2、厚遇(こうぐう)
魔王城は広大だった。そしてたくさんの人間が奴隷として働かされていた。
「魔王陛下、これは何を作っているのですか?」
「バカンス用の別荘よ。ウフフ。暇な時はここでみんなで集まって遊ぶのよォ~~~」
男たちが肉体労働に励んでいる。女もいた。皆、顔に生気がなく、疲れているようだ。
「何という、立派な建物だ。これじゃあ王国が魔王陛下に勝てないわけです」
俺は素直に感嘆の声を上げた。遊技場もあり、魔物飼育場もある。市場もあり、魔族で賑わっていた。魔王城、それは観光都市であり、魔族たちの楽園……。
「あー、その陛下っての二人の時はやめていいわよ。アウーラって名前で呼んでくれていいわ。私はまだ魔王学院の学生だし、お父様の後を継いだといっても、全権はお父様にあるし……」
「助かる。ではアウーラ。城下町に案内してもらえないだろうか」
「いいわよ」
魔王城をややスピードを落としながら、下っていく。雲を抜けると、広大な街並みが見えてきた。
「す、凄い」
さすがに魔王の直轄領だ。ゴブリンにコボルト、オークにスライム。魔物が普通に存在している。それだけじゃない。エルフ、ドワーフ、リザードマン、羊の悪魔、半鳥人など様々な種族が出歩いていた。そして、何より活気がある。
「これはこれは魔王様、そちらの素敵な男性はどちら様でしょうか?」
「魔王軍に新しく加わった仲間よ。ラッドって言えばわかるかしら?」
二十代半ばくらいの女が俺をじろじろと見る。
「ええ、存じておりますとも。勇者パーティーの天才魔術師ラッド。彼は魔族の女の子にも人気がありますものね。いけ好かない勇者と違って、魔族の女にも分け隔てない好青年。ウフフ。ラッド様。魔王様の城下町にようこそ。当店は休息所です。入って休まれてはいかがですか」
俺がアウーラを見ると、アウーラは笑顔で頷いた。
休息所は食事処だった。高級な食材に舌鼓を打ち、俺は従業員の女たちに武勇談を語った。彼女たちはニコニコしながら俺の話を聞いてくれた。
綺麗な人間の女たちだったが、アウーラによればこの人たちは魔族なのだという。人間と魔族の混血。それ故に魔力量は純血の魔族には劣る。
「ラッド、あなたが我が魔王軍に来てくれて本当に良かったわ。ここでは富も名声も女もすべて与えてあげる。その代わり、私のために勇者パーティーを蹂躙して欲しいの」
「いいぜ。俺も早くあいつらに復讐したい。特に俺を裏切ったエリス……あいつは俺の恋人だった。結婚だって誓ったのに……絶対に許さねえぜ」
「フフ。その意気よ。さて、最初は誰に復讐する?」
魔王アウーラの笑みに俺は笑みで返す。飛びっきりの悪い笑顔でな。
「俺を助けてくれなかった死霊術師のリタだ。あの女が恐怖に怯え、命乞いをする様を見てみたい」
リタ……かつて仲間だと思っていた女。ただ、今は憎しみしかない。リタを魔王城に誘き寄せ、恐怖のどん底に叩き落としてやる!