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12 孫娘の役割

進一君や周りの人に助けられて町で暮らす祥子の生活です。少しは、読めるに値するといいと思います。

 おじい様のところで暮らすようになって、私の日常生活は驚くことになっている。学生生活だけではない。孫娘のすごさを恐れている。毎日、毎日先生が来る。、日には二人も見える。お茶にお花、立ち居振る舞い、人との接し方、ダンス教師に外国教師、私は自分ではないみたい。

 おじい様が、母にした続きを私は全部受け継いでいる。どんなに辛くても受け入れている。母ならこうしただろう。母ならどう考えたかしらと、想い描いた。

 でも、私は山で生まれた子だ。どこかが違うと自分では思うのだが、他人は、おじい様の孫であり、母の子だと見る。何もかも出来て当たり前とみなす。私がどれほどの努力をしなければいけないか、解る人はいない。もたついたり、へまをすれば、どうしてと不思議がられる。

 おじい様も、仲田さんまでも期待をかけすぎる。私の能力以上を要求するけど、叶うわけがない。私が望むのは、山の友達だけなのに…。山ではなく、冬の大きな行事が待ち受けている。

「私ね、二ブロック先まで歩いていくわ。そこのお友達とクリスマスをするの。一時間後に迎えに来てくれる」 竹中さんに言った。

「寒いですから送ります」と いいながら、バックミラーを見ている。

「いいの。コートを着ているし、ブーツに履き替えるから大丈夫よ」

「遅い時間ですから、危険です。やめられたほうがいいと思います」 ハンドルを持つ身体をひねりながら、後ろを振り向いていた。

「静かな所を歩きたいの。心配してくれてありがとう。帰っていいわ。一人で行きたいの」 いつも私の行く所へ運転してくれる竹中さんは気使ってくれた。私は聞き入れず、ブーツに履き替えて車から外に出た。車は真っ直ぐに二本の線を残して走り去っていった。

 私は角を曲がり歩いた。辺りはサクサクとブーツに踏まれた雪がくぼむ音がするだけ。道路は白く街灯に照らされている。車の跡が無いのは雪の降り積もりで消えたのだろう。静かだ。とても静かだ。

 歩道も白だけ。木の枝も雪を抱えて重くたれている。ポタッと音をさせて下の雪と仲良しになっている。家々は、楽しいおしゃべりをして、おいしい食事を済ませ、一家団欒の後、それぞれにお休みしたのだろう。静かに雪が舞い落ちるだけ。

 私は一人で歩いていった。サクサクと音を立てて歩いた。 歩道を少し控えた所に門を見つけた。一度来た家の門だ。私は階段を上って門柱に背中をつけて座り込んだ。

「私ね、一人でクリスマスパーテーをするの。あなた達くるくる舞い降りてきて、私の足に乗ってくれない。ホワイトクリスマスにしたいの。私は動かないようにするから、沢山のお友達を連れてきてね」

 フワフワ舞い降りていた白い踊り子たちは、ぐるぐる、ポタポタと重い足取りになってきた。私は白い服をまとい始めた。

「あなた達に話してあげるね。私は今まで、とても暖かくて素敵なお部屋で踊っていたの。会社の体育館よ。ワン、ツウ、スリー、ワン、ツウ、スリーとね。初めてなの。男の人が次々と変わってくるの。その方たち、私の知らない人ばかりよ。疲れたからイスに掛けようとしても、また違う人が来るの。足も痛くなってきたの。あまり履いたことのない靴だけど、すごくかわいらしいの。見せてあげたかったわ。今は見られないわよ。疲れたから車の中においてきたの。このブーツも大好きよ。私ね、このブーツを履いて一緒に歩きたかったんだけど、誘ってもらえなかったの。他の人と行ったみたいね」 私は揺り起こされた。ぼんやりしていた。竹中さんの声がやっと解ってきた。

「お嬢様、そのような所にいては…。私が抱き上げますよ。いいですね」

「迎えに来てくれたの。私ね足が痛くなったから、この家のところで休んでいたの」

「どうしてなんです。身体中真っ白ですよ。病気にならなければいいですがね」 抱き上げられたときは気分が悪くなってきた。

「しょう…」 遠くで誰かが呼んだような気がした。


 寝苦しい。動きが取れない。なぜこんなに動けないのかしら…。私は薄目を開けた。目に入ってきたのは淡い緑の部屋だ。カーテンも壁も緑、壁には機械が置かれている。クスリの匂いもする。手を動かそうとしたが思うようにいかない。チューブが付いている。苦労して横を向いた。

