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4 僕は 男の子

部屋は明るい。私は、のろのろ起きだして、のろのろ支度をして階段を下りた。ママさんだけが台所にいた。パパさは会社へ、勝彦は学校へと出掛けたあとだ、私が遅れえている。

「朝ご飯を食べないと元気が出ませんよ」色々あったが、いつもの通りになるよ。という顔で笑っていた。私も、すこしだけ笑い、「牛乳だけでいい?」カップを見えるように持ち上げ、急いで飲み干した。

「ごちそうさま」 を言いながら、玄関を飛び出し学校に向った。歩道には学生の姿は見えない。早足で歩いた。

 一時間目ぎりぎりに、出口からそっと入り空いているイスに掛けた。丁度、入り口から先生が入ってこられたので、みんなに気ずかれずにすんだ。進一だけは別だ。ぐっと睨みを聞かせて私を見た。私は、すぐに視線をはずして下を向いた。その後は、教科書から目を離さないでいた。教室を移動するときも、一番早く飛び出し、入るときは、先生と同時に、出口から静かに入った。

 昼食も、ベルがなり始めるとすぐ飛び出し、裏門の花壇で時間稼ぎをした。昼食は抜かした。午後の時間もすばやく行動をして、進一には捕まらないようにした。

 一度だけ、隣の女の子に話しかけられ、横を向いたとき、進一に見られた。すぐ本に目を戻した。女の子には答えられないでいた。何を聞かれたのか解らないから…。

 不自然な状態で、金曜、土曜日と過ぎた。夜は嫌な気分になる。勝彦と目が合うと、後ろめたさを感じる。まだ、何も話していない。食事が済めば部屋にこもり、下に誰もいなくなれば降りていく。家族とも話さないでいた。あちらでも、こちらでも不自然なな生活をしている。それでも日曜日が来た。天気は晴れ、暖かい。うきうきしてきた。今日は思い切り身体を動かそう。あの山までハイキングだ。ひとりならなにも気にすることは無いのだ。

 ジーンズにトレーナー、帽子を持ち、スキップしながら、階段を下りた。あと二段、ああ、私の運命はここまで、誰が立ち上がったか、私の見間違いでありますように、〔神様〕小さく叫んで、手すりにつかまった。

「しょう、彼が君に話しがあるそうだ。一日遊ぶ許可を願い出たから許したぞ」 大げさに言うパパさんは上機嫌だ。勝彦はむすっとしている。

「僕、遠くまで一人で出掛けるんだけれど」 一人のところを強調した。進一は、私とは何の約束もしていない。来て欲しくない。

「その服装では、二人とも、散歩はできるな」パパさんは、進一のジーンズ姿を見た。

「行ってきます」 私は、むすっとして、さっさと靴を履きに玄関に出た。進一も挨拶をして後を追ってきた。

「しょう」進一の声には、すこし悲しみが混ざっているが優しいアクセントだ。

「僕は、男だよ」 小さな声しか出ない。進一は、もう一方の手で私のあごをつかむと上に押

し上げた。進一の魅力的な目で見つめられていた。私はあわてた。

「ほっといて欲しい…」私は、つっけんどんに言うと、

「そうはいかないな」 進一の声には、冷たい響きが混ざっている。

「もう遅いんだ。君の事を知っているのに忘れろというのか」 今度は怒こっている。でも何かが違う。忘れたくない何かが含まれているみたい。

「そんなに経ってないよ」

「時間の問題ではないんだ。解るだろう」

「そんなのおかしいよ。 彼女はどうするんだよ」

「彼女、…? 誰のことだよ」進一は戸惑っていた。

「忘れるなんて卑怯だいよ。優子さんはすごく進一を好きなのにー、解ってないんだなあ」私は非難をこめた。

「おれは、今まで誰も好きにならなかったよ。 確かにみんなより少しはいろいろな面で変わっているとは、自分でも思うが女の子には、特に気をつけていた」 特定の友達を持たないというのか、誰が見ても素敵だと思える進一だ。「だからなんだよ。女の子が好きになるのは勝手だとも思うのかよ。 そんな気にさせるのは非常識だろが…」 僕は混乱していた。進一も混乱している。二人とも気まずくなった。私は、自分のハイキングを果たそうと、猛然と歩き出した。町を過ぎ、辺りが静かな田園地帯になってきた。

「ところで、どこへ行くのか知りたいんだ」 どこへでも一緒に行く覚悟の声だ。

「向こうの山まで行くのさ」私は、東の山を指差した。

「塚原家の山か」 何かを含んだ言い方だ。

「個人のもち山には入られないのか」 心配になってきた。好きなとき、好きなように山に入り、友達と遊んだのに、町のもち山は難しいのか。

「そんな話は聞いてない. この辺の人は、山には行かないからな」

「山が好きでない人なんて信じられないよ。山には木があり、動物がいて、すごく楽しいのに…」 途中から私の声は震えたのか、進一は、わたしの手を握り、「大丈夫か」と覗き込んだ。返事ができず、ずんずん歩いて、山の中に分け入った。

 生まれた山の羊歯も、笹とも少しは違うけれど懐かしい。手に持ち匂いを嗅いだ。進一は、わたしの身体を倒れないように押さえてくれた。身体に回している手を気にもしないで、しばらく歩き回り、小さな空き地で休んだ。

「今は、気分が良くなった?」 進一は顔を覗き込んでまた聞いた。

「もう最高、山は大好きさ」 私はうきうきして、両手を挙げて深呼吸をした。そして、仰向きに寝転んだ。 広場は、短かい草や芝が広がり、緑の葉が茂る木に囲まれている。暖かな光は、惜しみなく降り注いでいる。いつの間にか、寝むっていたようだ。進一につつかれた。

