責任とって
「裕也君ー、もっと私に甘えてもいいのよ?」
「裕也さん、今日お弁当を作ってきました。食べてください」
「裕也先輩!今度どこか遊びに行こうよ!」
「あ、あはは」
今日も今日とて教室ではそんな会話が広げられていた。…柳川をあんなふうに振っておいてよくそんな平然としていられるな。なぁ、品川。
それに周りにいる女もそうだ。そんなに近くに居てどうしてあいつの本性に気づかないんだ。それを知ったらお前たちだって…
…俺は何を思っているんだ。もう関係ないんだ。もうあいつらのことなんて忘れろ。
自分にそう言い聞かせて前を向く。…ちょっと柳川の顔でも見ておくか。
関わりがなくなるとはいえ、少しは関わったんだ。ちょっとした心配…心配なのかこれは?まぁなんだ。その後くらい見ておいてもいいだろう。
そう思ってもう一度後ろを振り返る。そして柳川の顔を見る。俺は正直落ち込んでいるんだろうなと思っていた。だがそこにあった柳川の顔は特に落ち込んだ様子では無かった。むしろどこかスッキリしたような顔をしていた。あ、目が合った。
こちらを見てきた柳川と目が合ってしまった。長く見すぎたか?…おい、なんで手を振ってくるんだ。
柳川は俺と目が合うと笑顔で小さく手を振ってきた。俺はそれに手を振り返さなかった。もう関わらないって決めたからな。
なんだったんだ?俺がそんなことを考えていると後ろから肩を2回つつかれた。誰だ?そう思いながら振り返る。
「…なんだよ」
そこには頬を膨らませた柳川が立っていた。
「ちょっと、なんで無視するの?」
「…もう俺とお前は関わることが無いからな。だから無視した」
俺は素直にそう言った。
「なんで勝手に決めるの?私の事情に首を突っ込んで来たのは君なんだから最後までちゃんと責任とって」
なんだよ責任って…
「…なんだその責任ってのは」
「私がいい男を見つけるまで相談相手になって」
いかにも面倒くさそうな話が出てきた。そんなことには関わりたくない。
「悪いが他を当たってくれ」
「ダメ。私の事情を知ってるのは君だけなんだし、これ以上あのことを言いたく無いから」
なんで俺はあの時品川に話しかけたんだ…いや、違うな…最初だ。泣いていた柳川に声をかけてしまった時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。
「…はぁ、分かったよ。早く見つけてくれよ」
「やった」
柳川が小さく跳ねながらそう言った。
「お前くらい可愛かったらすぐにいい男なんて見つかるだろ」
俺なんて必要ないだろ?そういう意味で言った言葉に柳川が過剰に反応した。
「か、可愛い?わ、私可愛い?」
「いや、俺今お前と話してるだろ。お前以外に誰がいるんだよ」
何を当たり前のことを…
「ふ、ふーん。私のこと可愛いって思ってるんだ」
柳川がドヤ顔に少し近い表情で俺の事を見てくる。
「それがどうした」
「…なんでもない」
俺がそう言うと柳川は下を向いて黙ってしまった。なんだ?気に触ることでも言ったか?まぁそれならそれで別にいい。相手から勝手に離れていくだろう。
「じゃ、じゃあちゃんと付き合ってよね」
どうやら離れてくれないらしい。
「…わかったよ」
俺は渋々そう返す。すると柳川は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら自分の席に戻って行った。何がそんなに嬉しいんだか…
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「…チッ」
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