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11 人知れぬ動き

「なんだ! 誰だお前ら!」

「おい、あれっ」

「おいおい、マジかよ」


 俺たちはただ両手を上げて無抵抗になるしかなかった。

 目の前には、拳銃を俺たちに向ける五人の黒服の男らが。

 やべぇ……。震えが止まらない。マズイ。マズすぎる……! このままだと……あの予知夢と同じ展開になっちまう!

 何か違う行動をしなければ。そう思うものの、人は銃の前では無力だった。

 銃口を向けられた俺たちに出来ることは、ただ両手を上げて無抵抗でいることだけだった。


 奴らはあの時の予知夢同様、何の躊躇もなくトリガーに指をかけ──。

 い、いやだ! 死にたくねぇ──っ!!


 バリン!!


 刹那、俺たちの後ろの窓ガラスが破られ、そこから入ってきた三人が黒服の奴らに向け、パン! と発泡した。


「!?」

「くそっ!」


 その瞬間、一番先頭にいた黒服の男が片手をヒョイと上げて何やら合図を送ったかと思うと、その瞬間一斉に退散していった。


「悪い。待たせた」

「危機一髪でしたね」

「危ない危ない」


 その三人は阿久津さんが率いる組織だった。


「……ど、どうして……」


 そう問いかけながらも、さっきまでの緊張が抜けてしまいストンと床に腰を落とした。


「よ、よく分かんないけど助かったんだよね?」

「そのようだな」


 有野も俺と同様気が抜けてその場で腰を下ろしていた。

 桜井は冷静に振るっているものの、明らかに緊張が抜けて安心した顔になっていた。


「み、皆さん大丈夫ですか?」

「ああ。ちょっと緊張が抜けただけだ。それより、どうして……?」


 そうか……もしかして……。


「どうしてって、そんなの昨日あなたからこの場所に襲撃が来るって教えてもらったからに決まってるじゃないですか」

「そうか……良かった……」


 長原さんは敵じゃなかったんだ……。


「なあ杉田。一人で納得してるところ悪いけどちゃんと説明してくれるか?」


 ああ。流石にちゃんと説明してやんなきゃだめだよな。


「ああ。実は昨日、長原さんを見送る時に打ち明けたんだよ。今日この場所に襲撃があるって。でもこの時はまだ完全に長原さんを信用してはいなかった。だから賭けに出たってわけだ」

