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2 危険な仲間

「で、どうよ。凄かったでしょ!」


 まあ、凄かったことは認めざるを得ない。確かに命に関わる危険もあったものの、俺は事実、飛んでいたのだから。


「ああ。けど、これだけは言わせてくれ」

「なんだよ」

「お前俺を殺す気か!」

「だからそれはもういいだろ? 助かったんだからさ」

「もしかしたら死んでたんだぞ! お前の目の前で、人が! ぺちゃんこになってたかもしれないんだからな?!」

「え、何その表現。なんかかわいいね」


 こいつまるで分かってねぇ。実際にそうなったらかわいいなんてのとは正反対だ。グロすぎる。一生モンのトラウマだ。


「もういいや」

「けど助かったよ。ずっと人に付けての実験は出来なかったからさ。いいデータがとれたよ」


 そういやこいつまだ一回も人に付けてやってなかったんだったな。

 俺はいい実験体になったと言うわけだ。

 俺は腕につけられている、重くゴツゴツした飛行装置を見たあと、そこから伸びているケーブルをまで辿った。


「なあ、このケーブル。どうにかならないのか?」

「あーそれね。僕もそれは思ってるんだけどさ、エネルギーの問題は今のところ僕じゃお手上げなんだよ」


 こんな装置を作れるくせにエネルギー問題は解決できないのかよ。


「なんたって消費電力がものすごいからね。家のコンセントに繋げたら一発でブレーカーが落ちるよ。それにもし落ちなかったとしても電気代がものすごいことになっちゃうよ」

「よし。やってみるか」

「僕の話聞いてた?!」

「ああ。なんだかこのままやられっぱなしじゃ嫌だからな。せめてお前を経済的に追い込んでやりたい気分だ」

「本当マジ勘弁してください」


 すぐに土下座してきた。張り合いのないやつだ。

 それにしてもエネルギーか。俺は科学の分野はさっぱりだからな。けど、俺の知り合いのアイツなら……。


「なあ、あんた俺の知り合いに会ってみないか?」

「僕をミンチにする気か!」


 いや、それを言うならリンチだろ……。こいつよく大学に行けたな。


「俺の知り合いにこういうのに詳しい人がいるんだ」

「へー。それは是非会ってみたいね」

「そうか。じゃあ明日の夕方くらいに連れてくる」

「なんで夕方?」

「いや、大学の授業があるから」

「あぁ。そっか。そういえば僕も行かなくちゃな」


 やっぱりこいつ俺と年齢は同じくらいらしい。

 俺と同じくらいなのにこんなもん作れるなんてすごいな。そこは素直に褒めよう。

 俺への配慮がなってなかったけどさ。


「そういやあんた名前は?」

「僕は有野翔駒(ありのしょうま)


 当たり前だが看板の名前と苗字同じだな。


「俺は杉田慶(すぎたけい)だ。よろしく」

「うん。よろしく」


 俺たちはお互いの手を取り合って握手をしようと思ったのだが、俺の手は機械の中なので、杉田の手が機械の角にゴン! と当たって負傷した。

 相性はとても悪そうだ。



***



 その日の夜。俺は夢を見た。後ろには有野ともう一人知り合いのアイツがいて、俺は唐揚げ定食の食券をカウンター越しの若い女性に渡している夢だった。


 夢から覚め、寝ぼけ目のまま考えたが、これは何も重要では無いな……。

 なんだ? 俺ってそんなに唐揚げ定食が好きだったのか?


 それから普通に大学に着き、講義を受けた。

 そして時間は過ぎ、気づくと夕方になっていた。

 今日は同じサークルに所属している人をアイツの元に連れて行かなくてはならないのでそのままサークルに向かった。


 俺が所属しているのは社会生活向上会とか言うまったく訳のわからないサークルだ。

 彼女曰く、自分で作った機械で生活の質を向上させるだとかなんとか。俺もよくわからん。それなのに俺はいた。


 いつものようにドアを開けて中に入った。


「よう。桜井(さくらい)

「ああ。君か」


 たくさんの機械によって狭っ苦しくなった部屋の奥で、椅子に座って桜井はこっちを見ていた。

 髪は長くてボサボサだし見たところいつも通り眠そうだ。こんなんでちゃんと講義に出席できてんのか? もうすぐ卒業を控えていたような気がするんだが……。

 それにしても、この人ちゃんと風呂入っているんだろうか。


「汚そうっすね……」

「なあ杉田よ。私だって怒るときは怒るんだぞ? どうやらそれを分からせる必要があるみたいだなぁ」


 そう言うと、その桜井は何やらとても長い銃のようなゴツゴツした物を俺に向けた。


「そ、それは?」

「最近完成した擬似レールガン試作二号機だ。まだ試射したことがなかったからな。ちょうどいい機会だ。被験体になれ」


 おいおいおい! 冗談だろ? だがアイツが言うってことはきっと本物だろう。

 ならば俺にできることは一つだ。避けるしかない!

