俺には関係の無いこと
自販機で柳川にジュースを奢ってから1週間が経った。あれから柳川は上手くやったのだろうか…相も変わらず主人公様は美女に囲まれて笑っていた。2年生の氷川は品川にお弁当を作ってきていたし、1年生の松村は膝の上に乗って甘えていた。逆に3年生の綾川は年上の包容力で甘やかしていた。それはいつも通りの事だ。だがこの一週間、品川の周りで少しの変化があった。それはいつも3人が品川に群がっている時には品川に話しかけなかった柳川が少し積極的に話しかけたり距離を詰めたりしていたことだ。柳川…上手くいくといいな。まぁ俺が気にしても仕方ないことか。帰ろう。
友達は居ると言っても俺は居ても居なくてもどっちでもいいというポジションの人間だ。だから俺と2人きりで遊ぼうとするような変わり者は居ない。まぁなんでそうなったかと言うと俺は周りに合わせることしかしないからな。自分の意見が無い。だからあいつは居ても居なくてもどっちでもいいよな、というのがみんなからの俺の評価だ。実際それでいいと思っている。俺も無理に付き合う必要は無いと思っているからな。
そんなことを思いながら教室から出ようとすると担任に呼び止められた。
「佐巻、今日日直だったな?」
「はい。そうですけど…」
「教室のゴミ箱にゴミが溜まってるから捨てに行ってくれ」
めんどくさい…だがまぁ内申点を落とさないようにするためにもここは素直に従っておくか。
「分かりました」
俺は短くそう答えてゴミ箱の中のゴミをビニール袋に詰めて運び出した。確かごみ捨て場は校舎裏にあったはず…さっさと捨てて帰ろう。
俺は下駄箱で靴を履き替えて校舎裏に向かった。
校舎の角を曲がったところで人影が見えた。誰だ?
「ゆ、裕也!やっぱり私は裕也のことが好き!私と付き合って!」
…また柳川の気まずい場面に出会ってしまった。俺は咄嗟に校舎の角に身を潜めた。ここは柳川の大舞台だ。俺なんかが邪魔しちゃ悪い。さぁ、品川はどう返すんだ?この一週間で柳川はかなり頑張っていたように見える。さすがに少しは思うことがあるんじゃないだろうか?
「…」
「…」
品川と柳川の間に少しの沈黙が流れる。その沈黙は柳川にとって緊張と不安が大きくなっている時間だろう。実際何の関係も無い俺も心臓がバクバクと音を立てている。そしてようやく品川が口を開いた。だがそれはあまりにも呆気なかった。
「はぁ。なぁ梓。俺前言わなかったか?お前みたいなやつと付き合うわけ無いって」
「で、でも私はまだ裕也が好きで…」
「知らねぇよそんなこと」
確かに品川の知ったところでは無い。
「もう迷惑だからそういうのやめてくれよ」
「…」
だが言い方ってもんがあるだろ。何もそんな言い方しなくていいだろ。俺の腹にグツグツとした感情が溜まっていく。俺には関係ない。関係ないが怒りのような感情を確かに感じている。それは何故か?きっと柳川と関わってしまったからだ。多分俺は無意識のうちに柳川のことを応援していたんだと思う。上手くいけばいいなと。柳川に感情移入していたんだ。だから品川の物言いに腹が立っている。
「そんな言い方ないんじゃないか?」
気がつくと俺は品川にそんな声をかけていた。
「君は…佐巻君か」
「佐巻君…」
品川は俺の方を見てほっとしたような表情を浮かべた。きっと見られた相手が俺のような脇役だから安心したのだろう。こいつならクラスでこのことを言っても誰も信じない。そう思ったのだろう。
「君には関係の無いことだろう?余計な口出ししないで貰きたいな」
品川が目でこれ以上関わるなと言ってくる。
「確かに俺には全く関係ない」
「だろ?だから…」
「でもな」
はぁ、なんでこんなこと言ってんだろう。めんどくさくなることは分かっているのに。感情移入してしまっていた時点でこうなることは決まっていたのかもしれない。
「それは人を傷つけていい理由にはならないぞ」
「…チッ、めんどくさいな」
品川が小さくそう言う。聞こえてんぞ。
「…そうだね。梓、さっきはあんなこと言ってごめん。それじゃ俺はもう帰るね」
そう言って品川は歩き出した。
「もう俺に関わるんじゃねぇぞ」
柳川の耳元でそう呟いてから。だから聞こえてるって…こいつ性格悪いな。
柳川は俯いたままボーッとしている。
「…」
「…」
やはり俺と柳川の間に気まずい沈黙が流れる。俺はその沈黙に耐えきれなくなり口を開いた。
「…あー、ジュースでも買うか?」
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