「え? そんな、信用してなかったんですか? ひどい……」


 有野と桜井と襲撃の対策について話し合いをしている時、俺は心配になったんだ。ただの大学生三人が拳銃を持った奴らに対抗できるのかと。

 それを考えた時、答えは簡単だった。無理だと。その時から俺は協力者を探していた。そんな時、長原さんが思い当たった。


「じゅあなんだ。杉田は長原さんのことを初めからあんまり敵とは思ってなかったのか?」

「ああ。まあな。なんたって初めて会った時にあんなに仕事だか人間関係だかに苦悩してたからな」

「す、杉田さん。何喋ってるんですかっ」

「あ、すまん。と、とにかく。まあひとまず無事で良かった」


 本当にそれに尽きる。

 話を聞いていた有野と桜井も何とか納得したようで、ふーんと鼻を鳴らしながら事を飲み込んだ。


「さて、じゃあとりあえず改めてここに来たわけだし組織が狙っているものについて解説をしておくか」


 と、そう切り出したのだが、すぐさま阿久津さんに待ったをかけられた。


「その前に、これをどうにかしなければならないんじゃないかい?」


 阿久津さんの指差す先には──さっきの三人の強引な入室によって、ガラス窓に大きな穴が空いていた。


「あ……やべぇじゃん」

「………僕は何も知らないよ」

「私もだ。ただ座っていただけだから無関係だ」

「って何あんたら二人逃れようとしてんだよ! 俺ら全員の責任だろ!」


 そう叫ぶと、長原さんが「ちょっと待ってください」と言って話を遮った。


「この窓ガラスを割ったのは我々です。というか阿久津さんです。と言うわけで全責任は阿久津さんにあります」

「なっ! 救おうと必死になった結果勢いよくやってしまっただけではないか!」

「それが問題です」


 長原さんって親しい人にはこんなに饒舌になるのか。

 さて、このまま放っておいても話は終わらなそうだし、ここは一つ俺から提案をだすか。


「なあ、一つだけいいか。もしこの窓ガラスを割ったのは我々ですってあんたたちが名乗り出たら、普通に通報されかねないんだが」

「……そ、それもそうですね」


 大学関係者からすればこの人たちは全員無関係者だ。普通に考えて損害賠償請求されかねない。

 その点俺らが名乗り出ればまだ厳重注意とかで済む──はずだ。いや、交換費用は払うかもな……。


「まあ、確かにな……。分かった」

「分かりました。ならあなたたちに任せます」


 安田さんも俺を見ながら一度頷いてくれたので、どうやらみんな納得してくれたみたいだ。

 実際この人たちは俺たちの命の恩人なのだから、これくらいは恩返しとして受け取ってほしい。


「それでは我々はそろそろ」

「じゃあまた明日、6時にここに来てください」

「分かった」


 そうして阿久津さん率いる組織は帰っていった。


「………も、もう大丈夫なんだよね?」

「ああ。これで大丈夫のはずだ」

「流石の私も銃口を向けられた時死を覚悟したぞ」


 桜井の言う通りだ。俺もあの瞬間は本当に覚悟した。


 それから、窓ガラスのことはたまたま外を歩いていた教授に見つかり、言い逃れなど出来るはずがなく、終わりを覚悟したのだが、桜井が硬球を教授に提示し、これのせいで割れたと訴えたことにより事なきを得た。



***



 することの無くなった俺たちは、大学を出て別れるところまでは一緒に帰っていた。


「あーー本当、数万円の出費は無くなりそうで安心だ……」

「いやーよかったよかった」


 呑気にそう言う有野を見て、俺はイラッとした。


「よかっただと? 一番初めに教授に見つかった時、真っ先にそれじゃ! なんて言って帰ろうとしたのはどこのどいつだ!」

「……え、それ僕?」

「お前以外にそんなクズはいねぇ!」

「まあまあ。結果的にはだれも払わずに済んだんだから良いじゃん」


 はにかみながら言うその顔を見ていれば、怒りもどんどん湧いて出てくるものだ。

 まあ、そりゃ結果的には誰も払わなかったが、それは結果だけを見た時の話だ。そこまでの道のりが本当に命懸けだった。と言うか予知夢では一回死んでんだよな……。

 しばらく無言で歩いていたが、信号に捕まった時に桜井が口を開いた。


「しかし、今回のことで杉田の予知夢が本物である確証が得られたな」

「ん……。そっか。そういえばそうだね」

「今後はお前の夢はなかなか重要になってくるな」


 あまり当てにされては困るんだけどな。なんせ仮に予知夢を見たとしてもそれが、いつの事か──なんて、そんなのわからないしな。



 それから翌日。俺たちは再び大学の会室に集まっていた。

 その会室にはすでに阿久津さん、長原さん、安田さんの三人ともが揃っており、改めて話し合いをする準備は整っていた。

 さーて、この場において司会進行を自ら行ってくれそうなのはだれだろうな。

 有野と桜井を交互に見比べる。が、何故か視線を二人とも逸らしてしまった。

 どうやら俺がするしかないらしい。


「さて、まずは改めて。昨日はありがとうございました。来てくれなければ間違いなく死んでいました」

「そんな、私たちはするべき事をしただけですから」


 いや、そうは言うが実際そうなんだよな。予知夢では死んでいたのだから。

 一通りお礼を済ませ、場の空気が落ち着いてきたところで話を切り出した。


「とりあえず、あなた達の上の組織が狙っていると思う機械について、見てもらいたい」


 そう言い終えると、有野は待っていましたと言わんばかりにニヤッすると、早速手を掲げて飛行装置に注目させ、


「これこそが! 僕が作り出したあの飛行装置っ!」

「いや、もう今の段階ではわたしが作り出したと言っても過言ではないぞ」

「なっ! 僕だって手伝ってるよ! それに初期構造は僕が考えたんだから僕のだよ!」

「いや、私のだ」


 こいつら人の前だって事を完全に忘れてるんじゃないか?

