軽率
「柳川、お前がちんたらしてるせいで文句言われたぞ」
俺は柳川に開口一番そう言った。
「ん？どういうこと？」
柳川は不思議そうな顔で俺を見てくる。
「…氷川が俺に言ってきたんだよ。最近品川がずっと柳川のことを気にしてるから私は機嫌が悪いんだってな」
「…ん？どういうこと？なんでそれで文句言われてるの？そんなの自分がもっと気を引こうとすればいい話じゃないの？」
まぁ普通はそうなるよな…
「知らねぇよ。そんなこと俺に言うな。だから早く何とかしてくれだってよ」
「何とか？」
「早く俺とお前が付き合うなりなんなりしろ、とか言ってたな。そんなことあるはず無いのにな。ほらちゃっちゃといい人を見つけろ」
俺がそう言うと柳川は頬を膨らませて俺を睨んでいた。
「なんだよ」
俺は訳が分からず…いや、まさか柳川は本当に俺のことが…そんなはずないだろ？もし本当にそうだとして、一体どこに惚れるような要素があったんだ？断言出来る。そんな要素どこにもなかった。だからきっとこの考えは間違っている。
「…私は本当に佐巻君と付き合ってもいいんだけどな」
それは今までのようなふざけた様子ではなく、少しの照れを含んだようなそんな様子だった。
「…」
違う。きっとこれも俺をからかっているだけなんだ。本気にするな。俺はもう自覚しただろ？俺は1番にはなれない。それは今もそうだ。俺は柳川の1番にはなれないんだ。
「きっとそんなことを言われるやつは幸せなんだろうな」
俺は柳川にそう言った。
「ほんとに気づいてないの？」
柳川は俺を無表情で見つめながらそう言ってきた。
「…なんの事だ？」
「ねぇ、今そういうのいらない。気づいてるんだよね。気づいてるんだよね」
柳川が俺に詰め寄る形になる。
「…」
俺は何も言えない。
「ねぇ、どうなの？それとも気づいていてそんなふうに誤魔化してるの？それはちょっと酷いんじゃないかな」
この言い方は…本当に俺のことが好きなのか…でもどうして…
「…どうして俺なんだ？」
「どういうこと？」
「どうして俺が…好きなんだ？」
俺がそう聞くと柳川はうっとりとしたような表情になった。
「やっぱり気づいてたんだ…佐巻君を好きになった理由？そんなの私に優しくしてくれたからだよ」
優しくしたから？そんなの俺じゃなくても良かったはずだ。
「…それなら俺じゃない誰かがお前に優しくしていたらどうなってたんだ？」
それはあったかもしれないという可能性の話。
「そんなのきっとその人を好きになってたんだと思うよ？」
なるほど。やっぱり俺は自分自身の軽率な行動でこんなことになっているわけだ。
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