ヲタッキーズ79 ガリレヲの凱歌
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
彼女が率いる"ヲタッキーズ"がヲタクの平和を護り抜く。
ヲトナのジュブナイル第79話「ガリレヲの凱歌」。さて、今回は国際環境テロリストで連続爆弾魔のアキボマーが出没w
さらにアキボマーを刑務所に送った者が次々に爆殺され、地球温暖化に反対する氷河期論者が現れて…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 終わりの始まり
朝起きて、1人は鼻歌混じりにヒゲを剃る。もう1人は、電子回路を組み立て、信管を差し込む。
1人は、美しい妻を背後から抱きしめてキス。もう1人は、粘土状の板に小さな鉄球を埋め込む。
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"本社タワー。
1人は、メールボーイから郵送物を受け取って1つ1つに目を通す。もう1人は双眼鏡を取り出す。
メールボーイは、次のデリバリーポイントへとカートを押す。もう1人は、ジッと双眼鏡を覗く。
遠く爆発音が轟き、タワー最上階から爆煙が上がるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら、ヤタラ居心地良くなり、僕を筆頭に常連全員が今宵も沈殿中←
「テリィ様。スゴい付箋ですけど、何のパンフレットですか?」
「ダッジオーブンの今年のパンフだょミユリさん」
「あら。今お使いのブラックポッドに何か不具合でも?」
僕の推しでメイド長のミユリさんが絡んで来る。
「うーん新モデルが出たンだ」
「まぁ物欲ですか?無駄遣いなさらないよう」
「ミユリさんだってそうだ。その赤のサコッシュ」
メイド服の上から肩掛けしてるバッグを指差す僕。
「テリィ様、意地悪。カワイイのに」
「…コーヒーブレイク終了。さ、私は仕事に戻るわね」
「待って、ルイナ」
不穏な空気を察した"リモート飲み"のルイナが画面の向こうでソソクサと席を外そうとスルがミユリさんは逃さない。
「待って。ねぇテリィ様、賭けをしましょう。1ヵ月間、私達は新しくモノを買わない。生活必需品を除いて」
「え。マジかょミユリさん」
「ルイナ!貴女が証人ょ!OK?」
私を巻き込まないで、と言いかけたルイナのスマホが鳴る。
「え。何?手紙爆弾?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ"本社タワー最上階の爆発現場。
「被害者は、ジウオ・ルトン。37才の敏腕記者。即死でした」
「手紙爆弾なの?」
「YES。社内のメール室を経由してデリバリー中。ただ、メールボーイが覚えているのは、爆発の閃光だけです」
ビニ手をしながら、規制線をくぐって現場に入るのは、万世橋警察署の敏腕警部ラギィ。
巨大メディアの看板記者の個室は、爆撃を受けたかのように内装が崩れ焼け焦げている。
「万世橋のラギィ警部?麻薬取締局のジェシ・マロイです。秋葉原での御活躍はかねがね。現場を御一緒出来るナンて光栄です」
「あら、ラギィ。遅かったのね?」
「え。ルイナ?ナンで貴女が麻取と一緒に…」
何と麻取のスマホにルイナのリアルタイム画像。
「あ。私が呼びました。本件"リアルの裂け目"関連の疑いがあります。異次元人絡みのシンジケート捜査は、SATOと連携スルように言われてて」
「誰から?」
「前任のサリィ取締官から」
あぁサリィ!前シリーズ第1話から登場してる常連←
「あ、そ。ジェシ取締官、手際が良いのね。ルイナ、今回もよろしくね。サリィは…優秀だったわ」
うなずくジェシを見て、何故かルイナは胸騒ぎw
「で、ルイナ。現場の印象は?」
「タダの手紙爆弾じゃナイわ。高性能な指向性爆薬の類だと思う。壁に残った爆炎の痕に、明白なマイゼン・シュレーディン効果が出てる。爆発時のガスとエネルギーが1方向に放出される現象のコトだけど」
「なるほど。やっぱり呼んで正解だわ」
素直に感心するジェシ取締官。
「爆発は、全て物理と数学で説明出来る。燃焼率、猛度、圧力波…この部屋の全てが爆発の貴重なデータブック」
「指向性爆薬って…あのクレイモア地雷みたいな?」
「YES。最近の戦争映画には必ず出て来る地雷のベストセラーね。でも、その爆発パターンは…例えば、テーブルを手で叩くでしょ?テーブルに載ってたお皿やお箸が動いた様子から、叩いた手の大きさや握力、衝突エネルギーまでわかる。この爆弾も同様に分析してみるわ」
早くも半分追いついてないラギィまでがドヤ顔←
「サスガは"女ホーキンス博士"ね!」
「でも、ジウオ・ルトンには手遅れだった。ねぇ彼の家族写真が落ちてる。血がついてるわ」
「次に生かしましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「力になれるかどうか。夫に敵はいないと思うわ…ソレにしても、ついさっき"いってらっしゃいのキス"をしたばかりなのに…」
「御主人が記事で誰かの反感を買い、脅迫を受けたコトはありますか?」
「…実は1度だけ。科学部にいた頃ょ。夫を訴えると脅していたわ」
美しい人だわ。流れるようなセミロングの黒い髪…上品だけど彼女は今日から未亡人w心の中で溜め息つくラギィ警部。
「誰かから犯罪の疑いをかけられたと騒いでいたわ」
「どんな事件ですか?」
「夫が取材していたのは、研究所の連続爆破事件。手口は、軍の横流し爆弾。クレイマー、ううん、違う。えっと何だったかしら」
「クレイモア地雷?」
「ピンポーン」←
意外に軽いwちょっと、悲しんで、みただけの未亡人?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
早速、万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「3年前の"爆弾魔アキボマー"事件と全てが酷似しています。当時、気候変動問題に関する国際会議を妨害しようと、国際環境テロリストを名乗る連中が会議場に爆弾テロを仕掛けた。アキボマーは、そのテロリストの1人で、AMCのスーパーコンピューター"慧"に手製爆弾を仕掛けた」
「AMC?」
「秋葉原ミリタリークラスター。まぁ産軍複合体の1種」
モニターにクラッシュしたコンピューターの画像w
「"慧"では、居合わせたデータサイエンティスト4人が死亡。爆弾処理班にも被害が出た」
