1、運命の出会い
「ラッド、起きてぇ」
甘ったるい声が聞こえた。そして濃厚な甘い匂い。
「ラッド君、初めましてぇ~。私新人女神のラキュスワよ。あ、年齢は秘密ねぇ~。ひどいよねぇ~。あの女、ラッド君みたいなイケメンを見捨てて、キザったらしい勇者につくなんてぇ~。ひどいひどいひどい~~ィン。あ、ラッド君。私、思いついちゃったんだけどさぁ。あいつらに復讐しない? え、何で協力的なのかってぇ。私も彼氏を寝取られたのよォー。ひぃぃん。聞いてくれるぅ。ま、あの二人にはたっぷりお仕置きして今では奴隷のようにこき使ってるけどォ。プックックック。キャハハハハハハ!」
俺は胸の大きな女神が腹を抱えて笑うのをぼんやりと見ていた。闇を感じる。この女の過去には触れない方がいいだろう。
「あ、何かチートスキル与えようと思ったけどォ。ラッド君万能の天才だしぃ。てゆーか、ラッド君強すぎ。チートスキルもあの寝取られたクズ女にラッド君が殺されかけた時に覚醒しちゃってるしぃ。私すること何もないのよねぇーーーーーっ」
女神が馬鹿笑いをする。
「ま、私にできることはあなたを治癒して魔王ちゃんに紹介することだけよね。魔王ちゃんは世界を征服しがってるから勇者とあのクズ女は邪魔でしょうしぃーーーっ」
「魔王に紹介してくれるのか。ありがとう、女神ラクシュイーナ。感謝する」
「ラキュスワよ。ラ・キュ・ス・ワ」
「ラクイータさん!」
「ラキュスワ」
「ラクラクーさん」
「いや、ラしか合ってないからね?」
しまった。ラ何とかさんの御機嫌を損ねてしまっただろうか? 微妙な沈黙が流れる。
「ラキュスワさん!」
「そう、それ!」
女が嬉しそうに笑みを見せる。
「さあさあ楽しい楽しい復讐の始まり始まり~。魔王ちゃんの所に転送するわねっ」
「ありがとう、女神様。俺、復讐頑張るよ」
「ウフフ。いいわよ。お礼なんて、楽しい見世物でしばらく神界も退屈しないだろうしねぇ~、ウフフ」
俺の体は光に包まれて消えた。
「ごほっ、な、何ィ、何なのよォッ」
気づけば俺はベッドで寝ている女の上空に転送されていた。そして女の上に落ちた。
「あ、アンタ誰よォ。ヒイいいいい。不審者よォ、だ、誰かぁ、あ、あわわわわ。」
「む。女神ラクラク―め。どこに魔王がいるんだ。どう見てもこの女、学生じゃないか。クソッ、女神だと思ったのに女詐欺師だったか!」
俺は周りを見回した。棚には書籍が山のようにある。いずれも学生が学ぶ魔術本ばかりだ。フフフ。懐かしいな。学生だった頃を。そうそう、学生副会長がエリスだったんだ。スタイルも良くて聡明で野心に満ちていて、敬虔なドプレス教会の信徒で。そして、俺を裏切ったクソ女ぁっ。
「おい、魔族の女。魔王はどこにいる? 俺は勇者パーティーの魔術師だったラッド・マクマリティ65世だ。知っているはずだ。フフフ。魔王の幹部を撃破したのも一度や二度じゃない。難関ダンジョンだって勇者たちは俺の力がなきゃ……」
「あ、アンタあのラッドォ。あの勇者に殺されたっていう、可哀そうなラッドォ?」
「ああ、ま、正確には殺されかけただけで死んじゃいないさ。瀕死の所を救われた……ま、信用していたあのゴミ王女が裏切るなんて想定外だったわ。ところで下っ端。魔王はどこにいる? 魔王様にお仕えするために俺はここに来たんだ。もしかしてお前、魔王の娘か何かか?」
「こほん。失礼ねぇ。私が魔王本人よ」
沈黙が流れた。俺は女の顔をじろじろと見る。
「冗談はやめろ。お前みたいな弱そうな奴が魔王なわけないだろ。魔王ってのは人間の奴隷をたくさん飼っているド鬼畜のド外道でな。お前みたいな見るからに善良でか弱い女のわけが……」
「あらぁ。よく知ってるわねぇ。クスクス。嬉しいわ。ラッド」
女が笑みを零す。何だ、こいつ。魔王っぽいことを言いやがる。
「ま、見た感じ優しそうな女だと思うでしょ? 魔王学園でもそう言われてたし。ただねぇ。私、こー見えても人間狩りとか大好きなのよねぇ。クスクス」
女が俺を押しのけた。物凄い力だ。女の力じゃない! 女が俺の手を引っ張る。そして女は黒い羽を肩から出した。女が俺の手を引っ張る。
窓から外に飛び出た。デカい鳥が飛んで回っている。
「こ、これは……」
魔王城だ。雲を突き抜けて聳え立つ。魔王城。魔王アウーラ・ルドベキア110世の城だ。子供の頃、王都の図書館で古文書に描いてあった。本当に実在したのか。びっくりだな。
「魔王城へようこそ。ラッド。あなたは今日から私たちの仲間よ。フフフ。おそらく女神ラクラクーナの導きねぇ~。一緒に人間界を蹂躙しましょ~。歓迎するわぁ~」
いや、女神の名前間違えてないか? ふむ。この魔力。魔王に違いないな。もっとゴツイオッサンかと思ったが。ふむぅ、女子高生魔王とか新しいな。ま、同世代の方がやりやすい。あの憎たらしい勇者に復讐を! フフ、今日から忙しくなりそうだ。