無表情
「佐巻君、ご飯食べに行こ」
最近ずっと柳川に誘われている。
「あのなぁ…何回も言ってるが…」
「いいのいいの!早く行こ」
これは何を言っても無駄だな…
「はぁ…知らないぞ」
結局はまた俺が折れる形になって教室から移動しようとしていた。
「佐巻君」
後ろから声をかけられた。俺は振り返る。そこには品川がいた。
「品川…何だ?」
品川が用もなく俺に話しかけてくるわけが無い。どういう了見だ?
「やっぱり考え直した方がいいよ?前も言ったけどさ、梓は…その、あれだからさ」
まだ言うのか。やっぱりこいつは皮を被っていたんだな。
「前も言ったが忠告だけ聞いておくよ。それだけか?」
柳川がいるところでそんな話するなよ…柳川だって気まず…
そう思いながら柳川の方を向いたのだが柳川は無表情だった。
「…柳川?」
それはまるで目の前にいる品川 裕也に対して何も感じていない、無関心のようだった。
「…裕也」
今まで黙っていた柳川が口を開いた。
「ねぇ、前私にもう関わるなって言ったよね。それなのになんで裕也から私たちに関わってきてるの?」
相変わらず柳川は無表情でそう言った。
「…今はお前と話してない。俺は佐巻君と話してるんだ」
品川がそう言う。なんだ?不穏な雰囲気だ。教室に居る人たちも俺たちに注目し始めていた。
「…チッ、まぁ、気をつけなよ佐巻君」
本当に俺の気分を害するのがうまいやつだな。どうしてそんなにも柳川のことを貶めて話すことができるんだ。
「佐巻君、行こっか」
柳川にそう声をかけられた。柳川の方を見るとそこには先程までの無表情な柳川ではなく、笑顔の柳川がいた。
「…あぁ」
あの無表情な柳川は見間違えだったのか?いや、そんなはずない。確かに俺は見た。品川に話しかける時、品川に対して無関心なあの瞳を。
「行くか」
…それがどうしたんだ。やっぱり俺には関係の無いことだ。
俺たちは屋上について手頃なベンチに腰掛けてご飯を食べ始めた。
「ねぇ佐巻君」
「なんだ?」
柳川がすぐ声をかけてきた。
「裕也に何か言われたの?」
そう言われて俺は正直に話すかどうか迷った。まだ柳川の中で品川が好きだという気持ちが残っていれば伝えなくてもいいだろう。だが先程の反応を見たらきっとそんなことないんだろう。
「…柳川は1人じゃ何も出来ない、人に頼ってばっかりであんなやつと関わっていると後悔するぞ、って言われた」
そう話しても柳川の顔は不快感に染まるどころか全くの無表情だった。やっぱりさっきのは見間違えじゃなかったんだな。
「へー、そうなんだ。それで?佐巻君は私から離れるの?」
柳川は無機質な目で俺の目を見つめてきた。
「…いや、俺は別に柳川に対してそんなことを思っているわけじゃない。だからお前の言う責任というのをとり終えるまでは一緒に居てやる」
正直、めんどくさいけどな。
「やっぱり佐巻君はそういう人だよね」
「なんだそれ」
はぁ、ほんとに自分の軽率な行動はどうにかしないとな。
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