「死んだ爆弾処理班のビルレ・ガーンは…私の元カレです。調べればわかるコトなので先に言っておきます」
「ジェシ、お気の毒。でも、捜査に私情は挟まないで…因みにテロの実行犯は、当時アキバ工科大学の学生だったエイソ・アラノ。既に終身刑が確定し、蔵前橋の重刑務所で服役中」
モニターは、とれかけたパーマのナンパな長髪野郎の画像。
「そして、実行犯エイソ・アラノが心酔していたのが、エメト・グレザ。アキバ工科大学の初代学部長で元物理学博士。市ヶ谷の顧問も歴任してるわ。でも、官邸主導の"地球防衛構想"を批判して公職を追われた」
続いてモニター画像は一転してハゲ頭のオッサンに変わるw
「"地球防衛構想"?ウルトラ警備隊なの?」
「いいえ。気候変動問題です。当時は温暖化を止めて地球を救え式のprimitiveな議論が盛んでした」
「あ。アキバの地下に"温暖化アイドル"とかいた頃ね?」
ラギィ警部の鋭い突っ込みにドン引く係官←
「いや。ソコまではちょっと…直後、グレザ博士はネットに地球寒冷化の声明文を公表」
「寒冷化?温暖化じゃなくて?」
「地球は氷河期に向かうと。学界は冷笑をもって彼を迎え、人々は彼の家族を指差し嘲笑った。絶望した博士は秋葉原に流れつき…」
「何ソレ?どーしてソコで秋葉原かな?場末視ハンパ無いんですけど!ヲタクをナメんな!」
秋葉原を代表して怒るラギィ警部。頑張れ←
「ソコで博士に心酔してたアラノが、実行犯を買って出たワケね?若いって純粋…何?ジェシ?」
「実は、公表してないけど、爆弾の部品は署名入りでした。そして、グレザの声明文にも同じ署名があった」
「I llmimati?あの天ぷら騎士団の」←
「惜しい。同じイタリア語だけど"mouve"です。やはり、グレザが第1容疑者だわ」
「でも…何となく犯人じゃナイ気もスル」
直感を述べるラギィに、ジェシは聞く耳を持たないw
「証拠を隠滅して罪を逃れただけに決まってます!19才の少年がスパコンを爆破しますか?彼の単独犯行ならサイコホラーょ」
「しかし、事件から3年も経って今さら何が始まるの?」
「グレザは、温暖化抑制政策を進める官邸を訴えたけど、数ヶ月前に却下されたばかりですぅ!」
「ソレにしても…うーん何か新しい報復手段を思いついたのかしら」
頭をヒネる全員を、モニターから見下ろすグレザのハゲ頭←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。SATO司令部に居候してるルイナのラボ。
「爆薬はC4ね。鉄球放出の様子から逆算して、どんな爆弾だったのかコンピューターの中で再現してみるわ」
「ねぇ」
「…え。あら、ミユリ姉様」
珍しくミユリさんの方から、ラボにアプリで話しかける。
「ルイナ、CDプレイヤーとか持ってる?」
「いいえ。今どきソンな…動画じゃダメですか?」
「うーん音楽は感じたいの。イヤホンは嫌」
「ソレこそ今どき…あ、テリィたんとの賭けね?姉様とテリィたんは、1ヵ月は買い物をしないのょねニヤニヤ」
「待って。テリィ様とは生活必需品は買っても良いコトにしてる。でも…」
「姉様。CDプレイヤーは違います。私、テリィたんの味方ですから!」
「あーんルイナ。同じメイド服のよしみでお願いょ!」
激レアだ!
アキバ系メイドの大お姉さんであるミユリさんが、趣味でメイド服着てる後輩メイドに頭を下げている。こりゃ絶景だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その数分後。万世橋の捜査本部。
「ルイナ、何?何かわかったの?」
「ラギィ警部。鑑識さんが回収した破片をもとに、コンピューターの中で爆弾を再現してみた。桜田門のエシャ追跡捜査官がテロ対策班のデータベースにアクセス許可を採ってくれた。似た設計の爆弾が4点見つかったわ」
「全部アキボマーの爆弾だわ!ウチのプロファイリングとも一致です。警部?!」
「待って、ジェシ。でも、3年前に無実が確定したモノばかりょ?」
「いいえ。私は納得していません」
「ソレにソレは、3年前に貴女が捜査ミスをしたコトの証明になる…え。何?マジ?クソ直ぐに行くわ」
突然かかってきたスマホを切り、ジェシを振り返る。
「一緒に来て、ジェシ。次の犠牲者ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
屋外の駐車場で、青いセダンがメラメラと萌えている。
現場には、神田消防+万世橋の消防車+パトカーが殺到し、赤や黄色のヘルメットに酸素ボンベの消防士+警官で騒然w
「被害者は、レナド・トビン。車中で手紙を開封したら…」
「爆発炎上?トビンは、環境総省の元幹部です」
「"地球防衛構想"の関係者?」
「YES。首謀者でした。グレザが真っ先に抗議メールを出した相手です。そして、グレザを連続爆破の黒幕扱いした環境官僚」
「2日間で2人の爆殺か…」
鑑識がラギィに耳打ちして何か手渡す。
ラギィはビニ手で渡された何かを摘む。
「見て。恐らく爆弾本体の破片ょ」
全員の視線が集まる。"mouve"の刻印w
「署名のコトは公表されてナイ。知ってるのは、私達と犯人だけ。コレは、弟子や模倣犯じゃナイ。グレザ本人の犯行だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
グレザの住所は神田佐久間町のボロいアパートだ。
呼び鈴を押すと、やたらガチャガチャと音がして…
薄くドアが開く。歩行器を持った老人だw
「国営放送なら見てないぞ」
「万世橋警察署ラギィ警部です。息子さんは?」
「ヤレヤレ。ホントにしつこい連中だ!」
キャスターのない交互型の歩行器だ。
「既に2人が死亡し、それぞれの子供達は2度と父親に会えません。貴方の息子さんは?」
「知らない。金が底をつくとブラリと現れる。アンタらのせいで、息子はニートだ」
「最後にココに現れたのは?」
「1ヵ月前に来て数日泊まって行った」
「部屋を拝見します」
「断る」
「令状があります」
「ソレを先に言え」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
思い切り狭い木造階段をギシギシ登るラギィ。
「床板が抜けるかも知れん!」
「御声援ありがとう」
「骨折しても知らんぞ!」←
階段下から元気に叫ぶ歩行器の老人。
「息子も父親似で親切なのね」
「警部。鍵はココです」
「必要ナイ。壊れてるわ」
薄いベニヤのドアを開けると…壮観だ!
