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僕で、捉えられる君でいて

その日はとても飲み過ぎていて、酷く酔っ払っていた。

でないとこんな男の家になどいる筈がない。男というより男たちだ。

介抱すると云って連れて来られたけど、気が付けば脱がされていた。

二人掛かりで来られても、私はちっとも感じないし、とにかく吐き気の方が心配だった。何もかもがどうでもよく、ただ過ぎて行けばいいと思った。

 次に気が付いた時は朝で、さすがに体力も消耗し切っていた。

散らばった衣服を集め、外に出る。足をふらつかせながら、大通りまで歩く。

少し歩いたところまで記憶はあったけれど、それから記憶が飛ぶ、なんて云うか私はまた見知らぬ誰かの部屋にいた。水の流れる音がする……隣の部屋だ。

 

私の頭はまだ、ぼーっとして意識の照準が定まっていない。スーツ姿の男が隣の部屋からやって来た。髪の毛がやたらと長い。最近の男たちは何故やたらと髪を伸ばしたがるのだろうか。いや、切るのが面倒くさいのか?

私がじーと見ていることに男は気付いて話しかけてくる。

「あんた、目が覚めたか?」男は髪の毛に整髪料らしき物を付けながら

部屋の隅にある姿身を覗いている。

「誰?あんた」私は聞き返す。

「それはこっちのセリフだろ」男が少し強めに云うので私の頭にガンガン響く。

「私、何で此処に居るの?」

「どうでもいいけど、答えてやる。オレがコンビニに朝めしを買いに行った帰りにな、急に前から歩いて来たあんたが、オレの胸ぐらを摑んで、寝かせろって云って来たんだよ」

「へぇ」

「へぇっじゃねーよ!とにかくもう帰ってくれ、オレはもう出掛けなくちゃならないしって、もう時間ねーよ。あー、鍵はいいから、出て行けよっ、ガチャン」

 そう云いながら男は出て行ってしまった。


次の瞬間、って私の中だけだけれども、眩しいっ、と感じて目を明けるとスーツ姿の男が立っていた。

「あれっ、オレ帰れって云ったよな」

眩しいのは今が夜になっていて、真っ暗のところを急に灯りを点けられたせいだった。

「云ってたね、あんた」

「じゃあなんで伝わってなかったのかなぁ、あんた日本語不得意?」

「ハハハ」

「笑かす為に云ってるんじゃねぇーよ」


その後も男はゴチャゴチャと五月蝿かったが、私はどうしても今この瞬間にシャワーを浴びなければ今すぐ死ぬとゴネて、気だるい体に云う事を聞かせるようにシャワーを浴びた。


シャワーから出ると、何やら男は机に向かって何やら書き物をしていた。

私は冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを出して飲んだ。


男が呆れ顔でこっちを見ていた。

「お前なぁ……」


「ああ、大丈夫。私間接キスとか気にしないタイプだから」


「オレはそう云うことを云いたいわけではないな」


私は体にバスタオルを巻いていただけだったが、引き出しから勝手に寝巻きなるものを探し、ヨレヨレのトレーナー上下を発見し着ることにした。

その頃には男は机に向かって黙々と何やら作業に没頭していた。どうやら男は熱中しやすいタイプだ。

私はその日から何食わぬ顔をして、その男の家に住むことにした。

本当は家に帰ってから、もうこの世とはオサラバするつもりだった。どうせ死ぬのなら、その前に好き勝手してやることにした。男は云わばその巻き添えという奴だ。男は始めの内は、やれ何だと云って来たが私が部屋の片付けだとかをしてやると、「あと洗い物もお願い」と調子に乗ってきた。私はついでに洗濯などをしてやると、男はまんざらでもない顔をしていた。

 それからしばらく、私は炊事などをして男に食べさせてあげていた。

男は、たま~に外に出掛けるが、ほとんど家に篭り机に向かって何やら作業をしていた。仕事もバイト程度で食べる分だけ働いているようだった。

 私は時に薄着で、尚且つノーブラでいたりしたが、男に襲われることは一度も無かった。というより男は筋金入りのロリコンだった。一番興奮するのは、小学生くらいの女の子に、自分の一人エッチをただ見ててもらうことが一番興奮すると一切恥ずかしがらずに物憂げに語っていた。なんてことはないただの変態野郎だった。世の中にはいろんな人がいるもんだなと思ったが、もっと驚いたことに、男には彼女がいるとのことだった。

 中学三年生の女の子らしいが、なんと血の繋がった従兄妹だという。

しかも付き合うまでに至る経緯がすごいのだ。その従兄妹には6歳年上の姉がいるそうなのだが、この姉とこの男とがその昔、一緒に遊んでいる際にひょんなことからお互いの体を見せ合っていたらしいのだが、それがだんだんエスカレートして行って、お互いがイクまで口でしていたらしい。それをまだ幼かった妹が覗いていたらしく、妹が中二の時にそれを引き合いに出され、ばらされたくなければ付き合って欲しいと云われたらしい。そして最近どうもその子に

最後までを強要されつつあるらしい、立派な犯罪者だ。

 男のルックスは悪くなかった。長い髪と無駄に生やした無精ひげを剃れば、そこそこ、モテそうだった。一応その女の子とどこまで進んだのか怖かったが聞いてみた。とにかくキスをせがまれることが多いらしい。

 男は自分みたいなものが長く生きてはいけないと、しきりに云っていた。

毎日、死ぬか生きるかを考えているという。


 私の方は、子供の頃に毎日のように父親に暴力を振るわれていたことを話した。そのおかげで今では暴力を振るわれながら無理やり犯されることでしか性的に興奮しないようになってしまった。いや、むしろ暴力だけでもいい。誰かに殺してもらいたいとまで考えることがある。そのことを男に話すと男はやれることばあればやろうか?と云ったが、私もやられる人は選びたいと一蹴した。


 結局、私たちのような人間は死んだ方がいいのだろうか。それでも生きる価値があるのだろうか、私たちには判らなかった。


 男が毎日机に向かってやっていることは、子供向けの絵本を書いていた。優しいタッチの絵だ。それでも日夜、絵本作家を目指しているという。

 私はピカピカに磨き上げた部屋と男を眺めながら、もう少しここに居ることにした。


 ある日、男がいない間に例の女の子がやって来た。

「お姉さんは誰?」

どこにでもいるような、可愛らしい女の子だった。その子を見ているとなんだが泣けてきた。道を踏み外す前に、戻った方がいい。

気が付くと私は思いっきり女の子を引っ叩いていた。


女の子は私をキッと睨んでいた。

「餓鬼」私は自分の胸ほどの高さの女の子を睨み返した。

「あんな詰まらない男といると、不幸になるよ」

 女の子は私がそう云うと顔を真っ赤にさせて去って行く。


 夜、男にそのことを話した。

すると男は、ぼそりと「ああ、そうか」とだけ云った。

 

 それからしばらくして男はふと私のことを見ながら云った。

「ところで君、誰?」


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