「あ、なに? 進一、何でここにいるの。起きてよ」 あまり声は出ないけれど必死で私は言った。ベットに二人で寝ていた。進一の手枕を借りて…。

「ああ、ごめん。いつの間にか寝てしまった。ごめん。これは秘密だからな」進一は、もぞもぞ起きだして服装を整えた。

「俺、一度家に帰ってくるから、じっとしているんだ。約束できるな」「うん」 返事はしたけど、なぜここに居るのか解らない。点滴を受けているから病人であるらしい。私はナースコールをした。何かがわかるかもしれない。 看護師さんが着てくれた。 

「目が覚めたのね。とても心配したの」 と言いながら体温計をかざして見せる。私は口をあけた。脈をはかりパジャマの袖を押し上げ手を見てから、足を見た。私はピンクのパジャマを着せられていた。

「うん、よろしい」 一人で頷いていた。

「気分はどう。少しスープを飲んでもらいますよ」と言うと、携帯を使いどこかに連絡をした。この人のポケットには、松本のネームが刺繍されており、斜めの線が入っていた。

「私があなたの専属なの、よろしく」と、「お願いします」 私は小さな声で返事をした。

 この雰囲気にも、この人にも理解できないでいた私は、疲れたようなだるさがしてきた。

はきはき話す中年婦人のように見受けられた松本さんは

「三日も目覚めないのは変ですよ。もっと早く元気になれたはずです。ご自分の心を開かなくてはいけませんね」 スープを持ってくるように連絡し終えた後、説教をした。私はびっくりして松本さんを見ていた。

「肺炎になるのは何とか食い止めたけれど、あなたの心は手に負えませんね。三日も閉じ込めていたんですよ」 松本さんは、きつい言葉で言いながら、目は笑っていた。

「三日も眠っていたんですか」 私は聞いた。

「そうよ。クリスマスの夜中、運転手さんの機転でここに来たの。手も足も顔もよ。それは冷たかったわ。ドクターは診察をして、私達はマッサージをしたの。へんな患者さんよ。あなたは…」

「私は雪の中でクリスマスを祝いたかったの」

「それならなぜ、帽子と手袋をしないの。薄い靴下とスカートで外に居ることないでしょ」

「私、ほかのところから来たからなの」 ひとりでに涙が出てきた。いそいで天井を見つめた。スープが届き、松本さんの監視の下、ゆっくり飲み始めた。二度ほどでカップを置くとにらまれてしまった。仕方なくまた飲みつずけていると

「進一君はあなたの友達なの」 突然聞かれて私は戸惑った。

 一緒にベットに居たのが解ったかと赤くなりながら、「一番の友達よ」と 

急いで答えた。

「あの子はね、ずっと合わせてくれって頼むのよ。いくら面会謝絶といっても、ほんの少しでいいからお願いしますと粘るの。かわいそうになってね、あなたの様子を見て許したの。もしかしたら力になってもらえるかとも思ったからね」 そうだったの。私は現実を逃れるために眠りによって、自分の中に隠れてしまったのか…。

「あなたは自分で思っているよりも、皆に可愛がられ、気遣われているの。大いに感謝すべきであって、自分の殻に閉じこもるのはやめることね」

「そうですね。感謝しなくては…」 この人も解ってくれない。私の表面上はこの上なく幸せな立場に居る。皆に見えるのはこの立場だけなのだ。私が望むのは側で話して、笑ってくれるだけでいいのに…。

「さあ、もうすこし眠りなさい。もっと元気になるようにね」「はい、そうします」

 私は目を閉じ動かずに居た。松本さんは、布団を直し、わたしの顔を覗き込んだあと、静かに出て行った。 一人になった。考えなくてはいけない。何か考えることがあったはずだと思いつつ、眠りについてしまったようだ。


 私が退院して家に居るとき、一度、進一君が遊びに来てくれた。お正月を真近に控えた今は、庭の手入れも済み、屋敷の中はきれいになっていた。今日は暖かい日である。縁側に座り池や木々を眺めていた。