「スゴいわね!」
「コレは…爆弾テロの司令部?」
「警部、全て国際環境テロ事件の関係資料です!」
部屋の中は、テープで天井から垂らし、あるいは壁に貼った書類や新聞記事が所狭しと並ぶ。床一面に書類が積まれるw
「…不健全な夢の墓碑銘?」
「警部!2人目の被害者トビンの記事です!」
「あら?ジェシ、貴女の記事もアルわ」
ラギィが指差す先に、3年前の新聞記事か、ジェシの写真が短冊のように垂れ下がっている。彼女も仲間入りのようだw
「やれやれ。ママが喜びます」
「警部。コレを見てください!起爆装置に使う基盤だ!」
「見せて…見覚えがアル。あ!爆弾の設計図もアルw」
ジェシが、丸めた図面を広げる。
「あぁ…大急ぎで奴を探さなきゃ」
第2章 アキボマーを追え
ラギィは"グレザの部屋"から戻り捜査会議を招集。
「設計図と部品は、今回の犯行に使われた爆弾と全て一致します」
「でも、爆発物はなかったから、恐らくグレザが持ち歩いてるのね」
「既に投函された可能性もアリます」
「グレザ博士は、失業してから住所不定の行方知れズです」
「次の標的を狙っているのね」
モニターからルイナの声がスル。
ラボからアプリで会議に参加中。
「ターゲット分析をしてみたわ」
画面は、東秋葉原の地図に変わる。
「神田練塀町の周辺ょ。犯人が使った2台の公衆電話は、約3km離れてる。手紙爆弾が投函された2つのポストの距離は2.4km。部品の1部は電気街のパーツ通りで調達されてる」
次々と地図にポイントが表示される。
「コレじゃホボ秋葉原全域だわ。範囲が広過ぎるの。ナンとかならない?ルイナ」
「そうょね。でも、連続犯は犯行を重ね、居所を隠そうとスル余り、逆に規則性を露呈スル。磁石の同じ極同士が反発し合うように、犯人は特定の場所を無意識に避ける。過去に訪れた場所から遠ざかろうとスル。データさえあれば、地理的プロファイリングで捜索範囲を狭めるられるわ」
「時間は?」
「何でも良いからデータを頂戴。1日くれる?」
「急いで」
ルイナはうなずき、アプリを切る。
「警部。グレザは、かつての教え子エイソ・アラノと文通をしていたそうです」
「終身刑で蔵前橋の重刑務所に収監中のエイソ・アラノ?」
「YES。アラノの公判中も、彼の精神的な支柱となって、ズッ支えていたようです。今も交流がアルかもしれません」
ラギィ警部は、麻取のジェシを振り返る。
「話を聞いて来てくれない?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所。
麻取のジェシを案内しながら、気軽に話しかける看守。
「爆弾小僧に面会ですね?」
「爆弾小僧?」
「エイソ・アラノのアダ名ですょ。洗剤で作った爆弾で自殺を図り、自分の手首を吹き飛ばした」
看守は、まるでプロ野球の話題でもスルかのようだ。
「ソレで清掃作業からは外されたのね」
「ネットで爆弾マニアと交流してたンですょ…さ、どうぞ。ごゆっくり」
特別面会室の厳重な鍵を開けてくれる。
粗末な机と椅子。そして、囚人服の男。
「エイソ・アラノ?」
「アンタは?」
「麻薬取締局のジェシ・マロイ」
アラノは、少し驚いたようだ。
「アンタがジェシ捜査官?光栄だな」
「弁護士の立会いは良いの?」
「役立たズは不要だ」
「4件の爆破と4件の殺人。重罰を受けて当然だわ」
「不幸な幼少期を考慮されると踏んだが…」
「今もグレザと文通を続けてるの?」
「この前の爆破のニュースを見た。デジャヴみたいだろ?俺の逮捕の時、アンタは停職中だったモノな。俺は、待ってたのに」
アラノの挑むような眼差し。
「…エメト・グレザは?」
「恐れず真実を語る人。温暖化信者どもの論敵だ」
「例えば?」
「やがて、地球は氷河期に覆われる。俺は、妄想型統合失調症だが、氷河期は俺みたいな人間を絶滅させルンだ」
「ふんアンタは1人じゃ爆弾は作れない。自殺も失敗したじゃナイの」
「材料が足りなかっただけだ。グレザは預言を受け、俺は実行スル。爆発点の純粋な威力を感じたいなら…俺に言ってくれ」
ココでキレたジェシは、鼻と鼻がぶつかる距離でワメく。
「ソンなモン、知ってるわ!アンタのクソ爆弾で吹っ飛んだ、フィアンセの写真を見た時にね!飛び散った肉体の断片を、スプーンでラジエターからカキ集めたのはワ・タ・シ!」
しかし、アラノは上を逝く。
「そりゃ…萌え萌えだな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATOのラボ。車椅子の超天才ルイナがラボに戻ると、相棒のストリート系ハッカーのスピアがサブスクで映画鑑賞中。
「あらあら。ラギィの宿題のターゲット分析、順調なのかしら?」
「あ。終わってる。さっき送ったけど」
「…うーんサスガね」
スピアの"仕事"を猛スピードで読んで逝くルイナ。
あ、因みに、ルイナはメイド服でスピアはスク水だ。
ココはアキバだからね←
「何なのコレ?地理でプロファイリングしてるの?」
「グレザ博士は、アキバ工科大学で"ガリレオ研究会"を主宰してた。その後、市ヶ谷の顧問になった」
「あら?年老いたお父さんと同居してるわ」
「コレは、彼の声明文ょ"環境派は地球温暖化を商品化している。排出権売買は奴隷売買に等しく、ソコに自由は存在し得ない"」
「うーん何を言ってるのかサッパリけど」
「全く賛同出来ないけど、学術的に考えれば理解できる部分もアルわ。不本意だけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋葉原地方裁判所。通称アキバ地裁。
「逃げろ!爆弾だ!」
「落ち着いて!走らないで!」
「爆発物処理班を呼べ!」
必死の形相の人々が門から転がり出て来る。後退して規制線を張る警官隊と入れ替わりに耐爆スーツが数体現場に入る。
「状況は?」
