期待
俺と柳川はこの学校唯一の自販機の元に向かった。その間俺たちに会話は無かった。
自販機についた。俺はお金を入れ、前に柳川が買っていた炭酸飲料をひとつ買った。そしてそれを柳川に渡した。
「…まぁ…飲めよ」
「…」
柳川は無言でそれを受け取った。受け取ってから数秒後、柳川の目からは大粒の涙がこぼれ出した。
「私、頑張ったよ?」
「…」
「いつもは3人に囲まれてる時の裕也には話しかけなかったけど頑張って話しかけたんだよ?」
「…」
「話しかけたら裕也からは軽く流されるし他の3人には嫌な顔されたんだ」
「…」
「あはは…あ、は…」
柳川は一通り話すと静かになった。隣を見ると柳川が声を殺して1人泣いていた。
「…何も言ってくれないんだね」
柳川が俺に向かってそう言った。
「なんだ?お前は俺に対して慰めの言葉でも求めてるのか?」
俺は柳川にそう言った。
「…」
柳川は何も言わない。…今のは少し意地悪な質問だったな。
「…もう諦めたらどうだ?」
「…」
やはり柳川は何も言わない。それでも俺は続ける。
「今回で分かっただろ?お前が惚れているのはあんな性根が腐ったやつなんだ」
「…」
「それでもお前はまだあいつのことが好きだって言うのか?笑わせないでくれよ」
「…」
…イライラするな。
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
俺は少し強めの口調でそう言う。どうした?どうして好きな人をそんなふうに言われて何も言い返さない?お前の気持ちはその程度のものだったのか?俺は曲がりなりにもお前のことを応援している。品川のような性悪を好きになってしまったのはもう仕方ない。だがあんな男を落とすには並大抵な努力じゃ無理だ。さぁ、お前はどうなんだ?お前の気持ちはどれほどのものなんだ?
「そう、だよね…もう、いいかな…」
「…そうか」
…そんなものか。ならもう俺と柳川が関わることは無いだろう。きっと俺は柳川に期待していたんだ。まだ好きなんだと。諦めたくないだと。柳川ならそう言ってくれると勝手に期待していた。だって柳川は主要人物になれる人間だから。俺はそんな人間じゃない。全く俺は何様なんだ。柳川にこんな期待をしてしまうのはきっと俺がそんな人間にはなれないからだ。人は自分のなれないものに憧れを抱く。多分それと同じ感覚だ。だが柳川はもう諦めてしまった。なら俺はもう柳川と関わる必要なんてない。
「ならせいぜい今度はマシな男でも見つけたらいい。じゃあな」
俺はそう言って踵を返して歩き出した。まぁ所詮こんなもんだ。勝手に期待して勝手に裏切られて…俺って嫌な人間だな。だがもうこの生き方を変えることは出来ない。1番性根が腐っているのは俺なのかもしれない。
この時、少年は気づいていなかった。自分の背中に突き刺さる視線に。
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