 幸い三脚のような物で固定されているし、死角にさえ入ってしまえばこっちの勝ちのはず!


「いける!」


 そう言い放ち、移動するために右脚を前に出したその刹那。バン!!!! という大きな音が部屋に響いた。

 恐る恐る背後を振り向いてみると、ドアの上の方に二センチほどの穴が空いていた。


「あ……、あんた何やってんだよ!」

「悪い。本当に打つつもりは無かったんだ。手が滑った」

「その些細なミスのせいで人が一人死にかけたよ! それにもしドアの先に人がいたら──」


 自分の言っていることがそのまま現実になっていないか心配になり、慌ててドアの向いを見てみるが、向かいの壁にもたれかかって動かなくなっている人はいなかった。


「よ、よかった……」

「安心しろ。そのくらいはちゃんと配慮してる。誤作動を起こして死人が出たら厄介だからな。向かいの壁も補強済みだ」


 自分の部屋のドアを補強しやがれ!

 つーか俺のことも配慮しやがれ。


「それで、今日は何故ここにきた?」

「ああ、そういや忘れてた。実は最近飛行装置を作った工具店の奴と知り合ってな。エネルギー問題について解決しなきゃならなくなったんだ。だから来てくれないか?」

「すまん。さっぱりわからない」

「あ? そうか」


 俺は説明が下手なんだろうか。少しだけ考えさせられた。


「なに悲しそうな顔をしてる。さっさと話せ」

「はいはい。飛行装置はまあいいよな。んで──」

「ちょっと待て。飛行装置とはなんだ」


 え? そこから話をしなくちゃいけないのか? 桜井ならなんか流れでいけると思ったんだけどな。


「飛行装置は飛行装置だ」

「と言うと、黄色い竹とんぼみたいなものか?」

「違う違う。どっちかって言うと鉄のかっこいい方だ」

「ほう。そっち系か」


 竹とんぼの方は絶対に不可能だろ。実際にやったら多分頭皮からちぎれ落ちるし、そもそも体が回転しまくって終わりだ。

 若くして円形脱毛症みたいなのは嫌だぞ。

 

「んで、そいつがエネルギー問題について悩んでるんだ。正直その辺の話は俺さっぱりだからよ。お前行ってくれないか?」

「まあ、日本のエネルギー問題はなかなか深刻だからな。悩む気持ちは分かる」


 そう言って桜井は何度かうんうんと頷いていた。

 理解してもらえた──と解釈しよう。なにか違うような気がするが。『エネルギー』という単語に変わりはないし、さほど問題はないだろう。


「じゃあ早速来てくれ。夕方には行くと言ってしまったんだ」

「仕方ない。飛行装置は気になるし、それにエネルギー資源の問題なら話し合わねばならないな」

「ん? お、おう」


 やっぱり話が噛み合っていない気がする。まあいっか。俺の知ったことじゃない。


「それじゃあ私は着替えてくるから先に外で待っていろ」

「え、着替えるのか?」

「当たり前だ。外に出るんだからな」


 流石にこのぐちゃっとした髪で人に会うようなことはしないか。

 いつ風呂に入ったのかも不明だしな。

 バン!!!!


