頑張れよ
今朝、学校へ登校するとあまり気持ちの良くない光景が教室で広がっていた。
主人公様が美女3人を侍らせて楽しそうに話していた。わざわざ見せつけるように教室で話すなよ…この教室には柳川だって居るのに…
そう思って柳川の席を見る。そこには下を向いて辛そうな顔をしている柳川が居た。
あいつモテるくせに人の心が分からないのかよ。
…まぁ脇役の俺がそんなことを思ったところで何も変わらないんだけどな。俺みたいな物語にも出てこないようなやつは心で何かを思っていてもそれを行動になんて移せない。そんなことが出来るのは主人公か主要人物だけだ。俺はそのどちらにも該当しない。
柳川のことは可哀想だとは思うが俺がしてやれることなんて何も無い。頑張って耐えてくれ。薄情だろうが仕方ないことだ。だって俺には関係ないから。
授業が4限目まで終わり昼休憩になった。俺は飲み物を買うために自販機へ向かった。この高校に自販機はひとつしかない。だからたまに混んでいるのだが今日は運が良かったらしい。誰も居なかった。
「ラッキーだな」
そう独り言をこぼして自販機にお金を入れる。
「私これが飲みたい」
そんな声が俺のすぐ後ろで聞こえてきて、その指は缶の炭酸飲料を指さしていた。俺は振り返る。そこには上目遣いをしている柳川が居た。
「柳川…」
やはりまだ少し元気が無さそうだ。まぁ俺は何もしてやれないからジュースくらいは奢ってやるか。
「ダメ?」
「いいぞ」
「え?!」
俺がそう言うと柳川が驚いた表情をして俺を見てきた。なんだ、そっちから言ってきたのに。
「冗談だったんだけど…ラッキー」
そう言って柳川は炭酸飲料のボタンを押した。
「ありがとね」
「あぁ」
俺はそう返して自分もお茶を買った。
「…」
「…」
俺は柳川の事情を知っているため気まずい沈黙が流れる。
「…やっぱり辛いね」
柳川が独り言のようにそう言った。
「…そうか」
ここで気の利いた一言でも返せたらいいのだろうがあいにく俺にはそんな返しが出来ない。俺には柳川が感じている感情が分からないし分かろうとも思わない。だからそんな一言だけを返した。
「私頑張ったんだよ?でも…ダメだった。なのにまだ好きなんだ。おかしいよね」
「…別におかしくなんてないんじゃないか?」
「…そうかな」
「あぁ、そんな簡単に好きじゃなくなるならそれまでのものだったんだろ」
俺はこんな偉そうなことを言えるような立場じゃないが何も言わないよりかはマシだろう。
「そう、だよね。私、まだ諦めたくない。うん。そうだよ。諦めたくないんだ」
柳川は何かを決意したような顔になった。
「ありがとう佐巻君。君のおかげで諦めないで済んだよ」
「…まぁ、頑張れよ」
「うん!頑張る!」
そう言って柳川は教室に戻って行った。
品川は恵まれすぎていると思う。その環境を妬んでいる訳じゃないがそれに気づかない品川には苛立ちを覚えずには居られない。
「はぁ…まぁ俺がそんなことを思ったって仕方ないんだけどな…」
俺には物語を変えるような力はないしそんなことしようとも思わない。変わるなら自分たちで変わってくれ。
いつか俺も物語の主人公になれるのかな。いや、なれないな。
この世はいつも不平等だ。だから機能している。みんなが平等なんかにはなれない。俺はそれでいいと思っている。だから俺は脇役のままなんだろうな。
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