「起きてくれないかなー。俺の心臓が怪しくなってきたんだ」 私は、判らず進一を見た。彼は、かたくなって座っていた。その足を枕にしてわたしは寝ていたのだ。起き直り恥ずかしさを隠すために、

「いい夢を見ていたのに、起こされて損した」 口を尖らして、進一に文句を言うと、「どんな夢」と聞かれた。

「中間の動物たち、猿やし鹿、それと……」後の父さん、母さんは、わたしだけのもの、誰にも教えない。

「僕も、動物の一種だけどな…」

「残念でした。夢には出てきません」 私は意地悪をした。

「女性の心をもてあそぶ人の夢は現れないよ」顔を見て笑ってやった。進一は、両手を握り締め、辛抱ずよく座っていたが、突然、応酬してきた。

「一週間のずる休みは、何をしていたんだ」 絶対に聞き出すと決めた態度で質問した。

「それは答えられない」 即座に言う。「これからも教えない。聞いてもいけないよ、一切なしだ」 私は強くきっぱりと宣言したが、顔が少し赤くなったような気がした。

「おれを不安に陥れといて、そんな言い草は無いだろが…」 進一の語気は荒い。

「僕がいようがいまいが、進一がどうかなるのは可笑しいよ。クール人間ではないのかよ」私は何を言ってるの。進一は、みんなが言う男の子だのに…?。

「なら、帰ってきてからの態度は何なんだ。完全におれを無視しようとしただろうが」

「そんなことないよ」 急いで反論したが弱々しく言えただけ。

「今日、何で来たかわかってるよな。明日からは元のままだ」 強引に念を押した。私は、わずかしか反対できなかった。

「優子さんと約束したから、少ししか元に戻せないよ」わたしの気持ちは、どこに留まっているのだろう。進一の手も見つめる目も好きになっていくのに…。彼女は心配している。今は忘れてはだめだ。

「しょうー、彼女は関係ない、元のままだぞー。わかったな、忘れるな」 何かを含んだ、強い言い方だ。

「そんなに僕を脅さないでよ」

「脅しではない。クラス全員を混乱に陥れるより、お前一人のほうがいいと思うからさ」

「わかったよ」 わたしには、ますますわからない。どうしてクラスがかかわるのか、進一の顔をチラッと見上げてから、「いつかは話すよ」 絶対に話さないといったのに、意思の弱さを隠すため、前方を見つめていた。進一の両手に顔を挟まれた。ジーと見つめ、そっと口を重ねられた。

「僕帰る」 信じられない。進一なんか嫌いだ。横を向いたも、私の口は熱い。指先で払ってもだめだ。そんな自分になお腹が立つ。怒っている私の手を、そっとつないで、進一は何も言わないで歩き出した。


 雨がよく降る。私は、部屋のベランダに出て、空を見ては憂うつになり涙を流した。雨は嫌いだ。私の涙のように悲しいもの。大雨なら、父さんの布団を流してしまわないか心配になるし、しとしと降れば、母さんが泣いているのかと気になる。

 雨は、空の涙なの。私をかわいそうだと思って泣いてくれるの。私も、誰にも見られないように注意はしているの。いつになれば強い子になれるのか解らないけれど…。

「父さん、母さん、今日も雨が降るけど寒くは無いですか」 空のどかかで声がした。

〔しょう、雨が降るのは大切なことだよ。生き物が生きていくのに必要だからな。父さんも、母さんも暖かいよ。しょうが、沢山の土を掛けてくれたから、心配しなくていい〕 父さんの声だ。〔ほんとに暖かいの〕私は、じっと空を見ていた。〔父さんと二人でいるから平気よ。私の赤ちゃんは心配性だね〕あ、母さんだ。母さんの声だ。〔父さんと、母さんの声が聞こえたよ。私の側に居るんだね〕〔いつも一緒よ。ねー父さん〕〔あー三人、いつも一緒だ〕

きっと声を出していたのだ。いつ来たのかわからないが、勝彦が肩を抱いてくれていた。トレーナーが掛けられていた。「思い出していたのか」「うん」また、肩に置かれた手に力を加えた。

「勝彦、僕子供なのかな。いつまでも両親のことが忘れられないんだ。一人で居ると話しかけたくなるんだ」

「かまわないさ、僕は毎日ぱぱやママを見ているだろ、君は話しかければいいさ」優しい勝彦だ。ありがとう。

「君の力になりたいが、進一が睨むからな」何かが隠れている話かただ。

「横暴だからね」「君にだけだと思うよ」

「そんなのずるだよ。まだ、ここの過ごし方がよくわからない僕を苛つかせるんだから」ベランダの柵に乗せている腕は雨に濡れていたが、そのままでいた。私の濡れた腕にトレーナーの袖を掛け、上から自分の腕を載せて勝彦も濡れていた。私の背中に勝彦の胸の音が伝わってくる。

「そんなこと無いよ。彼は中等部から今まで、特待生なんだ。この学校始まって以来の、ただ一人の人なんだ。誰も特別扱いはしないけれど、ほんとは大した奴なんだ」 どこが特別か私にはわからない。いつも命令され、反発は許されない。まったく私の自由を奪うばかりの進一、どう考えても納得できない。勝彦も彼女も他の人達も、理想の人と見ている。どこかに欠点がある。必ずその欠点を見抜いてやる。

「ところでしょう、風邪を引くよ。ずいぶん濡れているから、部屋に入るほうがいいよ」 いいながらも勝彦は入る気は無いみたい。 勝彦の顔は、私の顔の真近にある。苦労して息をしているみたい。しばらくして、

「気分は落ち着いた?」 そっとほほを寄せた。

「そうだね。二人とも濡れたから、着替えたほうがよさそうだね」

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