かに聞こえてきた。

 その、空気を切る音が。


「これは逃げられないぞ……」

「てか、今回は前回よりも状況やばいんじゃない?」

「そうだな……」


 会話が途切れる。エンジン音以外が無くなった静かな車内に響く、ババババババッという大きな音。

 当然それはヘリコプターだった。しかし今回は前回のようにはいかない。

 何故なら前後には車。移動することはできない。


「どうやら何らかの方法で、交通の流れを操って意図的に渋滞を起こしていたようですね」


 長原さんは冷静に分析する。

 しかし、と言うことはずっと俺たちは操られていたということか。

 長原さんは何度も渋滞に遭遇していた。だが、今は敵の拠点と距離を作りたかったがためにそれを避けて移動していた。それが読まれていた。そして、逆に利用されたと言うことだ。


 笑えないな。と桜井は呟く。本当に笑えない。


「あれ、でもおかしくない?」

「何がだよ」


 有野の問いに俺は首を傾げる。だが、すぐにその疑問が分かった。

 そのヘリコプターの音は、ずっと付かず離れずの距離にいるのだ。


「そうか。まさか……俺たちの車が、分からないんじゃないか?」

「……確かにそうですね。我々の車が見られてもおかしくないタイミングはいくつかありましたが、多分、まだ見られていないんです」


 長原さんは軽く確信したようにハッキリと言った。

 確かにこの車は、街で歩いていれば一日に数えきれないほど見る車だし、可能性がないわけではないのか。

 でも、だからと言ってこのまま上手くいくとは思えない。

 車はノロノロとたまに走るだけ。このままでは全く逃げられない。

 それに、もしかしたら……。


「あれ、なんか上からロープみたいなのが垂れて来てない?」

「ってことは……。くるぞ」


 リアウィンドウから見えたのは、二人のスーツ姿の男がロープを伝って降りてくる姿だった。

 そして降りてくるや否や、すぐに一台一台車の中を確認して回っていた。


「おいおい。どうするよ。一台一台調べてってるぞ」

「………」


 流石に長原さんも手詰まりなのか、顔を顰めて考え込んでしまった。

 まずい。このままでは確実に俺たちの場所がバレてしまう。そうなればきっと、奴らは躊躇いもなく撃ってくるはず……。ここまでか?

 どうする。このままじゃ全滅だ。それだけは避けなくてはっ。けど、どうすれば?

 前後と対向車線には車があり、身動きは取れない。そして後ろから一台一台調べている奴らもいるので、そもそも時間もない。

 ここから飛び出て飛行装置で、みんなを抱えて逃げることも考えたが、ここには人が車にたくさん乗っている。見られるわけにはいかない。

 だが……もはやそんなことは、言ってられない状況なのかもしれない。


「長原さん。俺が囮になります。その間に逃げてください」

「そんなっ……。杉田さん。いくら状況が悪くても、その手は使えません」


 初めは動揺した長原さんだったが、すぐに冷静な表情でそう言った。


「それは、なんで……」

「自己犠牲をやめろと言ったのはあなたじゃないですか。杉田さん」


 その言葉が、俺の中で響き渡る。

 そうか。長原さんは俺の言葉を……。


「それに、誰かが囮になったとしても、ヘリが空中にいる状態では逃げられるとは思えません」

「……それもそうか」


 周りには森はなく、家々が広がるだけ。確かに逃げられそうにはないな。


「じゃあどうすれば……」

「私に一つ提案がある」


 さっきまでずっと黙っていた桜井が、意を決したように口を開いた。

 敵が迫っていたので急足での説明だった。が、これならいけるかもしれない。


「んで、その役は誰がやるんだよ。………俺か」

「お前以外にいない」

「だよな……」



***



 一台一台慎重に、しっかりと隈なく探す。

 あの方からの直接の命令だ。絶対に失敗するわけにはいかない。

 まあ、一般人を襲うというのは多少の罪悪感があるものの、そんなものは関係ない。

 俺は仕事をまっとうするだけの話だ。


「なかなか居ないな。ターゲットは」

「ああ。みたいだな」

「しっかり守ってくれよ? 俺は怪しまれないために武器を持ってないんだからな」

「分かってる」


 俺の後ろで堅物のようにゆっくりと着いてくるそいつは、いつでも銃を取り出して撃てるように、服の中に手をずっと突っ込んでいた。

 胸ポケットあたりに銃があるらしい。


「ふぅ。これも違う。本当にいるのか?」

「さあな」

「……えーっと次は……」


 ミニバンのちょっと大きめの車。その車のサイドガラスから中を慎重に見ると──。


「ぬあっ!」

「どうしたっ」


 俺は両手を突き上げる。声を聞いたすぐに後ろの奴が銃を取り出し構える。が、どうやら甘かったみたいだ。


「ちっ。マジかよ……」

「これが何か、プロのあんたたちわかるよな」


 名前は確か杉田といったか。そいつが俺たちの後ろに回り込み、小さな銃口を後ろの奴に向けていた。

 取り分け護身用の武器といったところか。そんなもん持ってるなんて聞いてないぞ。

 だが、まだ終わったわけじゃない。なんせ俺らにはヘリコプターがついてるからな。上から狙撃してもらえば一発だ。

 …………なんだ? なぜ助けに来ない。……まさか?