「あ、ラギィ警部。SATOのパツキン姐さんの分析通りでした。間もなく避難終了です」
「手紙爆弾なの?」
「例の大型封筒タイプでした。探知機で発見。宛先は、グレザ事件を扱った裁判長」
唇を噛むラギィ。
「で、爆弾は?」
「無事captureしました」
「え?」
警官が指差す先に、キャタピラ付きのロボットが器用にアームで封筒を摘んで、地裁の階段を降りて来るのが見える。
「爆発物処理班のハッパです。ラギィ警部?」
「YES。コレからどうするの?」
「マニュアルどおりです。前庭に土嚢でブンカーを作りました。サッサとヤッちゃいたいンですが?」
「異議ナシ」
ハッパ班長がトーキーに喋ると、ロボットは階段を降りて回れ右。コの字に積まれた土嚢の中に封筒をユックリ下ろす。
「X線画像が来ました。ご覧になりますか?」
御丁寧にグレザの部屋で押収した設計図との対比画像だw
「そっくりじゃないの!」
「しかし、こんな詳細設計図、何処で見つけたんです?今どきの爆弾テロリストは脇が甘いな」
「押収した証拠がやっと役立ったわ。爆発させて」
「了解」
心なしかハッパ班長はウレしそうだ←
封筒を置いてロボットは後退。停車。
「スーパーナチュラル弾を装填しろ」
耐爆スーツがロボットのライフルに弾丸を装填スル。
「準備完了です」
「レーザー照準。自由発射」
「了解」
ライフルの横からレーザーが飛ぶと、ハッパ班長のタブレット画像に十文字の照準が現れる。
封筒を透視したX線画像で基盤部分に慎重に狙いを定める。いいぞ、そこだ。やれ!大爆発…
「土嚢のお陰で小爆発だw確認しろ」
シルエット的に"オトナのドラえもん"を彷彿させる丸いヘルメットの耐爆スーツが土嚢に近づきサムアップのサイン。
「食塩弾は命中。成功です」
「コレでまた、証拠がドッサリ増えましたね」
「SATOのパツキン姐さんが大喜びだ。現場はデータの宝庫だってな。おい、何も触るな。姐さんに叱られるぞ!」
爆発物処理班と警官隊が握手。
遠く野次馬からも拍手が沸く。
「しかし、頭の良い犯人は、こうなるコトはわかってたハズょね」
「同じ手口を繰り返せば、自分が不利になるだけなのに」
「全員避難して裁判所は空ッポになるし」
ソコでハタと気がつくラギィ警部。
「しまった!犯人の目的は裁判所への潜入ょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「爆弾騒ぎで全員避難中だった裁判所からアキボマーの資料が盗まれました!」
捜査本部の会議は、一挙に緊張スル。
「アキボマー事件の関係者の名前と住所がテロリストに漏れた。判事も!証人も!全員!」
「標的が多過ぎて守り切れないわ」
「とにかく、グレザの足取りを追わなきゃ。ルイナ?」
ラギィ警部の切り札は、ラボからリモートで応える。
「もう1回、捜索範囲を絞る?」
モニターに、ほぼアキバ全域の網掛け画像w
「ウチのプロファイルだと、孤独を愛する反社会的な男ナンだけど」
「ソレだとこんな感じ」
「ねぇねぇ一体何平方kmアルと思ってるの?」
「33」
画像が示す赤い網掛けを前に、本部全員の溜め息←
「姐さん!ムダかと思うけど、アラノは2度、グレザとメールを交換してるぜ。内容は無害だけど…」
「刑事さん、発信元は?」
「パーツ通りのネットカフェ。開店以来、監視カメラが故障してるユルい店で目撃者はナシ。現金払い」
ダメ元で口にしたのは若い刑事だ。
「ソレょ!キラーデータ、キター!」
「ねぇねぇ何なのアンタ達!上司のアタシに黙っててルイナには入れ知恵?ほら、パーツ通りのネカフェのリスト!」
「どんなデータでも良いの。データが増えるほど、みなさんの捜査範囲を絞り込めます!」
画像の中の地図の上の赤いシミがみるみる小さくなる。
「コレで少しはマシになったかしら?」
「ルイナ、コレょコレ!コレが欲しかったの!パーツ通りに全捜査員を投入!グレザを見つけるまで誰1人帰って来るな!」
「ガッテンだー!GO GO GO!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びラボのルイナにリモートで話しかけるミユリさん。
「あら。紅茶?やっぱりメイドは紅茶ょね」
「あ、ミユリ姉様。実はSATOのコーヒー、激マズで」
「…ルイナ。ジェシを見た時の貴女の顔ったら」
「え。姉様に見られた?…だって、恋人はみんな同僚って、ドンだけ世界狭いの?やっぱり大切なのは、推しゴト以外の2人の時間だと思うのです」
「ルイナ。貴女、アフターの経験は?」
「秋葉原メイドは店外交友禁止ですぅ!」
「1度、神田明神下のファミレスに逝こう?」
「えっ!テリィたんとアフター?!」
このタイミングで現場から第1報←
「警部!パーツ通りのネカフェで容疑者グレザを発見!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「何で突入しないの?」
「奴は作業中です。恐らく爆弾を組み立ててる…」
「ええっ?!」
パーツ通りの電子工作カフェ"パーツ"。懐かしいサイバーパンク空間の中で電子工作に打ち込む没頭系メイドカフェ。
「な、何で私がメイド服?…あら、フレンチ?カワイイかしら?じゃ行くわょ!おかえりなさいませ!御主人様!」
無理矢理メイド服を着せられたラギィ警部が、奥のブースでモシかしたら爆弾を制作中のグレザの背中に声をかける。
「Uper eatsのデリバリーです」
「頼んでない」
「おめでとうございます!当店1000人目の御帰宅を記念して"ヒートアップライス"が当たりましたぁ!パチパチ」
「え。ヒートアップライス?マチガイダの?じ、じゃ置いておけ」
「サインをお願いします、御主人様!」
「ココか?」
ラギィは、メイド服袖口の仕込みマイクにささやく。
「突入」
次の瞬間、足元に閃光手榴弾が転がるや光の嵐!
