【記録2】任務報告、追加任務①
観測記録を記す。王国歴1025.7××
※ベルカ、やる気がない
※エリオット、自覚が無い
※ソフィア(性別・女)趣味・ガーデニング、
魔法軍長官。魔術学校理事長。士官学校顧問。
※ヴォルフガング(性別・男)趣味・
魔法軍司令官。拘束魔法。
バタン!!!
「ババア!! また騙しやがったな!!」
「敬語ぉ!!! 上官への態度を改めろ!」
バチィ!! ゴン!!
「痛ぇわ!! いやがったのか、ジジイ」
「おやおや、可哀想に。害獣が罠にかかってしまいました」
「可哀想ですよ。離してあげて下さいね」
ーーと、言う所から、任務報告は始まった。うん。状況説明をしよう。
ベルカ、エリオットの二人は任務を終え、イチ王国内にある魔法軍本部、長官の執務室に、報告に来ている。
執務室と言っても、事務的な様相では無く、聖堂の様な雰囲気の部屋だ。
今、この部屋には四人の人間がいる。
まずは、一人目。
ドアを勢い良く開け、怒鳴り声と共に入って来た男は、魔法軍特務員ベルカ。
現在、皮ベルト状の拘束器具で、身体をぐるぐる巻きにされている。そして、拳骨もくらっている。
そして、二人目。
バチィ!! と言う音と、ゴン!! と言う音を立てた者。
二人の上官である、魔法軍司令官ヴォルフガングだ。
ゴン!! は、不敬な部下への、鉄拳制裁の拳骨の音。
バチィ!! と言うのは彼の使う魔法、拘束魔法でベルカを捉えた音である。
拘束魔法とは、彼の使う珍しい魔法だ。
魔力を凝縮して、様々な形状の拘束器具を生成し、捕えた者に麻痺効果を付与し、体力・魔力も強制的に奪うと言う、一度捕まれば、完全に逃れられない恐ろしい魔法である。
何と言うか、え? そう言うプレイなの? みたいな珍しい、マニアックな魔法である。
続いて、三人目。
彼を心配している様で、全然心配はしてない、害獣、っと言った男である。
軍医のエリオット。物腰は柔らかだ。今は。
あと、もう一人、最後に優しい言葉を放っていた女性がいる。だが、とりあえず置いておいて、後ほど記述する。
まずは、先程、拘束魔法を紹介した、魔法軍司令官ヴォルフガング。
彼について語ろう。
深く被った軍帽。
そこから見える、元は鮮やかな金色であっただろう髪は、少し色素が落ちており、年月の推移が感じられる。
だが、衰えていない濃い碧い瞳からは、生涯現役を思わせる力強さを感じる。
厳格・厳粛と言う、軍隊をイメージ通り体現した様な、風貌の男である。
寡黙ではあるが、一言一言が重く、威厳を感じる。
彼を、信頼し、尊重し、付き従う部下は多い。とある、二人を除いて。
さて、そろそろ状況整理の記述ばかりでつまらないな。
前置きが、長くなった。記述を進める。
◆
先程も書いたが、ベルカ、エリオットは、任務の報告のため、上官の執務室に来ている。
しかし、ベルカの態度が悪いので、上官であるヴォルフガングに怒られていて、報告の話は進んでいない。
そして、ベルカは上官に拘束され、たしなめられても、全く反省の色を見せず、態度を改める様子は無い。
彼らは、会話をしている。
「プレイなの? だよね。拘束魔法って何?! 絶対、未知の快楽への執念から体得した感じだろ! いやぁ! 離してぇ! 勤務時間中にマニアックプレイされるぅ!!」
「急に、何を言っている?」
「んん? いや、分かるだろ! 性癖倒錯ジジイ! 都合よく話が通じねぇなぁ? ジュリウスを彷彿とさせてムカつくわ。親子だなテメェら昔から、、、ぐへぇ!!」
ゴン!!!
