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傭兵の生き様

作者: 水京

どうしたもんか。

今回は完全に負け戦だ。

ロクでもない雇い主様に使い捨てられようとしている。


今回の命令はこの寂れた村の防衛。

既に村人の避難は終わってる。

相手の補給路にちょっかいを出せる位置だから押さえておく、ぐらいの意味合いしかない。

国境線の小競り合いが終わるまでの楽な仕事のつもりだった。


だが相手様は違ったらしい。

小競り合いで終わるつもりがないようだ。


ここの戦力はウチの傭兵団が20数名、正規兵様が僅か2名。

予測される敵兵力はその数倍。

守り切れるハズもない。

って状況なのに、指揮官様は撤退を選ばない。

戦略的な問題なのか、プライド的な問題なのかは分からない。一端の傭兵に分かるハズもない。

分かるのはここの防衛線をやるってことだけだ。


傭兵は雇い主の命令に従う義務がある。

雇い主は指揮命令権を持つ指揮官を決め、指揮官と傭兵は共に行動することを義務付けられている。

危険な戦場であっても傭兵のみの配置は許さないようにしている。

この義務で傭兵が使い捨てられないようにしてる訳だ。


だから指揮官様はもう一人の正規兵様を代理を指名して自分は単騎でとっとと逃げた。

「本隊より援軍を連れてくる!」

だと。


嘘に決まってる。

援軍要請なら自分で行く必要なんてない。


残されたのはウチの傭兵団と正規兵の指揮官代理様だ。

指揮官代理様は成人したてのガキで、見るからに頼りない。

こんなヤツが戦場に立って指揮なんで出せるワケない。

つまりオレ達は捨て駒にされたってことだ。


指揮官代理様からコトの顛末を聞いたのが今日の夕方。

明後日には敵さんがやってくるらしい。


それを知ったとき、みんな口々に言った。

「こんな戦はやってらんねぇ。」

「指揮官様を殺して逃げちまえばいい。」

「敵さんは傭兵の裏切りを喜々として吹聴するに決まってる。」

「信頼を失った傭兵団に未来はねぇ。」

「どうする、団長。」


団長は言った。

「命令通りにやる。準備しろ。」

絶望的な防衛戦を選んだ。


負け戦をやりつつ生き延びるつもりだ。

団長は歴戦の猛者だ。

今までもこんなことはあったし、それを乗り越えてきた。

経験に裏付けられた自信がある。


だけど、オレはそうだと思えない。


ウチの団では、いつも一番キツイとこは団長がやってくれる。

殿だったり、囮だったり。

そんなシンドイ役を率先してやるから団員からの信頼は厚い。

もちろん俺も尊敬している。


でも団長は衰えてきてる。なんといってもトシだ。普通ならとっくに引退してる。

だから最近の仕事は酷い。

以前は団長一人でやれてたことができなくなってる。

俺にまで外れ役が回ってくることも増えた。

今回こそダメかもしれない。


オレはこの団の古株って訳じゃない。

前の団が解散した時に流れで入っただけだ。

多少の恩義はあるが命を懸けるほどじゃない。

団を見捨てて逃げることも考えているが・・・


代理指揮官様を説得できれば上出来だ。

防衛命令を撤回してもらえば、ここに留まる必要はない。

だけど、無理だろうなぁ。

何らかの義務で縛られてるからこそ、代理にされたんだろうし。


だけど諦めるワケにはいかない、死にたくない。

指揮官代理様のところに行って話を聞いてもらうことにする。

他の団員の協力なんか得られない。団長が決めたことに逆らうことになるからだ。





翌日、オレ達は防衛戦をすることなく撤退していた。


昨夜、オレの説得により代理指揮官様に負傷して頂いた。

対外的には敵さんの夜襲により意識不明の重傷。

指揮命令者の負傷離脱のため、本国に命令を確認って訳だ。


勿論、敵さんの夜襲なんてなかった。オレと指揮官代理様のでっち上げだ。

指揮官代理様も正当な理由があれば逃げたかったってことだ。



結局、オレは生き延びた。

団長達も無事だ。皆生きてる。だってのに。


オレは仕事を失った。傭兵団をクビになった。

団長直々に言い渡された。独断専行は許されないそうだ。

ワケがわからなかった。皆死ななかったんだからいいじゃないか。

納得できなかった。


クビになったオレは別の傭兵団に行った。他にできることなんてない。

そこでおとなしくクソッタレな仕事を続けている。


だけとあるとき分かっちまった。なぜクビになったかを。

元いた団が壊滅した話を聞いたんだ。

やっぱりクソッタレの負け戦に参戦してたらしい。


なんてことはない、団長は死に場所を探してたんだ。

負け戦の中、団と団員のために死にたいだけなんだ。

老いて引退なんて選べない人だったんだ。



傭兵なんて仕事も人間もクソったれだ。


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