「万世橋警察署!万世橋警察署!手を上げろ!机を離れルンだ!」
耐閃光ゴーグルにガスマスクをした、完全武装の警官隊がサイレンサー付きの短機関銃を構えて次々と飛び込んで来るw
「両手をハゲ頭の後ろに回してひざまずけ!」
「ハゲは余計だ。モノホンのメイドなら3時半から30分、店内ライブの準備でいなくなる。今度踏み込む時は覚えておくと良い。で、私に何の用だ?」
「トボけないで!」
その声に振り向いたグレザは、何ゴトか納得してつぶやく。
「…そうか。そーゆーコトか」
「爆弾処理班を呼べ!大至急!」
「そうだな。そのミニドローンはバランスが良くナイ。適当に処分してくれ…しかし、うれしい再会だ、ジェシ捜査官。君はメイド服は着ないのか?」
第3章 爆弾魔のコヒーレント
捜査本部の取調室。グレザの前に写真を叩きつけるラギィ。
「ジウオ・ルトン、レナド・トビン…みんな死んだ。全部アンタの仕事ね?」
「依頼人は、事件と無関係です」
「お黙り!証拠があるっ!消印、通話記録、購入記録。全部"パパの家"にあったわ。私の写真もね!」
ジェシ捜査官が鬼のような形相で机を叩く。
しかし、グレザの弁護士も負けてはいない。
「ふん。全部、状況証拠ばかりじゃナイか」
「黙れ!このマヌケなタマ無し弁護士!グレザ!アンタは、声明文じゃヤタラ威勢が良かったのに、今日はヤケに大人しいじゃナイの!」
「威勢ナンかどーでも良い。私は、警察の嫌がらせには屈しナイ」
「何のコト?」
傍らからラギィ警部が尋ねると、グレザはジェシを指差す。
「コイツは、私の同僚や雇用先にアレコレ聞き回り、挙句にマスコミに個人情報を漏らして停職になった女だぞ」
だが、ジェシも口角泡を飛ばして動かぬ証拠を叩きつけるw
「コレを見て!声明文の例の署名が、今回の爆弾の破片から見つかった!"mouve"よっ!」
「ソレは未公開情報だわ」
「内部情報だろ?警察の人間なら誰でも知っている」
全く動ぜず指摘するグレザ。
「コレは、私の私物ょ!この写真を見て。爆弾処理班のビルレ・ガーン。私の元カレ。貴方の爆弾で3年前に吹っ飛んだ私のフィアンセ。肉片すら残らなかった!」
「心より同情スルょジェシ捜査官。聡明な麻取の君が、まさか妻や子供のいる相手と不倫とは。しかし、不倫と割り切れば、コレも1つの終わり方だ」
「容疑と無関係だ。グレザ、ソレ以上しゃべるな」
弁護士が遮るけど、もう双方止まらない。
しかし…フィアンセって不倫だったのかw
「お黙り!まだ何も終わってない。彼は、3才の息子を残しアンタの爆弾で死んだ!そして、教え子に罪を着せた!」
「論文を悪用した学生の責任は、私にはナイ」
「全て解決済みの事件の話だ」
グレザと弁護士は主張スル。
「うまく操っただけでしょ?」
「アラノには、罪を償えと言った」
「偽善者ね。性格が歪んでるわ」
「アンタの歪んだ証拠には閉口する」
「終了だ。グレザ、ココまでだ」
弁護士が遮り、立ち上がる。
「まだよっ!」
絶叫するジェシ。さすがにラギィが割って入る。
「終わりにしましょう」
弁護士に引きずられるようにして出て逝くグレザが叫ぶ。
「コヒーレントを調べろ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボでルイナがスピアの淹れたコーヒーをマズそうに飲んでいると、アプリ経由のオンラインでミユリさんからコール。
「おはよう、ルイナ。徹夜したの?」
「あ、ミユリ姉様。徹夜ではなく早起きです。CDプレイヤーは見つかりましたか?」
「ううん。でも、理系の御主人様が修理中ょ」
「あ。ズルですぅソレ」
「いいえ、営業ょ。ツーチェキでお願いしただけ」
画像の向こうでノックの音がして誰かがカットイン。
「あ。ブラド御主人様。直りました?」
「うん、メイド長。でも、ちょっと問題が…音質を上げようと思ったら」
ベロベロに焦げたDVDが現れハッと息を呑むミユリさん。
「私のビバルディ?どうしてこんなコトに…」
「悪かった、メイド長。弁償スルょ」
「い、いいの。ありがと」
コソコソと画面から消える御主人様。
クスクス笑いながら、ルイナが話す。
「姉様。コヒーレントって御存知?」
「知らないわ。美味しいの?」
「例のアキボマーだけど、ラギィが捕まえた犯人、証拠を突きつけられても全く動じないばかりか、コヒーレントって一言つぶやいたらしくて」
ミユリさんのオールマイティ系のアドバイス。
「も少しカフェイン入れてみたら?」←
ルイナは、既に飲み干して重ねたコーヒーの紙コップを見て考え込んでいたけど、突然"雷"に打たれたようにピクリ!
「そうだわ!干渉性が高過ぎるのょ!姉様、コレは容疑者の捜索に私が使ったデータポイントです」
「え、どれどれ?良くまとまってるじゃナイ?」
「姉様、まとまり過ぎてルンです。データにハズレが全くナイ。お陰で全く誤差なく、推定どおりドンピシャでコトが運んでるw」
「ソレはムリね。アキバってソンなに甘くナイわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部とSATOラボの間でリモート論戦が勃発!
