自分の気持ち(梓視点4)
「…まぁ…飲めよ」
「…」
気がつくと私と佐巻君は学校にある自販機の前に来ていた。そして佐巻君は私に前買って貰った炭酸飲料を差し出していた。
私はそれを無言で受け取った。そして自然と涙が溢れ出す。あ、あれ?なんで?人前でなんて泣きたくないのに。
「私、頑張ったよ?」
口が勝手に動く。
「…」
「いつもは3人に囲まれてる時の裕也には話しかけなかったけど頑張って話しかけたんだよ?」
心の声が止まらない。
「…」
「話しかけたら裕也からは軽く流されるし他の3人には嫌な顔されたんだ」
ダメ。止まらない。
「…」
「あはは…あ、は…」
私はそれを誤魔化すように笑う。でも笑えない。私は黙って泣き出した。
佐巻君は何も言ってくれない。なんで何も言ってこないの?君の隣で女の子が泣いてるんだよ?
「…何も言ってくれないんだね」
私は少し嫌味気味にそう言った。こんなことを佐巻君に言うのはお門違いだと分かっていながらも。
「なんだ?お前は俺に対して慰めの言葉でも求めてるのか?」
佐巻君は淡々とした様子でそう言ってきた。分かってる。佐巻君にそんなことを言ったってしょうがない。でも今は何か他のことを考えて気を紛らわせたかった。
「…」
私は黙ってしまった。だが彼は続ける。
「…もう諦めたらどうだ?」
「…」
もっともな意見だった。当たり前、至極当然。
「今回で分かっただろ?お前が惚れているのはあんな性根が腐ったやつなんだ」
そう、かな。裕也にも少しはいい所が…あったのかな。
「…」
「それでもお前はまだあいつのことが好きだって言うのか?笑わせないでくれよ」
私はまだ裕也のことが好き…なのかな。
「…」
もう分からなくなっていた。
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
佐巻君は少し強い口調で私にそう言ってきた。そうだよね。イライラするよね。会話もまともに出来ない女なんてめんどくさいよね。ほんと…めんどくさい。
「そう、だよね…もう、いいかな…」
私はそう言った。もう既に私の心は砕け散ってしまった。もう裕也を好きだなんて自信を持って言えない。
「…そうか」
佐巻君は短くそう言った。私に失望したかな?幻滅したかな?なんだか佐巻君に嫌われるのは…嫌だなぁ。それはなんでだろう?
「ならせいぜい今度はマシな男でも見つけたらいい。じゃあな」
佐巻君はそう言うと踵を返して歩いて去っていった。
マシな男か…マシ…そういえば佐巻君って私に優しいよね。私、あんなに優しくされたの初めてだったな…あれが優しいかと言われればそれは疑問だが、間違いなくこれまでの彼の言葉は私を思っての事だった。
気がつけば私の視線は彼の背中に釘付けになっていた。…まさか。小さい頃からずっと好きだった人に振られてすぐ他の人を好きになるなんて…
でも今まで好きだった人はあんな人だった。それに比べて佐巻君は私に酷いことを言ったりしないし、私を邪険に扱ったりしない。何故だろう。彼のことを考えると心臓の鼓動が早くなる。もっと彼と話してみたい。もっと彼に優しくされたい。
あぁ、私は
佐巻君が好きなんだ。
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