 流石に三人も呆れてきるのではないかと思い、恐る恐る振り返る──が、二人は呆れるどころか口をぽっかりと開けてとても驚いている様子だった。

 長原さんはすでに説明を詳しく受けたのでどうと思わないが、二人はまだ少し前に見ただけなので驚いているのだろう。


「………こ、これが……」

「ひ、飛行装置……」


 二人が驚いているのにも気付かず有野も桜井は言い争っていた。


「なあテメェら今言い争うのは失礼すぎるからやめてくれないか?」

「あ? これは僕の今後をかけた重要な討論なんだよ! 失礼なんて関係ないね!」

「そうだ! 私の研究成果が全て奪われるなど言語道断だ!」

「テメェら一旦黙れ!」


 叫ぶのと同時に俺はレールガンを一発壁に向けて発射した。

 それによりさっきまでの罵声は全て消え去り、室内に沈黙が招かれた。


「つーわけで話し合いを続けましょう」

「あ、あの、今のは……」

「擬似レールガンっす」

「ぎ、ぎじれーるがん?」


 って、別にこれは説明する必要はなかったか。無駄に兵器を紹介してしまったではないか……。

 一度咳払いをし新たに注目を戻したところで改めて紹介に戻る。


「と、とにかく。見てもらいたいのはこの飛行装置の中組み込まれている──この装置です」


 言いながらガラスでできた筒状のものを指差した。


「こ、これは?」

「これはいわゆる発電機のようなものだと考えています」


 ここからは桜井が説明するべきだと思ったのだろう。自分から口を開き説明を開始した。


「は、発電機?」

「こんな小さなもので……一体どうやって?」

「仕組みはわからない。けれどものすごい電力を生み出していることだけは事実だ」


 一通り説明を終えたのだが、安田さんはじーっと筒を見つめ続けていた。

 何か知っていることがあったのだろうか。見つめるのを終えるまで俺たちは待ち、視線を戻した所で桜井が問いかけた。


「何か知っている事があったのか?」

「いや、でも未来のエネルギーって言ったら、核融合炉だよなと。でもこれは謎の物体が中に入っているだけだ」


 核融合炉か。確かに次世代のエネルギー発電としてそれは存在する。けれどきっとこれとは無関係に違いない。

 何故ならこんな中身が見える構造ではないはずだからな。


「さて、じゃあそろそろ飛行装置について説明しましょうか」

「あっ! はいはい! それ僕が説明するよ!」


 またもや待ってました! と言わんばかりに今度は手まで上げて主張してきた。

 けれど今回は桜井はさっきと違い有野のように前に出てこなかった。

 これが成長する者の差なんだろうか。


「じゃあ今の時間体育館が空いてるんでそこで見せますか」

「そう来なくっちゃ!」


 すぐに有野はダッシュで体育館に向かって行った。

 どれだけ飛行装置見せたいんだよ。ていうかあいつに先に行かれたら、このクソ重たい飛行装置をどうやって体育館に運べば良いんだよ……。



***



「くそっ。次は絶対にあいつに装着させる!」

「ま、まあまあ……」


 やっとのとこで馬鹿みたいに重たい飛行装置を、阿久津さんと安田さんの協力の元体育館に運び込めた。

 そういえば桜井が飛行装置を運んでいる俺たちの姿を、ただじーっと見つめていたのは一体何だったんだろうか。まあ良いか。

 それよりも……もう動力の使わない移動は絶対にしないからな。この機械。


 さて、どこからかいそいそと戻ってきた有野は、礼の一つも言わずせっせと飛行装置の準備を進め始めた。


「おい有野。さっきなんで先に行ったんだよ! これ動力使えば楽に移動できるけど動力使わなかったらクソ重いんだぞ!」

「いやー、さっきは体育館の許可取りに行ってたからね。仕方ないよっ」


 そうわざとらしく言う有野の背中に、俺は何も言わずに飛行装置を背負わせ、腕にも強引に機械を装着させた。


「さて、じゃあ動きをお見せしますよ」

「いや、ちょっと待ってよ! 僕これ操作できないんだけど!」

「開発者だろ? だったら出来るだろ。な?」


 目配せで桜井にも乗るように言う。


「──ああ。そうだな。最初の開発者はお前だったな。だったらお前が操作できなくてはおかしいな」

「ちょっ! 何でこういう時だけ僕を開発責任者みたいにするのさ!」

「だって本当のことだろ?」

「さ、頼むぜ責任者っ」

「開発者らしい素晴らしい操作を期待している」

「ひ、ひえぇぇっ!!」


 そんな黒い光景を一から全て目の前で見ていた三人は、ただ、帰って良いか? と思うしかなかった。

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