「ルイナ!良過ぎるって何?何の話をしてるの?」
「ラギィ!グレザは、犯人じゃナイの。全ての証拠がグレザが犯人だと示唆してる。選択肢が全く存在しない状況って、実は恐ろしく不自然なの」
「ルイナ。貴女、グレザに遊ばれてルンじゃナイ?」
「グレザ自身、過去の声明文や主張は極めて論理的だし、暴力を擁護したコトもナイ」
「でも、天才の殺人鬼って何人か知ってるけど」
「ラギィ、わかってくれないの?」
「天才同士で庇い合ってるようにも見えちょうのょね」
ルイナは、キッパリと逝い切る。
「私は、グレザ博士のためなら、証言だってスルから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は、ブラウン管が砂嵐状態のテレビを斜めに傾けるw
「頼む!写ってくれょ…」
昔懐かしいTVの室内アンテナをアチコチに向けてみる。
「テリィ様!こんな骨董品を何処から?」
「御屋敷が昭和通りにあった頃からのガラクタさ」
「あら。液晶テレビは?」
「壊れた。GWなのに海外ドラマのラストシーズンが見られナイょ。例のアキボマー事件の捜査はどうなった?」
「ラギィが容疑者を逮捕しました」
「へぇ。ラギィは、まだお仕事ちう?」
「容疑者に納得がいかないそうです」
「ソレで、感情的になってるのか。ミユリさんは、どう思う?」
「アキボマーは、氷河期が来るって騒いでる人でしょ?地球温暖化を否定してましたょね?」
「過激な理論家だから殺人鬼とは限らナイさ。ソレに、昔のヲタクは、みんな意見を持っていた」
「また市場時代の秋葉原のお話しですか?」
「聞きたい?」
「あの頃、私達アキバのメイドは、TOに愛された者から、順にスーパーヒロインに覚醒して逝きました。時空が揺らいで"リアルの裂け目"が開き出した頃のお話です」
「その頃から、アキバのメイドが、メイドであるコトより、感情を優先させたコトがアルかい?ミユリさんも。ルイナも」
ミユリさんは、微笑んで首を横に振り、何ゴトかを考える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部に居候してるルイナのラボ。
「わ!ミユリ姉様…じゃなかった、ムーンライトセレナーダーwどーしたンですか、いきなりステーキ、じゃなかった、イキナリ変身して登場?」
ミユリさんが変身したスーパーヒロイン、ムーンライトセレナーダーは白のヘソ出しセパレートのコスプレだ。僕好み←
「ルイナ。貴女の話を聞きに来たわ。教えてくれる?」
「ありがとう、ムーンライトセレナーダー。今日までのアキボマーの動きは12地点に散らばっています」
「ラギィ達の捜索範囲ね?」
「で、その12地点全てが、私の方程式に例外なく一致するワケです」
「ソレは、証拠が有力だからでしょ?」
「有力過ぎるの。つまり…例えば、ホワイトボードにマグネットで四角形を作る時には最低4つが必要で、ソレ以上は不要なでしょ?ソレが今回は、5つも6つもマグネットが出て来て、必要以上の証拠が揃い過ぎてる。しかも、全て完璧なデータばかり」
「アリ得るコトではアルと思うけど」
「確率的に何億分の1の世界です。しかも、グレザは博士号の知能を持つ人です。こんなバカをするハズがナイ。ねぇミユリ姉様…じゃなかった、ムーンライトセレナーダー。この話をラギィにしたけど、わかってもらえないの」
ムーンライトセレナーダーはラボから出る間際に振り向く。
「わかったわ、ルイナ」
「ムーンライトセレナーダー、晩ご飯を食べて行く(テリィたんとのアフターの話だけどw)?」
「ううん。アキバに戻るわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜も捜査本部は眠らない。
「警部!アキボマー事件も含めて証拠を洗い直した結果、色々わかってきました」
「色々って何ょ?」
「アラノから押収したフラッシュメモリは、暗号化ソフトでした。奴のPCを見直し中」
狼狽えるジェシ捜査官。
「どーゆーコト?グレザの容疑を疑い出したの?証拠がデッチ上げだとでも?」
「いや。グレザに執着しないコトにしただけ」
「え。待ってょ…」
ココでラボからストリート系ハッカー、スピアが割り込む。
「アラノの暗号だけど、とあるクッキングウェブサイトのチャットルームでのアバター同士の料理チャットで使われてたわ」
「料理チャット?」
「具材のレシピや調理の焼き時間が、実は爆弾のレシピだった。アラノのチャット相手は"jaguar note20"を名乗ってる。刻印"mouve"についての言及も見つけたわ」
「そのチャット相手がグレザょ!」
もはや、ジェシの声は絶叫に近いw
「恐らく違うわ。と言うのも、チャットの中でアラノは、グレザに心酔ドコロか、温暖化革命を否定するクズだと断定してる。尊敬のカケラも無いンだけど、ソレをまた、チャットの相手"jaguar note20"が煽ってるの」
「2人でグレザをハメたの?その2人を追跡出来る?」
「ムリ。民間の通信衛星を噛ませて回線にスクランブルをかけてる」
「とりあえず、ジェシ。リアルでアラノを連れて来て!」
信じられないと逝う顔のジェシ。呆然と立ちつくすw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所。再びジェシは看守と独房へ向かう。
「奴は、今日の作業は早上がりだ」
「ちょうど良かったわ」
「あの野郎、久々に注目されて喜んでたょ」
ブザーと共に独房エリアへの鉄格子が開く。
ちょうどアラノは独房へ戻されるトコロだ。
ジェシと視線が合い、ウレしそうに微笑んで独房に消える。
「奴は今まで何処に?」
「体調を崩して医務室に行ってた」
「体調?コロナとか?」
「まさか。どーせ接着剤の臭いの嗅ぎ過ぎだ」
ジェシは、眉をひそめる。
「医薬品は使用禁止のハズょね…嫌な予感がスルわ」
「ん?確かに接着剤の臭いが強烈だなw」
「爆弾処理班を…」
次の瞬間、アラノの独房から焔と煙がドッと噴き出し爆発の大音響!独房棟に響き渡る火災警報、スプリンクラー作動w
第4章 E pur si muove
捜査本部に衝撃が走る。
「独房で爆殺?いったいどうやって?」
「外部の爆弾テロリストが協力をした模様です!」
「自殺したアラノも被害者なのょ」
ふと、ラギィ警部は遠い目をスル。
「犯人は、グレザじゃナイ。3年前のアキボマー騒ぎもアラノの単独犯行だわ。黒幕がグレザに罪を着せてる。グレザに思いつく相手を聞くしか無いわ」
「しかし、グレザは警察には心を開かないでしょう」
「じゃ他の人に行ってもらいましょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「"チーム6"コマンダー、コード4。オーバー」
「"コアラ"は舞い降りた。全周防御!周辺警戒!」
「外人傭兵、スナイパーに注意」
神田リバーの川沿い神田佐久間町に空中機動旅団が出撃。
戦闘ヘリが飛び交い、8輪の重装甲機動車が走り回る中…
隠密ヘリ"ナイトレイド"から降り立つ…車椅子のルイナw
「グレザ博士」
「ルイナ君か。確か首相官邸の最年少アドバイザーだったかな。釣った魚を逃しては針に苦しむ姿を見に来る…キャッチ&リリースを楽しむとは…君も染まったな」
「今日は、お話しがあって参りました」
ルイナの周囲に少なくとも3コ小隊の空挺部隊が展開、全周に対して小銃、機関銃、バズーカ、ロケット砲を向けてるw
「さすが、国家資産に計上される超天才の外出だな。護衛に国も出費を惜しまナイ。しかし、ルイナ君。もっと研究に精を出したらどーだ?帰ってくれ」
「私は、人道主義に貫かれた博士の地球寒冷化理論を尊敬しています。しかし、人道主義は命を救うためにあります」
「ヘリの爆音がうるさくて良く聞こえんな」
「地球温暖化論の危うさは、私も理解しています。人類を悲劇に導く危険性もアル」
おや?そうか、と逝う顔のグレザ。
「危険な賭けだとは思いますが、秋葉原だけでも博士の理論で救えるかもしれナイ。人の命を救うコトは、人道主義の理想ですょね?ソレが例えヲタクの命であっても」
グレザは、ルイナを見詰める。
「ぜひ博士のお力添えをください。博士を標的にする黒幕に何か心当たりはありませんか?」
「…パラダイムシフト。被害者に答えを求めるコトだ」
