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17 深夜の帰宅

 深夜0時過ぎ。やっとのことでバレないよう大学に帰ることが出来た。

 大学に入る前に空からさっきまで逃走に使っていたクルマを見つけたので、既に向こうも着いているのだろう。

 飛びながら大学内を見回り、一つ、電気の付いている部屋の前で着陸し窓から入った。


「杉田!! 生きてたか!」

「お前死んだと思ったぞ!」

「お前らひどすぎるだろ! こっちは必死に頑張って来たんだぞ」

「すみません。私がヘリコプターの処理までちゃんとできれば、あなたに辛い役回りを押し付けることもありませんでした……」


 テンションが爆上がりしている大学生二人とは違い、真剣に反省している社会人がいた。

 ここはどう返すべきだろうか。そんなことないですよ──なんてことは、流石に言うべきではないな。

 実際辛い役回りだってことに変わりはないんだから。だけど……。


「いや、俺はちゃんと死ぬかもしれないという覚悟をしてあの作戦に臨んだんです。そして、人を殺してしまうかもしれないという覚悟も……。だから、そんなに責めないでくださいよ」

「杉田さん……」

「それに、長原さん一人に全て押し付けるのは違うでしょ。な、お前ら」


 突然二人に話を振ったにも関わらず、ちゃんと二人は深く頷いてくれた。

 まあ多分有野は何が何だか理解してないと思うけど。

 それからしばらくの沈黙の後、長原さんは俺たちに向けて口を開いた。


「……はい。ありがとうございます」


 と、お礼を言った後、それから話を続けた。


「さて、反省はこのくらいにして次に進みましょう」


 おお。えらく切り替えの早い人だ。このくらい早いとこっちもやりやすいからいい。


「まず皆さんに知っていただきたいのは、私が敵ではないと言うことです」


 初手でいきなり超重要問題を長原さんはぶっ込んできた。

 ここで敢えて自分から触れることで、警戒心を無くそうと言う魂胆なのか、それとも本当に敵ではないのか。

 それは正直今の段階で判断するのは不可能だ。

 確かに助けてくれた恩というのはあるが……。


「ま、でもあの場で命張って助けてくれてことに違いはないしね〜」

「た、確かに……」


 よくよく考えてみれば、あの絶体絶命な状況で本当に長原さんが敵だった場合、あの場で俺たちに味方する必要性は無い。

 というか敵なのに助けて仕舞えば作戦が全て水の泡だ。

 だったら……長原さんは敵ではないと信じられるのでは無いか?


「桜井さんはどうですか?」


 ずっと難しい顔をして考えている桜井が気になり、長原さん自ら問いかけた。

 少しの沈黙を経て、桜井は口を開いた。


「まあ、あなたなら信じて良いのかもしれないな」

「僕は初めから信じてたからねっ」


 警戒している桜井と対照的に、有野のやつなんの警戒もしていないな。


「杉田さんは私が敵でないと信じてくれますか?」


 長原さんは綺麗な目が俺をみていた。

 そんなに見つめられると逆に考えが定まらないんだが……。

 ここは逆に見つめ返しておこう。


「そ、そんなに見つめないでください……」


 俺たちを逃がしてくれた時のあの頼もしい顔とは打って変わって、目を逸らし頬を赤らめ何故かとても女の子らしくなっていた。

 な、なんなんだこの変わりようは。


「わ、分かりました。信じましょう」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ」


 会った時は結構落ち着いた印象を受けたんだけどな。他人から知人。そして友人にでもなったんだろうか。

 悪い気はしなかった。

 っと、この話で今日を終わらせるのはまずい。話を切り替えて次だ。


「さ、さて。長原さんを信じるってことで方針が決まったとして、次の問題はこれからのことだな」

「ん? なにそれ。これからのことって誰か結婚でもするの?」


 こいつさっきまでの全ての出来事を全て忘れたんだろうか。それとも寝ていた? いや、この場合寝ぼけていたと言った方が正しいのか?


「なんすかその憐れむような目は……っ」

「いや、つくづく馬鹿だなーと」

「はあっ!? お前だけには言われたくないね!」

「じゃあなんだってあんな質問をしてくる! 今日のこと覚えてるだろ? いいか。俺たちはあいつらを倒したわけじゃないんだよ。逃げて来たに過ぎないんだ」


 当然のように有野は頷く。


「いいか? 敵は俺たちの居場所は大体全て把握している。そして今回のことできっともっと戦力を強化してくるだろう。そんな状況で、何もせずただいつものように日常を過ごしていくっていうのか? もしかしたら明日すぐに襲撃が再び来るかもしれないんだぞ?」

「や、ヤベェじゃん!」


 やっとこいつも事の重大さに気付いたか。


「だから今話し合ってるんだよ」

「な、なるほどね」


 こんな馬鹿があんな飛行装置なんて物を作り出したんだから、本当に世の中って不思議だ。

 意外と何も考えていない方が革命を起こしたりするんだろうか?