 視線を彷徨わせ、たどり着いた場所。車のガラス越しにレールガンが見えた。

 どうやら俺たちの反対側の外にレールガンがあるようだ。


 なるほど。そりゃ撃てない。こりゃ負けだ。



***



「よっしゃ! あいつらザマァ見ろだぜ!」

「いや、お前何もしてないだろ」

「しかも車内でずっとびくびく震えていたではないか」

「バカ! 何話してんだよ!」


 有野は桜井からの横槍を食いながら、一人何やらぶつぶつと呟いていた。


「そ、それにしても、よくこの作戦成功したよなっ」


 今度は話題を変える方向に変えたようで、そんな事を言い始めた。

 まあしかし、本当によく成功したものだ。思い出すだけでも身震いがする。


「でもそうですね。あの絶体絶命の状況で、咄嗟に考えついた作戦にしては本当によく出来ていましたね。桜井さん」

「ん。まあな」


 長原さんに褒められるのに慣れていないのか、桜井は何だか部が悪そうにしながら横を向いてしまった。

 今回の作戦、俺が先に車から出て、敵の後ろに回り込み、銃を構えて待機する。

 その時に使用する銃だが、普通の銃では周りの一般の人に怪しまれて通報されかねないのでそれ使えない。かと言ってテーザー銃も目立つし、レールガンは論外だ。

 そこで役立ったのが、桜井がたまたま護身用にと思って開発途中だった、小型のテーザー銃だ。

 威力こそあまり期待はできないが、外見が実弾銃な故に敵は勘違いしてくれたのだ。

 さて、それから俺たちの車を前の一人の男がのぞいたところで、ワザと音を立てて後ろに待機している人に気づかせる。

 だがその時点で俺は、銃を構えている為、敵が俺に気づいた時点で既に遅いと言うわけだ。


「んで、この捕まえた敵はどうすんのさ」

「そんなの敵の脅迫に使うに決まってるでしょ!」


 そう高らかに言い放つ有野だが、それを聞いた一人の男が何かを言いたげに俺たちを見た。

 どこか可笑しそうに笑っているように見える。


「なんだ? 何がおかしい」


 俺はそう尋ね、その男の口につけられたガムテープを剥がす。


「へっ。あの方が俺らを助けるためにわざわざ動くとでも思ってるのか? ありえないな」


 ハッタリか? いや、少し話しただけの俺でも、それは本当のように思えた。

 あの岩沼という男は仲間を仲間と思っていない。ただのコマとしか見ていないというわけだ。


「へっ。何言ってんのさ。さっき銃向けられて一瞬で両手上げたくせにっ」

「銃を向けられりゃ誰だってああする。あの方以外はな……」

「……ヘリコプター、帰っちまったがこれからお前たちはどうするんだ? このまま人質としていてくれるのか?」


 実は敵が乗ってきたヘリコプターは、桜井がレールガンを向けた瞬間急速旋回して元来た方に引き返してしまったのだ。


「別に俺らは人質になったって構はしねぇが、人質としての価値はないぞ。あの方からすればな」


 この人の話を聞いていると、岩沼が冷酷無慈悲な化け物のようになってきているぞ。

 いや、きっと(つか)えているこの二人からすれば、本当にそんな人なのかもしれないな。

 でもまあ、こんな場所で放って走り去るのもどうかと思うが……。

 俺は一つため息をつき、二人の男に向き直った。


「とりあえず聞くが、いま拘束を解いたらお前たちどうする?」

「さあな。俺たちはあの方から命令で動いてんだ。それに従うだけだ」


 あの方の命令か。ということは、拘束を解けば襲ってくる可能性もあるのか。ならそう簡単には拘束は解けないな。

 やはり一番賢明な選択は、ここに置いて走り去ることだろう。


「長原さん。この人たちどうします?」

「……そうですね。岩沼さんからすれば人質としての価値がないにしても、他の人たちからすればどうでしょうか。命令されれば撃つかもしれませんが、それでも、多少戸惑いは出るはずです」


 確かに。ほんの少し前まで一緒に戦ってきた仲間のはずなのに、それをまるで何もなかったかのように無感情で殺す。なんてのはあまり考えにくい。


「え、じゃあ、人質にするってことでいいの?」


 さっきまで話を黙って聞いていた有野が、最終的な結論を尋ねてきた。

 それに対し長原さんは、はいと頷いた。

 それを聞いていた二人の男は、ただ目を細め、特に何も言わずに自分の境遇を受け入れたようだ。

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