第二章 庇委籠 ①
肌寒くなってきた今日この頃、今日は紅葉海依さんの相談が入っている。いつものように紅葉海依さんの近況報告などを聴いていた。
「今日の晩御飯が何を食べたいですか?」
「えぇ―と。せん」
紅葉さんが今夜のご飯が何を食べたいかを言おうとした瞬間、内線で呼び出された。緊急の呼び出しのようだ。
「急に内線をかけてきたということは急ぎのようですね。少し待ってください。相談中だったので」
と内線の相手に断りを入れると紅葉さんに相談を中断することを伝えた。少し渋っていたが、「大丈夫、今度はちゃんと時間を取ってね」と言ったので、約束をすると事務室の途中まで一緒に行き、別れ際に挨拶をして分かれると私は、事務室に急ぎ、向かった。事務室に入るとみんな慌ただしく動いていた。すると、私の姿を一人の女性が確認するとこちらに寄ってきた。
「急ぎだから、車の中で話すわ」
と女性が言うと彼女の言われるがままに車に乗った。こんなに急ぎということは、私しか解決が出来ない案件のようだ。どこに向かうのだろうか。
「今から、静岡の方まで向かいます。今から詳細を話します。」
彼女からの話の内容は、WODが確認されたとのことだ。ただし、今回は非常に困った内容になっている。WODの能力が人を容易に殺すことができるという情報が入っている。それ以外にも、半径1km以内の侵入を禁じていて、さらに、半径2kmは要注意範囲に指定されている。能力の範囲がでかいのではなく、安全策を講じてこうなっているという話だ。能力の詳細の確認が危険を伴うため、私の能力の出番というわけだ。現地にできた対策本部まで道中、車の中で綿密な打ち合わせを行った。一通り打ち合わせが終わった。
「どういった経緯で発見されたのですか?」
「ご両親らしき人から警察に子供がWODであると連絡があり、即座に警察による侵入禁止処置をして、こちらに対応を頼まれて今に至るという感じです。」
「分かりました。」
「被害状況は?」
「今のところないという風に伺っています」
少し考え事をしていると対策本部に着いた。そこに、警察の人たちが待っていた。
「状況はどのような感じですか?」
私が聞くとあまりいい返事ではなかった。何もできない状況が続いているようだ。現場にいるWODであるのは、小学生ぐらいの娘さんだそうだ。連絡があって、6時間経っている。肌寒い時期である。その中で6時間もいるというのは非常にきついだろう。それを聞くと、私は直ぐにご飯や防寒具、テントなどを持って現場に向かった。私は現場までの道中違和感を覚えた。なんで、こんな人気のないところに来ているのがおかしい。なんで、こんなに木々が鬱蒼としている所なんだ。人気が全くないな。そんなことを考えていると子供を抱きしめている親らしき人たちと抱きしめられている子供がいる。これは……。子供が私に気付いた。子供が話し始めた。
「私がお父さんとお母さんを殺したの。」
私はどういう返答をするのか迷った。この子は泣いていない。こういった場合は、泣くのが普通ではないのか。私は、慰めるべきなのか?それとも励ますべきなのか?そもそも、この子は、私が近づいてきたことに何も思っていないのだろうか?迷った結果、私は。
「……。」
私は、とりあえずこの寒さや空腹をどうにかすべきだと考えた。子供の生命を第一に考えた。私は、持ってきた防寒具を子供に渡そうとした。彼女は、防寒具を受け取った。
「少し待ってください。雨風防げるようにテントを張ります。」
私は説明書を読みながらテントを淡々と立てていた。すると、彼女は、私のテント設営の手伝いをしようとしている。断るのも手だが、ここは一緒に組み立てようか。
「手伝ってくれる?」
彼女は頷き、了承した。彼女と一緒にテントを組み立てながら話すことにした。
「そういえば、自己紹介がまだしてなかったね。私は、小彼然士と言います。あなたの名前を教えていただけますか?」
「うん。私は、子乃。祝音子乃です。」