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第一章 陽解 ①

 白を基調とした、清潔な部屋でどことなく、安心感がある無駄に一般家庭のリビングを模した部屋である。その部屋で黙々とPCで作業をしている男が一人いた。私は、ここの巨大な相談施設ただ一人の考察者だ。私の話は後々分かるだろうから大丈夫だ。私は誰に話しているのだろうか?突然、ガッシャと扉を勢いよく開けてきて入ってきたのは通気性の悪そうな服を着た一人の少女だった。

「先生きたよー。お話をしよー」

 と元気な声で少女は言った。彼女は部屋に入り、通気性の悪そうな服を脱いでソファの上に置いた。彼女は部屋の中にある対面になっているソファに先に座った。私は、PCデスクにある紙を持って彼女の対面に座った。さぁ、お話合いの始まりだ。彼女が誰かというと紅葉海依もみじかえだ。ここの相談を受ける日常生活困窮者である。専門用語で言うとWOD・WED(Wishing-Ordinary-Day・Wishing-Everyday)だ。彼女たちを皮肉った用語で日常生活を満足に送れない者たちが普通の生活を送りたいと願っている人たちことだ。紅葉さんはいたって普通に見える。紅葉さんのどこが日常生活を送れないかというと……。一滴の汗、私が机に置いた紙に落ちた。ジュワァー。これだ、紅葉さんがWODであるのは、紅葉さんの体液のすべてに溶解性があるからだ。紅葉さんにとってその溶解性のある体液が汗であり、血である。その体液を作る体になってしまっている。あの通気性の悪そうな服もこれが原因で紅葉さんは着ている。


「ごめんなさい。紙を溶かしちゃって」

「大丈夫。紙なんて印刷すればいくらでもあるから」

 正直な話いつものことである。特に気にはしていない。しかし、紅葉さんは少しやってはいけないことをしたような表情が見られる。

「さて、今日は定期健診だから最近の困っていることとか嬉しかったこととかを話をしようか」

 と早速今日の話題について話を進めた。そう、定期健診である。このような、日常について定期健診をやる理由はいくつかあるが理由の一つとして、WODの中でも一般生活で生活ができない、或いは、生活をする上で接触ができない人などの比較的重いと診断される者が普通に会話することが精神的安心に繋がるからである。まぁ単純に紅葉さんがこのような形式にしたいと望んだからであるが。紅葉さんは、日常生活について話を始めた。紅葉さんは、最近の生活について言ってくれた。最近では、映画を見ているという話を聴かせてくれた。特に、青春映画や恋愛映画を最近はおもしろいらしい。困ったことは、最近の勉強が難しいというのだ。まぁ、学生らしい悩みだな。

「どんな映画を見ているの?」

「今は、話題の『さよなら灰色(かいしょく)』を見ました。」

「知らないな、どんな映画?」

「恋愛系の映画で。一度も恋をしたことがない女の子が助けてくれた男の人に恋していくって話だよ。女の子が不器用ながらも男の人のために今まで興味のなかったお化粧をしたりとかをしたり、男の人が好きになってもらうために考えて、悩んでいるのが良いの。」

 めちゃくちゃ早口で話している。これが俗にゆう、オタクの人が好きなことを話す時に早口で話すとかいうあれかな。

「へぇ~。映画はあまり見ないから分からないな。もし、良かったら仕事の合間とかで見てみたいから何かおすすめ教えてほしいな。『さよなら灰色』はおすすめかな?」

「う~ん。『さよなら灰色(かいしょく)』は見てほしいけど。う~ん。先生はあまり映画見ないからもっとみんなが見ているやつで……。そうだ。今やっている洋画の『Zero・Seven』を一緒に見ようよ」

 なぜか一緒に見たいという風になっているが。まぁ、良いか。

「時間があるならいいが、最近ますます忙しくなって休みが取れないからな。そうだな、休みが取れたら見に行ってもいいよ」

 そう言うと紅葉さんは嬉しそうだ。こんなおっさんといても楽しいものなのか。映画をどこで見るかって。そりゃ、施設内だけど。この施設には、入居者が楽しめるように娯楽施設を作っている。申請すれば借りられる。今回は、シアタールームで映画を見るつもりだろう。

「映画を見るのもいいけど、学校の宿題とかやっていますか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「そうか」

 学校生活についても少し、聞きたいな。ちゃんとやれていたらいいけど。

「勉強は、難しいとかない?」

「う~ん。大体は大丈夫だけど理科をもっとできるようにしたいな~」

 と紅葉さんは言ってくれた。どうして理科なのだろうか。少し気になるな。

「どうして理科をもっとできるようにしたいのかな?」

「前に授業で中和反応についての実験を見たの。なんか、溶かす液体が溶けなくできるようになるのが不思議で。」

「へえ~。今の授業で実験ってやるの?」

「ううん。動画を見るだけだよ」

「危ないものもあるし、用意するのが面倒だし、動画の方が良いか」

「うん」

 まぁ、体験させるのも良い経験にもなるだろうが、安全面や時間等を考えると……。そのあとも学校生活について話した。紅葉さんは、友達と話したことや友達から聞いたことを話してくれた。

「学校の授業とかは慣れたかい」

「もう、この形の学校も4年だよ。ベテランだよ」

 紅葉さんは、自慢げに答えてくれた。紅葉さんからの返答で分かる通り、紅葉さんは普通に学校に通っていない。紅葉さんは、全ての授業をオンラインで受けている。少しでも汗が出ていれば、相手を傷つけ、物を溶かすような紅葉さんは一般の人と暮らすことは難しい。もし、暮らせても、紅葉さんは、あの通気性の悪そうな服を着て一切体液が出ない状況を作りださないと生活すらままならない。そのような生活は、ストレスは凄まじいものとなるだろう。紅葉さんの性格からしても相手が傷付けることはしたくないだろう。ふと、腕時計を見た。そろそろ健診終わる時間だ。

「よし、そろそろ終わろうかな」

 と私は言った。紅葉さんは、少し不満げな顔をした。どうしてだろう。すると、立ち上がり、こちらによってきて手を握ってきた。

…………。

まぁ。何ともない。どうしてかは、後々分かるだろうからいいだろう。それよりも紅葉さんがくっついてくる状況、この状況を何とかしなければならない。

「離してくれないか」

「あと少しだけ……」

 と紅葉さんは少し照れながら言った。いつもこの調子だよな。最近は少し慣れてきた。

「じゃあ。5分だけなら」

「うん」

 手を握ったまま座った。特に会話もなく5分経った。

「5分経ったよ」

 と私は言うと少し不満げだが、離してくれた。紅葉さんは不満げな顔のままあの通気性の悪い服を着た。立ち上がり、扉の前まで行くと。

「ありがとうございました。先生、またお話ししようね」

 と紅葉さんは満面の笑みで言った。そして、紅葉さんはこの部屋から出た。私は廊下に出て、紅葉さんが見えなくなるまで見送った。

 

 私は今日の話の内容や表情、心的状況を報告書にまとめる作業に入った。面倒くさい、正直これが一番面倒だ。ただ、報告書を書き続けなければ、後任が見つかったときに実績を残しておかないといけない。ある程度情報の正当性を示すには量と質がいる。他にも理由はある。過去のデータからある程度予測できるようになるかもしれないし、心理的な情報は合っていると思ってはいけないからだ。特に、私は()()()()()()()。データと照らしたり、できるだけ多くの情報を基に施行を続けることしかできない。紅葉さんの過去のデータを見ると昔のことを思い出す。紅葉さんは初めて来た。あの日のことを。


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