「不敬!! 敬語!!!」
態度を改めないベルカは、もう一撃くらった。
「痛いって!! 二回もゴンゴンかましやがって、あと106回で年明けるわ!!」
「何を言っている」
「除夜の鐘じゃないですか? まだまだ明けませんねぇ」
「……、お前も、何を言っているんだ、エリオット」
「えーと、、、あ、ソフィア様が、寂しそうにこっち見てますよ」
ぐだぐだになっている状況の中、エリオットが一石を投じた。
彼らの側には、とても美しい女性が佇んでいる。
そんな彼女が、一言一言を保存したい、とても美しい声を発して、あ、そろそろ混ざって良いですか? みたいな感じで、彼らのぐだぐだの輪に入って来た。
「とりあえず、ヴォルフガング、ベルカが可哀想ですよ? 離してあげてくださいね。二人共、任務お疲れ様でした」
様子を見ていた美しい女性は、エリオット、ナイスアシスト!! と、思いつつ、三人に声をかけた。
優しげに、解放を促すのこの女性。
そう、この部屋にいる、最後の四人目。
この女性についても語ろう。
美しい。その一言に尽きる。
美の因果の、全てを手繰り寄せた様な、整い過ぎて不自然な程とても整った、とても美しい姿をしている。
慈愛に満ちた、微笑みを携えた美しい顔。一本一本を丁寧に、世界最高峰の職人に寄って作られている様な、ゆるくウェーブする美しい長い髪。
美しい身体を、他者が着れば美しいが、彼女が着ては、その美しさを隠匿する無意味な装飾でしか無い、ローブで隠している。
彼女は、とても柔らかな色彩で構成されている。
この美しく、柔らかな彼女を前にしたものは、皆、彼女の側に留まり続け、二度と遠くに、離れて行きたくは無くなるだろう。
この美しいとしか形容が出ない女性は、魔法軍長官、魔術学校理事長、士官学校顧問。大魔女ソフィア、その人である。肩書きが多いな。
「うふふ、褒めますねぇ」
「ソフィア様??」
「はい。ヴォルフガング、ベルカを離してあげて、下さい」
「はい。了解しました」
長官であるソフィアに美しい声で言われ、ヴォルフガングが、ベルカの拘束を解く。
拘束を解かれたベルカは、ぶつぶつ言いながら、体をほぐしている。
「ありがとうございます。ヴォルフガング。それで、貴方達、遺跡の教団はどうでしたか? 私達と仲良く出来そうな、方々でしたか?」
「はい。全然です! 何人も国民攫った奴らと、仲良く出来るわけねぇだろ? 本当に仲良しになって街中に解き放つぞ? 良いのか? 初めから蹂躙して来てくれてありがとう。またよろしくね! って可愛く喘げよ、大魔女様よぉ?」
「っベルカァ!!!!!!」
長官であるソフィアを全く敬わない、ベルカにの発言に対して、ヴォルフガングがすっごい大きい声をあげた。
「ひぃ! びっくりした!! いや、声デケェわ! 司令官、ひどくない? せっかく頑張って来たのに、殴るし怒るし、パワハラだよぉ、うぇーん。もう僕、無理。エリオット先輩、報告よろしく」
「不当な労働環境に、泣いちゃったけど、、燃えてた僕に丸投げかよ。うーん、そうですねぇ、、僕が調べた範囲では、汚い悪事の後にゲロ吐きそうでしたね。やるにしても、きちんとゴミ分別して欲しいものです。ともかく、もう、遺跡ごと、彼が焼却処理しましたし、この件は、清掃完了で良いと思います。逃げた信者も、解剖しても生ゴミしか出ない様なゴミ袋しかいなかったし、何も出来ないと思います。報告は以上です」
「……、遺跡ごとだと?」
二人の不敬な態度に続き、遺跡を破壊、と聞いて、ずっと怒っているヴォルフガングが更に怒った。ずっとピリピリしている。
そして、ソフィアは美しく微笑んでいる。
「ヴォルフガング。大丈夫です」
「……分かりました。……、エリオット、お前は少し、言葉の選択を改めろ」
「え???! 僕、ちゃんと敬語を使ってますよ??」
「……、、」
ヴォルフガングのこめかみかには、血管が浮かんでいる。
ソフィアは報告を受け、慈愛の微笑みを崩さず、美しく言う。
「それでは、任務終了ですね。お疲れ様でした。遺跡は貴重な歴史的財産なので、残して欲しかったですが、仕方ありません。そうですねぇ、、ニ人とも元気そうなので、もう一つお願いがあるのですが、」
「え?! 帰って早々、まだこき使われる気配がしてるんだけどぉ?!」
「……ベルカ、敬語」
