12 打ち明けた
「さ、準備はいいか?」
「こら開発者。ちゃんと背筋を伸ばして堂々としろ。惨めだぞ」
「あんたらにこんなことされてる僕は確かに惨めですね! ちくしょう!」
ぐちぐちと文句を垂れながらも、着々と起動準備は進んでいく。
へっ。普段は俺がいつも死にそうな目に遭ってるからな。これは仕返しをするチャンスだ。
これまでの俺の苦痛。貴様が味わう時が来た……。
「な、なんか杉田の顔が怖いんすけど……」
「え、何か言ったか?」
「いや。でもまあ改造は完璧に行われてるからね。初心者の僕だって簡単に操れるよ」
つーか俺以外が操作できないってのは結構危なくもあるからな。だって俺がもし怪我でもしたらこいつを操作することは不可能になる。
その場合誰も動かせる人がいなくなると言うわけだ。
それはなかなか困る状況だからな。新たな犠牲者──ではなく、新たな操縦士を作る良いチャンスなのだ。
「よ、よし。じゃあ僕いくよ」
「おお。逝ってこい」
「お、おお?」
有野は手で握ったボタンをゆっくりと押し、それにより少しずつ推進力が生まれる──筈だったのだが、初心者ということもあり加減を完全に間違えたらしい。
「え? うぉぁぁあ!!!!」
いきなり馬鹿みたいな推進力が発生し、1秒もかからず体育館の天井にほとんど突っ込む形で到達し、それにより推進力は止まった。
「ぐはっ!!」
しかし、衝突により一瞬ボタンを離してしまったのだろう。有野の身体に重力が通常通り作用し出した。
つまり、落下し出したのだ。
「あ、あれっ?! うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガゴンッ!!!
物凄く大きな音を立てて鉄の塊は地面に落ちた。
これには落ち着いていられるはずがなく、すぐさま駆けつける。
「だ、大丈夫か機械!!」
「この機械が壊れたらお前殺すぞ!」
「ちょっとは僕の心配しろよ!」
すぐに機械の生存確認を済ませる。
「ああ。機械が無事ならお前も無事か」
「僕、機械のついでなんすね……」
さて、三人もこんな出来事を目の前にして、じっと黙ってみていられるはずがなく、ゆっくりと恐る恐る近づいてきた。
「あ、あの……大丈夫ですか……?」
「じ、地面に穴あいてないか?」
「これは死んでもおかしくないぞ……」
そりゃ始めて見る人からすればそんな反応にもなる。
「まあ安心してください。有野は、こうして痛めつけられている時が一番輝いてますから」
「それじゃ僕が変態みたいだろ!」
「……」
「……」
「なんでそんな無言で見つめるんだよ……」
それから有野はゆっくりと機械を地面に置き、本当に壊れていないか入念にチェックをしていた。
一応落ちた地面もチェックをしておく。ここで多少凹みが見つかったとしても、俺たちがやった証拠がなければきっと大丈夫なはずだ……。
「んで、落ちてる時の『あれっ?! てのは何だったんだ?」
「あ、忘れてた。咄嗟に僕はもう一度ボタンを押し直したはずなんだよ。でも全く反応しなかったんだ」
「は? それって壊れたってことじゃないのか?」
飛行装置をじーっと見つめながらそう問いかける。が、すぐに桜井が俺の問いに対して答えた。
「いや、それはない。ちゃんと確認したが壊れてはいなかった」
それってつまり……。
「お前の操作ミスじゃないか?」
「そんなわけないでしょ! 僕開発者だよ!?」
「でも操縦士じゃないだろ?」
「ま、まあそうだけどさ……」
と、どこか納得していない様子だったものの、一度大きくため息をついた後、じゃあ今度はよろしくな。と言ってきた。
「んで、結局こうなるわけか」
最終的に俺が飛行装置を付けて、いつも通り飛行準備を進めた。
「ま、お前以外に適任者はいないってわけだよ。これからも頼むぜ」
はぁ。まあ新たな操縦士を見つけるのは今度にしよう。今はお三方に見せることに集中しよう。
「んじゃ、いくぞ」
「3、2、1、ゴー!」
久しぶりに聞いた締まりのない掛け声と共に、俺は地面を離れた。のだが……。
「ぬおっ! な、何だこれっ! 加速力が半端ない程に上がってるじゃねぇか!」
少しボタンを押し込んだだけでいつもより何倍も早く上がりやがった。あいつらどんだけ改造してんだよ……。
しかし、押してみた感じからも特に異変を感じることはできなかった。
やはりあいつの操作ミスとしか……。
「なっ? だろ? だから僕も事故ったんだよ!」
とても必死に同調を求められが、残念ながら俺は事故る事なく体育館を軽く2周ほどし、有野と対照的にゆっくりと床を傷つける事なく着地した。
「ま、ざっとこんな感じだ」
「やっぱりもっと杉田を驚かせるような機能を追加しなきゃな……」
一体どこに力を注ごうとしてんだよ。力を入れるところはそこではないぞ。
っといけない。先にお三方に話をしに行かなければ。
「とまあ、これが前回あなた方が見たものですね」
三人とも信じられないものを見る目で機械と俺とを交互に見ていた。
まあこの機械も確かに紹介したかったんだが、今回の本題はこの機械ではなく──。
「それで、ここからが本題なんですが、さっきも見せたこの筒状の発電機ですが、なぜ組織は狙っていると思いますか?」
今日の一番の本題はこれだ。確かにこの発電装置は世間に公表されれば物凄い大ニュースになるだろう。何故なら桜井の話によると発電時に二酸化炭素を発生させないと言う。
それでこの小ささで物凄い発電力ともなれば、そりゃ一躍大ニュース間違いなしだろ?