 さて、全員が本当に現状を理解したところでやっと話が進んだ。


「取り敢えず、前回のように大学の会室に襲撃に来るっていう大胆な行動が今後もあるかどうかだよな」


 もしこれからもこの場所に襲撃に来るとなれば本当に俺たちは逃げるしか選択肢はないぞ。

 それについては長原さんが答えてくれた。


「前回のような大胆な行動は、さまざまな条件が揃ったからできた事であって、今後再び同じことが起きることは殆どないと思います」

「そ、そうですか……」


 良かった〜。またあんな事が起きるとなれば今度こそ終わりだぞ。


「でもさ、普通に外にいる時にもあいつら襲ってくるし、僕たち明日には終わりじゃないの?」

「んー……。確かにな。そういやお前なんで拉致されたんだ?」

「そんなの寝てる時に襲って来たからに決まってるでしょ!」


 あ、そういやあいつら有野の家知ってたな。確かに寝てる時に襲われたら抵抗のしようがないな。


「じゃあ有野の今後の住居も探さなきゃ行けないのか……」

「お前の家に泊めてやればいいだろ」


 颯爽と桜井が提案を言い放った。


「は? 俺がこいつを家に泊める? バカ言え無理に決まってるだろ。こいつが家に来た日には母親と一緒に引っ越すね」

「僕どれだけ嫌われてんすか! なんでゴキブリみたいな扱いなんだよ!」

「いやだって……なんか無理なんだよ」


 つーかゴキブリが出たらお前は引っ越すのかよ……。これまで何回引越ししてきたんだよ。


「そう言わずにさ〜、泊めてくれよ〜。僕の命を助けると思って。て言うか僕の命を助けるために」


 何故か肩を組んできて顔を近づけてくる有野。こいつホモの性質があるのか? そんなやつ絶対無理なんだが。

 というか理由は他にあるんだよな……。


「どうしてそこまで頑なに断る」

「いや、俺母子家庭だし、母さんにあんまり迷惑かけたくないって言うか……」


 それに心配もかけたくない。だから面倒ごとは母親の耳にはなるべく届かないようにしたいんだよな……。

 その話を聞いた有野、桜井は下を向いて何故かとても申し訳なさそうにしていた。

 それに長原さんに至っては──。


「すみません……。分かっていたつもりだったんですけれど……」


 そう言って俺に向かって頭を下げてくる始末。

 なんでこうなってんだ。俺の話そんなに暗かったか? 別に普通の理由を話しただけだと思ったんだが。


「いや、お前ら落ち着けって。長原さん。頭を上げてください。別にいいんですよ」

「なんか僕たちと長原さんとで対応に差があるんだけど」

「そうだな。この差はとても不快だな」


 お前らなんでそんなに意気投合してんだよ。こっちはいつも通りの対応をしてるだけだって。

 そんなわけで一旦仕切り直しだ。


「しかし、有野の家は特定されてるから取り敢えずあの家は危険だよな……」

「私もできれば協力したいのですが……」


 何故か有野は『私もできれば協力したい』という言葉を聞いている間、顔をニヤリと歪ませ興奮していた。

 本当に馬鹿だなこいつ。いや、変態だな。

 しばらくの間良案が出る事はなく、平行線を辿っていたのだが、それを桜井の一言で破ることになった。


「仕方ないな……。私の家に来い」

「………へ?」


 は、はい? こいつ、何言ってるんだ? まさか──!


「さ、誘ってるの?」

「お前、死にたいのか」

「真顔で言わんでください」


 いや、ちょっと俺もその変な想像をしまったあたり、完全に有野を馬鹿にすることもできない……。


「桜井っ。本当にいいのか?! 有野だぞ? この有野だぞ!?」

「ああ。理解している。この無様でどうしようもない有野で間違いないぞ」

「あんた達僕に対してもっと優しくなれないんですか!?」


 どうやら本当にこの有野を匿ってくれるらしい。そりゃすげぇ。

 これでひとまず有野の身は安全だな。


「桜井さん。ありがとうございます」

「いや、気にしないでいい」


 そう言いながらも、お礼を言われることに慣れていないのか、頭を掻きながら少しだけばつが悪そうにしていた。

 いや、照れているのか? まあいいか。


 それからと話し合いは続き、最終的に常時テーザー銃を持つと言うことで一人一人の安全を少しでも保とうと言うことになった。


「それから、そういえば皆さんもうすぐ冬休みでしたよね」

「ああ、そういえばそうだった。色々あり過ぎて忘れるところだった」

「24日から7日までの二週間程度の短い休みだけどねー」

「はっ。そういえばこれから私の家にこいつが居座ると言う事は、冬休み中ずっといると言うことではないかっ」


 まるでそのことを忘れていたようだ。桜井のやつ、可哀想だな。こんなやつをずっと家に泊めなきゃいけないんだから。

 桜井が絶望に浸っていると、長原さんが「そのことではなくてですね」と言いながら桜井の両肩に手を置いた。


「冬休み中にこの件を終わらせた方がいいでしょう。なので冬休みの初日から皆さんには動いてもらいます」

「は?」

「へ?」

「ん?」


 綺麗に三人の言葉が重なった。

 って、待て待てそんなことより……いったい何が始まるって言うんだよ。


「詳細は追って連絡しますので……今日は解散にしませんか?」


 あー。そういえば今深夜だったな。こんな時間まで大学に残ったことないわ。

 長原さんの提案を拒否する理由はなく、それぞれ思い思いに会室でマイポジションに付き静かになった。

 長原さんは帰ったが。

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