氷結のマドンナ
「ねぇ、佐巻さん」
聞きなれない声が俺の耳に響いてきた。誰だと思い声のした方を向くとそこには氷結のマドンナ、氷川 静音がいた。俺は氷川に話しかけられた理由が全く分からなかった。
「…なんだ?」
怪訝に思いながらそう返す。
「あなた、柳川さんと仲がいいのよね」
俺と柳川は仲がいいかと聞かれるとそれは分からない。柳川は俺に責任を求め、俺はその責任を全うしようとしているだけ。これは仲がいいと言えるのだろうか?
「…」
俺が悩んでいると氷川は言葉を続けた。
「仲がいいなら柳川さんをどうにかして欲しいんだけど」
「どういうことだ?」
柳川をどうにかする?あいつ何かしたのか?
「最近、裕也さんが目に見えて柳川さんを気にするようになっています。私たちとしてはそれはあまり好ましくない。だから佐巻さん、柳川さんと付き合うのなら早くしてください。裕也さんが柳川さんに意識が向いている今、私はかなり機嫌が悪いです」
知らねぇよそんなこと…
「別に柳川は俺の事が好きなわけじゃないと思うぞ」
柳川が俺の事を好きなわけがない。普通、好きな人に恋愛相談なんてしないだろう。
「…はぁ、柳川さんもこんな鈍感を好きになってしまうなんて同情します」
なんだ?今バカにされたのか?
「…私がどうこう言う話じゃないですね。とにかく、柳川さんを早めにどうにかしてください」
どうにかしてください、じゃないだろ。どうして自分を見てくれない奴に好意を寄せるんだ。そんなの辛いだけじゃないか。品川もそうだ。柳川が好きなら周りに侍らせている奴らに優しくするなよ。そんなことして幸せになれるのは本当の物語の中くらいだ。
「…わかったよ」
だがそんなことを氷川に言って怒らせてもめんどくさい。本人がそれでいいならいいんだろう。俺には関係ない。
それに柳川のことも早く良い奴を見つければ終わるだろう。柳川程可愛ければ男なんてすぐ柳川のことを好きになるんじゃないだろうか?そうなれば俺はお役御免だ。そうすれば品川だって諦めるだろう。
「頼みましたよ」
氷川はそう言って俺から離れていった。
氷結のマドンナ、ね。なんだ、思ったより人間っぽいところあるんだな。俺の中で氷川は寡黙で冷血、極端に冷たいヤツだと思っていた。だがそんなことなかった。
人間、話してみないと分からないこともあるんだな。まぁそんな氷結のマドンナのことを知っても結局は
俺には関係ないことなんだけどな。
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