だが……。
「こんな物凄いものを開発したであろう組織は、何故かこれを公表しなかった。それどころか有野の親はそれを隠蔽しようとしたんです。それは何故でしょうか?」
「い、隠蔽……?」
「えーっと、有野。会室からあの一緒に入ってた紙持ってきてくれ」
「はいよー」
しばらくして有野は、発電機と一緒に見つかった有野の親が書いた後悔が綴られた紙を持ってきて、三人の前に提示した。
「これを見て欲しいんです」
「これは……?」
三人はしばらく目だけを動かし文字を追う。
沈黙が少しの間続き、二〇秒ほどして長原さんが沈黙を破った。
「なるほど。確かにこれは隠蔽しようとして──けれど、出来なかったみたいですね」
「でもなんで出来なかったんだ? あの人たちを殺すことになってしまう。っていうのが分からないな」
この紙だけでは状況把握するのには不十分だ。まあここに書かれているのは後悔だけなのでそれは当たり前なんだけどさ。
けれど、改めて見てもやっぱり、これは謎が謎を呼ぶ文章だなぁ。
やっぱこれだけじゃこの三人にも分からないかもな。
「あの、一応お聞きしますが……有野さんの父親と知り合いの人っていますか?」
その問いに対して首を縦に振る人は三人は中に誰もいなかった。
まいったな。下っ端でも一応組織の一員だし少しくらいは知っているのではないかと思ったんだけどな。そう甘くはないか。
「そうですか……。まあそう簡単にわかるわけないよな。じゃ、今日はこのくらいで解散しますかね」
時刻も昼に差し掛かろうとしている。そろそろ切り上げてしまった方がいい。知らない人を引き連れて体育館で実験していたなどバレたら大変だ。
飛行装置を再度背負い歩き出そうとしたところで、長原さんに「一つだけいいですか?」と尋ねられた。
「はい。なんですか?」
「なぜ、組織の人間が大学に昨日来ると分かっていたんですか? それだけが私、分からないんです」
う、まずいな。こればっかりは本当にどう説明したら良いものか迷う。
馬鹿正直に予知夢を見るんですなんて言ったところでこんな大人たちが信じてくれるとは思えないな……。
困り果てた俺は二人に助けを求め、目で助けてくれた合図を送った。
するとそれが届いたのか、早速有野がドヤ顔を俺に向けた後口を開いた。
「それに関しては僕から説明させれもらうよ。こいつ、実は予知夢が見れるんだよ」
「は?」
「え?」
「??」
なっ!? この馬鹿やろう!! こいつ何も分かっちゃいなかった!
「いや、本当何言ってるんでしょうねこの人は」
「全く本当だ。何を言っている杉田。お前は私たちにそれを証明してくれたじゃないか」
ぬあぁぁぁぁ!! 何でこう言う時ばかりこいつも口を開くんだよ!
そして有野! テメェはやってあげたぜ。みたいな顔でこっちを見るな。無駄なことしてるんだよ。
さーて、流石に飛行装置を見た後なので多少なんでも信じてしまいそうなお三方ではあるものの、流石に『予知夢』なんて単語を聞いて本気にする者は一人としておらず、お互い顔を見合い、引き攣った顔で肩を竦めていた。
ま、それが常人の反応だよな。
お前らはこれ以上口を開くんじゃねぇよ?
「あ、信じてないでしょ! ま、そりゃそうだよね。でもね、こいつは僕たちに本当だって証明したんだよ。それが今回の出来事さ」
「そう。あいつは初めからあの会室に襲撃があるということを、前もって私たちに教えてくれたのさ。だから対応できた」
「テメェら本当いい加減黙れよ!」
「え? なんでだよ」
「こんなこと言って信じる奴がいたら、それはただの妄想癖があるやつだよ!」
叫んだ後、すぐさま三人に目をやる。見れば考え込んでしまっていた。
しばらく経った後、長原さんがパッと俺たちに目を向けた。
「分かりました。今すぐに完全に信じることはできませんが──そうですね。信じてみようと思います」
「え?」
「そうだな。もし本当だとしたら長原に襲撃があると事前に伝えられた事にも説明がつく」
阿久津さんが最後にそう付け加え、二人もその説明で納得しているようだった。
「え、本当に信じてくれるんすか?」
「ああ。上の組織とグルである可能性は、あの現場を見た後では考えられないしな」
あいつらは完全に俺たちを殺そうとしてきた。もし仮にグルだとしたら、それは完全に裏切り行為だ。
それにしても……ほ、本当に信じてもらえるなんて……。
全く考えられないことだ。
「しかし、予知夢か……。それは一体いつから見るようになったんだい?」
「あ、それは僕も気になってたよ」
ああ。そういえばそう言った話は全くしてこなかったな。まあ話す機会がなかっただけだけどな。
桜井は興味のないそぶりを見せているが、チラチラと俺を見ているあたり、少しばかり気になるのだろう。
まあ別に隠すようなことではないし、それに時間に余裕もある。話してやるか。
俺はもう何年も前の出来事を思い返す。
慶……お前は大丈夫か……。そう心配そうに問いかける声がある。
その声は、とても弱々しく、今にも力尽きてしまいそうな声だった。
俺はその時の光景を今でも忘れない。