「しかも、お願いって言うのやめろや。僕ら、上官の命令に従うしかない軍畜ですよ? どうせ、やる事になるんだから、回りくどい言い方やめて、簡潔にオーダーを喘げや」
「敬語ぉ!!!!!」
「ひぃ! 声デケェ!! うぇーん」
不敬しか無いベルカに、ヴォルフガングがすっごい大きい声を、再びをあげた。
ベルカは泣いた。
「お願いですよ? 無理なら断っても良いですし、皆さんのお願いや意見も、広く取り入れます」
「じゃあ聞いて下さい! 俺、賃金そのままで、週休七日制が良いです!」
「え、じゃあ僕も、何の利益も上げない趣味の研究に週七日没頭して賃金そのままで、更に研究費も出資して欲しいです!!」
「うふふ。斬新なご意見ですね。検討しておきます。それで、そろそろお願いを、話しても良いでしょうか?」
「まぁ、聞くだけなら、聞いてやるよ。長々聞くと眠くなるから、簡潔に頼む」
「……」
ヴォルフガングのこめかみの血管が、破裂へのカウントダウンを刻み出した。
「それでは、簡潔に。今、本部に招かれざるお客様がお一人来ています。なので、先程、軍事演習と言う形で、今本部にいる全員に演習場に集まって貰いました。あなた方も演習に参加して、訓練をするフリをしながら、集まった隊員の中に紛れる、招かれざるお客様を、こっそり見つけ出して来て頂けませんか?」
「招かれざる? 何? え? 簡潔どこ行った? オブラートがすげぇな。何言ってる全然わからねぇ」
「あら、それではもっと簡潔に。潜入犯が演習場にいるので、こっそり見つけて、ふん捕まえて来てください」
ソフィアはベルカに誘導され、美しい慈愛の微笑みを浮かべたまま、彼女の美しい口には似合わない、言葉を言い放った。
「!、ソフィア様、、、」
「あはは。簡潔!!」
「そうだな。でも俺は、遠慮しとく。もう眠いし疲れたから、帰って寝る」
「ええ?! 凄いね君!? 散々煽っておいて、この流れで帰る?! じゃあ、僕も、医務室に戻ろうかなぁ、、」
「……」
……、ブチ、、
「ん?」
「何か音しました? 概念?」
カウントダウンが終了した。
ヴォルフガングの、我慢の限界が来た。
割と耐えていたと思う。
「……お前達の様な、やる気も無い、不敬な隊員はもういらん」
先程までの怒声とは違う、静かな声でそう言うと、ヴォルフガングは手を広げ、両手から強い魔力を解き放った。
ベルカ、エリオット、ニ人の周囲に、人一人が入るか入らないか程度の大きさの、恐ろ
しい様相の、吊り篭、が生成されて行く。
ヴォルフガングの拘束魔法に寄って、人を捕え、断罪し、悔い改めない者を死に至らしめる、無慈悲な拷問器具が生成されて行く。
「五日五夜、城壁外に吊るす。己の不敬を悔いながら、屍肉漁りの餌になれ」
ガシャン!!! ガシャン!!!
捕えられたら最後、確実に、惨たらしい最後を迎える、無慈悲な吊り籠が、ニ人に迫り来る。
「げぇ!! ガチギレしたぁ!! 今回は、吊るされるヤツ出た!! 分かった! 行く行く!!」
「うぉぉ?! すみませんでしたーー!! お前のせいで、ガチの拷問器具が出たじゃねぇか!! 僕も行きます!! ちょ、押すなぁ!!」
ガシャン!! ガシャン、……、……、……
拘束魔法に追い立てられ、押し合いながら、部屋を逃げ出て行く二人。
ニ人が出て行った後の、執務室にはようやく平穏が訪れた。
「お疲れ様でした」
「お目汚し、失礼致しました」
「いえ、いつもありがとうございます。先程の決め台詞、カッコいいですね。頼りにしていますよ」
「……、有難う御座います」
魔法軍司令官、とても大変な仕事だ。
彼は、様々な理由から生涯現役を固く誓っている。
ちなみに、ヴォルフガングは寡黙だし、言う事は、いちいちカッコよくて、分からずらいので、先程の拘束魔法の近辺のセリフを詳しく説明すると、
『お前らよぉ? 態度悪りぃわ、やる気ねぇわ、ムカつくなぁ? コノヤロウ。この拷問器具の吊り籠で、ガッチガチに捕まえて、麻痺させて、抵抗する力も奪って、動けないまま、治安悪ぃ城壁の外に、野ざらしで吊るしてやんよボケカスコラ。最後は死んで腐った肉を、食べにくる動物にでも、惨たらしく食われて処理されやがれ。まぁ五日くらいで全部終わるだろ。ふざけんなよ? もう後悔しても遅ぇからな? クソガキ供、死ねぇ!!!』
みたいな、感じである。
それでは、引き続き、移動した彼らを観測しよう。記録を続ける。