「どういうコトです?」
アパートに消える直前にグレザは振り返る。
「君は超天才ナンだろ?自分で答えを出せ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻の捜査本部。
「アラノの爆弾の材料は、何れも刑務所内では入手不可能なモノばかりです」
「外部からの持ち込みね?面会者の記録を調べて」
「今、やってます!」
ラボに戻ったルイナがアプリで話に割り込んで来る。
「ルイナ?グレザは何だって?」
「重大なヒントをくれた。発想の転換ょ」
「パラダイス?」
ラギィは、話に乗れてナイw
「殺されたのは、グレザ博士の敵ではなく味方ょ」
「味方?」
「グレザ博士に言われ、事件を最初から法的に見直してみた。1人目のジウオ・リトンは、最初にグレザを実名で報道した新聞記者ょ」
「だから?」
「警察関係者が彼に情報を漏らしたコトは明らかで、公判では検察側の有力証拠のいくつかが却下され、結果として、グレザの無罪に貢献した」
「何てコトw2人目のレナド・トビンは?」
「グレザ告発の重要証人だったけど、告発後に独占手記"地球環境私史"の出版を発表、直後に裁判長が供述を無効にしてる」
「その裁判長も手紙爆弾で狙われました。ロボットが処理しましたが」
ラギィ警部は、腹落ちした顔で総括。
「わかった。確かにグレザの無罪に"貢献"した人ばかりが狙われてる。となると、黒幕は、グレザに怨みを持つ被害者の家族とか友人?」
「当局の人間の可能性もあります。警部、昨日アラノと面会した者のリストです」
「誰が会ってるの?…えっ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
麻取のジェシ取締官だw
「ハナからグレザを犯人扱いして、私達の捜査をミスリードさせたわね?」
「そう確信してたから!ソレが私の義務」
「勝手にルイナを呼んで利用した」
「彼女は、捜査に必要だった!」
ジェシは、取り調べを受けている。尋問は、ラギィ警部←
「アラノとの面会では何を?」
「仕事ょ」
「不倫を暴露され、仕返しに自殺スルよう仕向けた?」
「誰の話ょ?グレザの名を漏らし、捜査をフイにしたのは、確かに私。バカな不倫をして捨てられた。でも、私がアラノに会ったのは、サッサと真実を知りたかったから」
「あらあらあら」
「捜査資料に私の懲戒処分記録がある。ちゃんと読んで。でも、私は取締官で殺人者じゃナイ」
「貴女は担当をハズれて」
「勝手にして」
立ち上がり、取調室を出て逝くジェシ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜も捜査本部は眠らない。
「ジェシ取締官は、3年前のアキボマー事件当時に情報漏洩で停職処分になってます」
「昨日の監視カメラを見る限り、ジェシ取締官は面会時にはアラノに何も渡していません」
「じゃ誰が爆弾の材料を渡したの?」
ソコへ若い刑事が飛び込んで来る。
「警部、誰が渡したか判明しました!刑務所内部の人間なら面会者リストには載りません。看守の経歴を調べたンです。で、この看守」
本部のモニターに画像に看守の顔写真が出る。
「この男…アラノ面会の時に案内してくれた看守だわ!」
「警部、マジすか?奴の名は、リーケ・トリク。3年前にアキボマー事件で殉職した爆発物処理班の同僚です。同僚が吹き飛ぶトコロを目の当たりにして処理班を辞職」
「…そして、看守になった?ソレ、グレザに復讐したくて看守になったワケ?もしかして、グレザを無罪にした人も恨んでる?」
「動機がわかった!黒幕はコイツ!捕まえて!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
航空券を見て、男はニヤリと笑う。秋葉原ゲートウェイ空港からクアラルンプール直行便。飛行艇のファーストクラス。
その時!
「万世橋警察署!万世橋警察署!リーケ・トリク、動くな!」
安普請の薄っぺらい木製ドアが吹っ飛んで、手に手に拳銃や銃口がラッパ型に開いた音波銃を構えた警官隊が突入スル!
「手を上げろ!膝をつけ!」
「早くしろ!両手は頭の後ろだ!」
「リーケ・トラク!エイソ・アラノに自殺用爆弾の材料を渡したな?」
「アイツは…終身刑じゃ軽過ぎルンだょ!」
「ジウオ・ルトンとレナド・トビンは?」
「グレザを無罪にした連中は、みんな罪を償うべきだ!アキボマーを生んだのは奴等だぞ!」
ワメくリーケを後ろ手にして手錠をかける警官隊。
「リーケ・トラク。秋葉原における連続爆弾テロ容疑で逮捕スル。お前は、もう終わりだ」
「おっと。ソレはどーかな?」
「え?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
職を解かれたジェシ取締官は、私物の入った段ボール箱を抱え万世橋警察署の地下駐車場を歩く。
麻薬取締局の黒いセダンの前で立ち止まり、バックドアを開けてトランクに段ボール箱を仕舞う。
その車の下に、小さな箱が…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ムーンライトセレナーダーが捜査本部に出現。
「ラギィ、リーケ・トラクの次の標的って誰だったの?」
「わからない。奴のリストは押収したから、その中の誰かだとは思うけど」
「そのリスト、信用出来るの?」
ムーンライトセレナーダーの鋭い突っ込みw
「え。そう言えば、奴には前も騙されたし…」
「ねぇラギィ。この前、犯人は裁判所に押し入ったのでしょ?彼はソコで何を探したのかしら?」
「そりゃ裁判資料ょね?担当した麻取の名前とか…あっ!神田明神も照覧あれ!次の狙いはジェシだわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下駐車場のジェシは、ドライバーズシートに座って、エンジンをかける…車の下で小さな赤いランプが明滅を始める。
「ジェシ!何処にいるの?」
「車の中ょ。貴女に担当をハズされたから局に帰るわ」
「車から降りないで!次の標的は貴女ょ!」
え。ダッシュボードのディスプレイに"your trip will end in 19:15"の文字。タイマーは秒刻みでカウントダウン。
「ゴメン、みんな。遅過ぎたわ。あと19分で爆発する」
「動かないで!もしかしたらシートに起爆スイッチが仕込まれてる!」
「ジェシ、電話を切らないで。必ず助ける!」
捜査本部は騒然となる。
「皇居に出動中の爆発物処理班を呼び戻します!あと30分」
「間に合わない。SATOの戦闘工兵は?」
「月面です」
その時、モニターからルイナの叫び声w
「STOP!誰か止めて!ソコのハゲ頭!」
捜査本部のみんなが振り向くと、今回、みんなが見慣れたハゲ頭が段ボール箱を抱えてエレベーターに乗り込むトコロ。
「御同行願います!」
「え。何だ?押収品を取り返しに来ただけだぞ」
「エメト・グレザ博士、助けてください!」
警官に挟まれ、モニターの前に"連行"されるグレザ。
「ルイナ君か?君のコトならもう助けたぞ」
「ジェシ取締官の車の爆弾を解除して欲しいのです」
「そりゃ爆弾処理班の仕事だ」
「時間がナイのです」
「悪いな」
グレザは、エレベーターに乗ってボタンを押すが何も起こらズ、逆にドアが開くw
ストリート系ハッカーのスピアが、警察署のエレベーターをハッキングしている。
「E pur si muove!」
「…気づいていたか。素晴らしい洞察力だな、ルイナ君」
「"だがしかし、地球は回っている"…ガリレヲ・ガリレイの言葉です。彼は、天動説万能の世の中において、異端と呼ばれても地動説を唱えるコトをやめなかった。貴方の刻印"muove"の由来ですょね?」
「そのとおり。地球温暖化論者が国連までをも動かす現代において、所詮、我ら氷河期論者は異端として、宗教裁判で裁かれる身なのだょ」
「確かに、ガリレヲは地動説ヲタクだった。でも、ガリレヲは無駄に過激な言動はせズ、助けが必要なヲタクを決して見捨てなかった。だのに、博士。アナタは?」
溜め息をつき、肩を落とすハゲ頭←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下駐車場にサイレンを鳴らしパトカーが続々到着!