「っ!?!? な、なんだ!!」

「いや、何か失礼なことを考えていると思ってな」

「テメェは人の心が読めるのか!」


 そう叫んだ後背後を見てみると、今度は右腕の横を球が通過した後が残っていた。

 これでドアの穴が二個に増えた。


 向かいの壁を見るためにも俺はササっと外に出た。

 どうやら怪我人も出ていないし、射撃を目撃した人もいないようだ。

 絶対に音は聞かれてるけどな。


 部屋を出て待つこと数分。


「まだか? もう夜になるぞ……」


 時計を見ながらそう呟いていると、不意に部屋のドアがやっと開いた。


「悪い。遅くなった」

「本当だな、まったく。早く行くぞ──って、お前……」


 腕時計から視線を上げ、正面を見るとそこには俺の知らない美人がいた。


「誰? すみません。人違いだったみたいです」

「は? 何を言っているんだ杉田。お前は頭がおかしくなったのか?」

「え、あれもしかしてお前──桜井?」

「もしかしても何もない。正真正銘桜井(さき)だ」


 ま、マジかよ。確かに一度もこいつのちゃんとした格好は見たことがなかったが、普段と違いすぎるだろ。

 さっきまでの猫背気味だった背中もすらっとしているし、眠そうだった顔もキリッとしている。


「普段からそうしろよ」


 それしか出なかった。


「普段からこんなことをしていたらめんどくさいじゃないか」


 そりゃそうだな。


「んじゃ行くか」


 遅くなってしまったものの、やっと大学を出た。



***



「ここがその例の場所だ」

「ふーん。ここがか……。有野工具店……。本当にそうなんだな?」

「ああ」


 改めて見てみても本当にただの寂れた工具店だ。

 桜井は半信半疑でドアを開け、中に入った。


「ん? あ、やっときたね」

「よう。連れてきたぞ」


 昨日と同じようにそいつは工具店にいた。


「って、女の子を連れてくるなんて聞いてないよ!」

「安心しろ。今は外観が女っぽいが実際は男みたいなものだか──ぐあっ! いって!」


 なんだ! いきなり背中にものすごい激痛が!

 俺はその場で倒れ込むほどの強い痛みを覚えていた。


「試作型テーザー銃バージョン3だ」

「なんてもん持ってきてるんだよ!」

「こう言うことがあると思ってな。持ってきて正解だった。けど意識を刈り取るまでは至らなかったな。もう少し電圧を上げてみるか……」


 次は意識を刈り取る気らしい。

 俺はむくりと起き上がると、口を開けたまま動かなくなった有野の肩をポンと叩き、耳打ちする。


「逃げるなら……今のうちだ」


 コクリと頷くと、有野のドアめがけて走り出した。


「うわあ!! 助けて!」

「待て、逃げるな!」

「ぐぁ!!」


 外に出る前に有野のテーザー銃に撃たれて倒れていた。


「勝手に逃げようとするからだ。この国のエネルギー問題をするんだろ?」

「へ? え、エネルギー?」

「この国のエネルギー自給率はたったな12%程だ。これは先進国の中でも非常に低い数値だと言う」


 桜井は何故か日本のエネルギー自給率の話を一人で話し始めた。

 誰がこんなことを頼んだだろうか。


「ほうほう──って、なんで経済の話になってるんすか……」

「日本のエネルギー資源の問題の話をしたくて私を呼んだのではないのか?」

「全然違うよ! 僕はそっち系の成績は最悪だよ!」

「ならば勉強を教えてほしくて読んだのか?」

「そんなの無駄だ!」

「じゃあなんの勉強を──」

「一回勉強から離れてもらっていいっすか?」


 もう滅茶苦茶だな。一回場をリセットしよう。

 俺はパンパンと二回手を叩き、二人の視線をこっちに寄せた。


「一回落ち着こう。まずは自己紹介だ」

「ああ。そうだな。私は桜井埼だ」

「僕は有野翔駒」


 お互い手を取り合いちゃんと握手をしていた。


「それで、今日私は何故呼ばれたんだ? 飛行装置がどうとかって言うのはなんとなく聞いているが……それ以外は特に知らない」

「まあ見てもらった方が話は早いな」

「そうだね。ちょっときて」


 俺たちは例の庭に向かった。

 そこに用意されていたのはやはり昨日見たあの飛行装置だった。


「こ、これは……! 大きなリュックサック?」

「違うわ! 明らかに手にはめ込む何かが付いてるでしょ!」

「それはドリンクホルダーだろ?」

「なんでアンタまでこのノリに乗るんすか。杉田。お前は知ってるだろ?」

「ああ。この機械に殺されかけた事ならよーく覚えてるぞ」


 そう笑顔で言ってやると、有野はパッと頭を下げてきた。


「すみません。もう直しました」

「ならいい」


 もうあんな死にかける目に遭うのは懲り懲りだ。

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