ほらね(梓視点5)
「裕也君ー、もっと私に甘えてもいいのよ?」
「裕也さん、今日お弁当を作ってきました。食べてください」
「裕也先輩!今度どこか遊びに行こうよ!」
「あ、あはは」
次の日も相変わらず裕也の周りには美女が蔓延っていた。でも今までとは訳が違う。もう悲しくなることなんてない。だって私はもう裕也が好きじゃないんだから。
そうなことを思っていると私の席よりも前に居る佐巻君が私の方を見ていた。私はそれが嬉しくてつい笑顔で手を振ってしまった。
佐巻君はそんな私を見て何も言わずに前を向いてしまった。…なんで無視するの。
私は席を立って佐巻君の元に向かった。そして軽く肩を2回つつく。
「…なんだよ」
すると佐巻君はこちらに振り向いてそう言った。
「ちょっと、なんで無視するの?」
私は若干不機嫌そうにそう言った。
「…もう俺とお前は関わることが無いからな。だから無視した」
確かに佐巻君の言う通り、私たちはもう無理に関わらなくてもいい。でもそれじゃダメ。何とか佐巻君に無理向いてもらわないと。
「なんで勝手に決めるの?私の事情に首を突っ込んで来たのは君なんだから最後までちゃんと責任とって」
自分で言ってなんだけど、かなり無理があるような言い分だと思う。
「…なんだその責任ってのは」
「私がいい男を見つけるまで相談相手になって」
当然そんなのは建前。本音は佐巻君と付き合う為。
「悪いが他を当たってくれ」
佐巻君はそれを断った。でも私は引かない。
「ダメ。私の事情を知ってるのは君だけなんだし、これ以上あのことを言いたく無いから」
きっと普通の人ならこんなことを言っても断るだろう。でも私は知ってるよ?佐巻君、君は押されたら断れない。
「…はぁ、分かったよ。早く見つけてくれよ」
ほらね。
「やった」
分かっていたとは言っても嬉しいことには変わりない。
「お前くらい可愛かったらすぐにいい男なんて見つかるだろ」
不意に佐巻君がそんなことを言った。私は顔がニヤけてしまいそうになるのを我慢する。
「か、可愛い?わ、私可愛い?」
思わず聞き返してしまう。それほど嬉しい。裕也はそんなこと言ってくれなかったな…
「いや、俺今お前と話してるだろ。お前以外に誰がいるんだよ」
佐巻君は淡々とした様子でそう言ってくる。あぁ、本当に私の事なんとも思ってないんだな…そう分かってしまう。だから辛い。でも私は諦めたりしない。皆が佐巻君の良さに気づいていないうちに私が…
「ふ、ふーん。私のこと可愛いって思ってるんだ」
そんなことを考えているとバレないように煽るようにそう言う。あと純粋に照れ隠しだ。
「それがどうした」
でも佐巻君はなんてことないようにそう言ってくる。
「…なんでもない」
よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるね。もう顔が熱くて仕方ない。
「じゃ、じゃあちゃんと付き合ってよね」
私は一刻も早くここを離れるために適当に話を切った。
「…わかったよ」
佐巻君は気だるげに一言だけそう言った。ふふっ、これからの日々が楽しみ。
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