「竹中さんに抱き上げられた人を見た。顔も手も足も、だらんとしていた」 悲しそうな小さな声がした。独り言かと横を向いて進一を見た。彼は庭の奥の空を見ているようだ。

「しょう」と 呼んだ。聞こえないのだろう。車は走り去った。

 僕は、気持ちのようには歩けなかった。足が凍えていたのかもしれない」 声はやっと私に聞こえるだけ。動きもしないで一点を見つめていた。

「部屋でCDを聞いていた。耐えられなくなって外に飛び出した。歩き続け、外れまで歩いた。寒さに気が付いた時は手袋もなく、靴はスニーカーを履いていた。雪は僕を攻めた。身体中白くなって、歩くのが辛かった。

 進一も一人で過ごしたんだ。どこかで、何かが違っている。進一はそっと手を握ってくれた。あの時、この二つの手は、雪に凍えていた。今はこんなに暖かいのに…。

「しょうが入院したのを知らされた。頼んでも合わせてもらえなかった。やっと許された時、看護師さんに頼まれた。君の心を開くようにとね。僕はどうしたらいいのか解からなかったよ。ただ君の手をさすり、名を呼んでいたさ。動きもしない君を見て悲しかった」 思い出しているのか、顔が苦しそうに歪んだ。

「時間が過ぎるだけ。僕は、君の手に頭を乗せて神に祈った。何回も、何回も祈った。顔を上げた。部屋を見回して緑の森だ。しょうは森へ帰ったと思いついた」

「あの部屋は微妙に変化してるけど、緑ですものね」「うん」と 頷きながら、また話し出した。

「君のベットに入り込み、森の友達になったよ。猿がいる。鹿も横に寝ている。ウサギもいる。みんな君の起きるのを待っている。起きて遊ぼう。しょうは寝ぼすけだなー。早く、早く起きろよ」 ちょっと照れたのか一休みした。

「僕は、君を抱えて耳元にささやき続けた」

「それで疲れて眠り込んだの」 私は少しだけ意地悪に言った。進一の顔が赤くなった。繋いでいる手に力がはいった。遠くで鐘が鳴り出した。


 私は、うっとり鏡の中の人に見ほれていた。 なんて優雅できれいな振袖でしょう。金や銀で七色に織られた帯がきゅっと巻かれている。首もすっきりと見せて、髪が結い上げられている。始めてみる人だ。自分とは思えない。

「祥子さん、お客様が見えられたようですから、あちらのお部屋にどうぞ」 この人は、私の家庭教師をしてくれている。一切を取り仕切り、なんでも世話をしてくれる。私に必要とあらば、すぐ、おじい様に伝へ、即実行に移される。母であり、厳しい先生でもある。先輩になり使用人になる。私に関すること全てにおいて権限を持っているようだ。

 名前は有賀さん、中年の色白な方です。役割はきっちりこなし、よく働く。この人に教えられたことを忘れないようにと思いながら、おじい様の部屋に行きました。しきたりどうり、障子を開け、挨拶をして、お茶をたて差しあげた。

 二人はゆったりとして、私を眺めている様子。

「祥子さんだね。おいしくいただきました。ありがとう」 お客様はねぎらってくれました。横で、おじい様は満足そうに笑っていました。

 私は、三が日の間、一生懸命にお客様を持て成した。おじい様はうれしくてたまらないのです。だれかれに孫娘を合わせたかったのです。どんなに沢山のお客様が見えたか、考えもしなかったでしょう。

 有賀さんも、毎日、毎日私を飾り立てるのに苦労しながら有頂天になっていました。私は、町で迎えた初めてのお正月を、お持て成しに頑張り続けた。

 夜は、父や母を恋した。山の友達を恋した。私の心は、私の思い通りになってくれない。自然の山が離れず、事あることに現れてくる。中途な気持ちで居るのはみんなを傷つける。だが、町の子にはなれない。誰か、誰か解って下さい。 

 おじい様や周りの人の愛は大きすぎます。私は贅沢とは解っています。でも、私には山の子がすんで居ます。私を解って下さい。小さくていいんです。小さな愛で十分です。小さな愛でいいんです。

 ああ、進一は理解してくれますね。私の一番のお友達…。

長い読み物になりました。ありがとう御座います。

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