「爆弾のコンピューターに侵入した」
停車したパトカーのボンネットでPCを開くスピア。
PCを取り囲むムーンライトセレナーダーとラギィ。
「ジェシ、大丈夫?」
「なぜ彼がいるの?」
「私が協力を頼んだ。落ち着いて」
ジェシは、ドライバーズシートに座りスマホで話す。
ラギィの横に立つのは彼女の宿敵エメト・グレザだ。
「確かに、私の設計思想を継いだ爆弾だ。爆発すれば、彼女は間違いなく吹っ飛ぶだろう」
「解除は可能なの?」
「シートに仕込んだ起爆スイッチは、エアバックで無効に出来る。だが、タイマーは別系統でカウントダウンを止めれば即、爆発スル」
スピアのスマホからルイナが提案スル。
「爆弾のクロックをダマせナイかしら」
「出来る?スピア」
「そっか。リセットすれば、もう爆発したと認識されてコンピュータはコマンドを失う。やってみる価値ありそー」
「強制終了するワケだな、ナルホド」
うなずくハゲ頭。凄まじい速度でキーボードを叩くスピア。
「あと1分しかないわ」
「わかってる」
「エアバックの作動は?」
ハゲ頭の冷静な回答。
「ソレは同時に行えるから問題ない。タイマーの解除直前にエアバック、直後の2〜3秒で脱出すればホボ問題無い…ハズ」
「OK。スーパーヒロインのお仕事ね。私が逝きます」
ムーンライトセレナーダーがスタスタと車に歩み寄る。
「近づかないで、ムーンライトセレナーダー!スーパーヒロインだって爆弾が爆発したら死ぬのよ?」
「ルイナとスピアが解除するから2人で飛び出そ?GWの後半は、元佐久間町の"秋の湯"でノンビリょ」
「異議ナシ」
と、逝いながら天を仰ぐジェシ。
「最後のプログラム。行くわょ!」
「スタンバイ?」
「GO!タイマーマイナス5。なう!」
エアバックが膨らむ!ジェシが飛び降りる!ムーンライトセレナーダーがジェシを抱き抱えて、文字通り、飛んで戻る←
「下がれ!伏せろ!」
「…爆発しない?」
「解除成功だ!おめでとう!」
ムーンライトセレナーダーに抱かれたジェシがVサイン!
「手も足もあるわ!」
地下駐車場に拍手と歓声が沸く。
背を向けて去ろうとするグレザ。
ジェシが駆け寄る。
「私、なんて言えば良いのか」
「何も言うな。私は、押収品を引き取りに来ただけだ」
「博士。貴方さえ良ければ…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜"潜り酒場"。
「わ。シャンパンだ!買うべきか…」
「買わざるべきか」
「まぁテリィたんとミユリ姉様ったらシェイクスピア?」
みんなでワイワイやってる。
「賭けの勝敗がついたの?テリィたん」
「うん。反消費主義は気力を浪費するコトが証明された。新しいモットーは、ヲタクはヲタクの身の丈に合った消費」
「何ゴトも」
ミユリさんが二の句を継いで乾杯←
「そして、今回もアキバの危機を救ったルイナに」
「テリィたん、珍しいわね。リモート呑みの私にまで気を使ってくれるナンて。また私を信用スル気になった?」
「ずっと信頼してるょ」
「そうだっけ?」
「ルイナになら命を預けられるわ」
「ミユリ姉様まで。全くお2人はw」
ココで僕はいつもの話をスル。
「秋葉原に"リアルの裂け目"が開いて、TOがホンキで推したメイドは、次々とスーパーヒロインに覚醒して逝った」
「そぉよね。そして、池袋から流れて来た誰かさんも、今ではムーンライトセレナーダーだモノ」
「でもね。その逆はナイんだ」
「逆?」
「考えてみて。僕が今もタダのヲタクで、スーパーヒーローでナイのは、ナゼだか知ってるかい?」
「え。何でかしら?」
「ソレはね。ミユリさんが僕をホンキで推してナイからさ」
大ウケ!僕はカウンターの中のミユリさんにドヤ顔←
「(えっへん。どんなモンだいw)」
「ミユリ姉様。テリィたんが何か言ってるけど」
「放っておいて。だって、スーパーヒロイン自体がヲタクの妄想なのょクスクス」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"連続爆弾魔"をテーマに、収監中の連続爆弾魔、彼が心酔する氷河期論者、爆殺される温暖化論者、爆弾魔を追う麻薬取締官、殉職した爆発物処理班員、爆弾魔を追う超天才、ハッカー、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公とヒロインの賭けやメイドのヒロインへの覚醒などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、コロナ以前の賑わいを取り戻しつつある?秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。