面白い人(梓視点1)
「ゆ、裕也!私、ずっと裕也が好きだったの。最近は可愛い子たちに囲まれてるから話しかけづらかったけど…でももうこの気持ちを抑えられない。私と付き合ってください!」
それは私にとって最大の勇気を振り絞った告白だった。確かに不安はあった。でも付き合えだろうという気持ちがあった。裕也とは小さい時からずっと一緒だった。幼稚園も小学校も中学校も高校も…ずっと私と裕也はそばに居た。だから当たり前のようにこれからも裕也の隣に居ることができるんだと、そう思っていた。でもそう思っていたのは私だけだった。
「…何言ってるんだ?冗談だろ?やめてくれよそんなこと」
「…え?」
私は裕也から告げられた言葉の意味が分からなかった。どういうことなの?
「俺とお前が付き合う?そんなことあるわけないだろ」
「…」
私はただ黙っていることしか出来なかった。
「なんでお前なんかと付き合わないといけないんだよ」
「…」
「まさかお前、俺がお前のことを好きだとでも思ったのか?」
「…」
黙っている私にお構い無しに裕也は続ける。
「まぁそういうことだ。俺とお前は付き合わない。もう行っていいか?」
「…うん。時間取っちゃってごめんね」
私は未だに言われたことの意味が分からなかった。いや、分かりたくなかった。
裕也はそう言うと私の隣を通り過ぎて何事も無かったかのようにあの3人と楽しそうに話し出した。
…私って裕也にとって必要無かったんだ。
その後は何も考えられなかった。とりあえず鞄を取りに教室へ戻った。
教室につき自分の席に向かう。途端に体の力が抜け椅子に座り込んだ。
自然と涙がこぼれてきた。
「…あぁ、そっか。ダメだったんだ」
そう理解してしまった瞬間、水を堰き止めていたダムが決壊したかのように感情が流れ出してきた。
ずっと裕也の隣に居られると思っていた。裕也の隣で笑っていられると思っていた。お互いが必要なんだと思っていた。でもそれは全て私の勝手な思い込みだった。何を勘違いしていたんだろう?裕也はこの学校でも有名な3人の美人に囲まれている。少し考えればわかったことだ。私なんて要らない。
「ひぐ…ぐす…」
ガタッ
下を向いて泣いていると近くで机が地面と擦れるような音がした。誰?
そう思って音のした方向を向くとそこにはクラスメイトの佐巻 蒼弥君が居た。
佐巻君は私と目が合うと気まずそうな表情をした。当たり前だよね。泣いている人と目が合うなんて気まずいに決まってるよね。
「佐巻君?ご、ごめんね。こんなところ見せちゃって…」
私は彼にそう言った。元はと言えば私がこんなところで泣いているのがいけないんだ。だから私はできるだけ笑顔を作ってそう言った。
「…何かあったのか?」
すると佐巻君は気まずそうな表情のままそう言ってきた。気を使われている。申し訳ないな。
「…」
私は逡巡した。あのことを佐巻君に話すかどうか。正直知られたくない。でももうこの胸の痛みを誰かにぶつけて少しでも楽になりたかった。
「嫌なら別に…」
「私、ね」
私の言葉と佐巻君の言葉が被ってしまった。だが私は続ける。きっと佐巻君は嫌なら話さなくていいって言ってくれようとしたんだよね。優しい人。
「裕也の幼馴染なんだ」
そう、幼馴染。ただの幼馴染。ただ小さい時から一緒にいるだけの仲。
「小さい時からずっと一緒に育って来たの。それでね…好きだったんだ」
佐巻君は静かに私の話を聞いてくれている。
「でもまぁあんなに可愛い子と美人な人達に囲まれてたら…ね。告白したけど何言ってるんだ?って言われちゃった。お前みたいなやつと付き合うわけないだろって…」
今さっきの光景が鮮明にフラッシュバックする。胸が締め付けられ苦しくなる。泣きたい。でも今はダメ。人の前で泣くなんてしたくない。
「そう、か」
佐巻君は短くそう言った。そうだよね。こんな話されてもどんな反応したらいいのか分からないよね。
「…裕也にとって私ってなんだったんだろう」
私は独り言のようにそう呟いた。もちろんこの言葉に返答を求めていた訳では無い。でも佐巻君はこの独り言に応えてくれた。
「…柳川、は…その、十分可愛いと俺は思うぞ?」
「…ぷっ、あははっ。何それ」
私は思わず笑ってしまった。それはきっと佐巻君なりの励ましの言葉だったんだろう。でも私には口説いているようにしか見えなかった。それが面白くて沈んでいた心が少しだけ軽くなった。
「は、ははっ。そうだよな。俺に何言われても…」
「嬉しかったよ」
可愛いと言われて嬉しくない女子なんて居ないだろう。だから私は常に自信がなさそうな彼にそう言った。
「そ、そうか。それなら良かった」
「うん。じゃあ帰るね。話聞いてくれてありがとう」
「あぁ」
私は少しだけ軽くなった心で家に帰った。
ふふっ、面白い人だったな。
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