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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

昔話。

作者: 槻谷 充希

思い付きと深夜で書いたので誤字脱字、話の飛び方、語彙の使い方、恐らく本を読んでいる人間にとっては短いし気持ち悪いかもしれませんがそんな時はそっ閉じしてください。

嫌いなものを無理矢理摂取する必要はありませんし。

 あの日、俺は()()()


 と言うのも、脳機能、心肺機能が停止し、人間としての死ではなく、一人の青年、佐倉(さくら) (りょう)として死んだのだ。




 ― ― ― ― ―




 高校二年の夏休み。高校生活にも慣れ始め、受験も来年度と言う、遊ぶには最適な一年だ。勿論それに感けて勉強を御座なりにしていると来年度に響くのは分かっている。


 だが、俺はもう出された課題はその週には終わらせているし、そもそも今日は元々、友人達と海に行く予定があったのだ。別に一日位遊んだっていいだろう。


 そう心の中で言い訳をしつつ俺は、水着とタオルをリュックに入れ、待ち合わせの駅へ向かった。


 駅に向かう途中、木に登って降りれなくなっている猫が居たので助けてやるとすぐに逃げ出してしまった。


「ちょっと位、懐いてくれてもいいだろ……」


 何故だか知らないが俺は物心ついた時から動物に懐かれたことが一度もない。俺自身は基本的には動物は好きなのだが、一方通行なこの愛情にそろそろ心折れそうだった。


「猫、好きなの?」


 懐かれなかったことに落ち込んでいると聞き覚えのある透き通った声が後ろから掛かった。振り返るとそこに居たのは、美しいロングの黒髪が特徴的な美少女。今回一緒に海に行くメンバーの一人、橘 美佳だった。


「まぁ、懐かれることは滅多にないけどね。」

「野良猫だから仕方ないよ。」


 彼女は優しく微笑み掛けてくれた。


 ……正直に言おう。俺は目の前の彼女、橘 美佳に好意を抱いている。きっかけも些細なもので、誰にでも分け隔てなく笑顔で接している姿に気が付けば心惹かれていた。


 今の関係を壊すのが怖くて告白に踏み切れていないが、いつかは告白しようと思っている。どうせ俺の事だから、最後の最後でヘタレるんだろうが……気持ちだけはある。


「涼君も駅向かう途中?」

「そうだね。途中でコンビニで何か飲み物でも買おうと思ってたけど……」

「私もいっしょに行っていい……かな?」


 好きな女子にこの質問をされて断れる男子が居るだろか?少なくとも俺は断れなかった。


「勿論。と言いうか、目的地一緒だし聞く意味あったか?」

「もし嫌だったら一緒に海に行く提案しないでしょ」

「……それもそうだね!えへへ……」


 なんだその、えへへ……って!!可愛いだろうが!!


 ……まぁ、少し天然であざとさがまったくないから可愛く見えるのだが。



 コンビニに着くと俺達は少し涼んだ後、俺はスポーツドリンク、橘は天然水を買い店を後にした。


「ふぅ……やっぱ外はあついね~」

「そうだな、ほんとに歩くのも嫌になりそうだよ。」

「あと一息ですよ、涼君!!頑張ってください!!」


 橘も海が楽しみなのか、なんだか発言が幼くなったように感じる。そんな事を思っていると合流場所の駅が見えてきた。


「お~い!佐倉!橘!遅いぞ!!」


 野球部の斎藤だ。いつも場を沸かせて空気を作ってくれるいい奴だ。たまに声がデカすぎるが。


「アンタうるさい。周りの人に迷惑でしょ!!」


 隣のギャル――まぁ、見た目がギャルなだけのオカン系女子だが――雪代にはたかれて不服そうな顔をしている斎藤だが、なんだか親子を見ているような感覚で微笑ましいので口出しはしないことにした。


「ってか約束の時間より30分も早いし!」

「早く集まった方がその分長く遊べるだろ!!」


 斎藤は遊びに関しては頑固と言うのか図太いというのか……


「早く行こうぜ!!」

「ちょっと、待ちなさないってば!!」


 斎藤と雪代はさっさと改札を通り抜けていってしまった。雪代に関しては斎藤のお世話なので文句は言えない。


「俺達も行こうか。」

「そうだね……」


 斎藤たちの後を追う為改札通り、ホームで電車を待った。


 電車がホームに停車すると降車する人を見送った後肉詰め状態の電車に乗り込んだ。


「…………」

「…………」


 まぁ、こうなりますよね。ドアに手をついて何とか空間を作っているから何とか押しつぶされずに済んでいるが肘が曲がったら俺の人生とメンタルが終わる。


「ごめんね、大丈夫?無理しないでくっついてもいいからね?」


それを年頃の男子に言うのはちょっと良くないと思いますよ橘さん?


「大丈夫だよ……流石に橘を押しつぶすわけにはいかないしね。」

「……ありがと」




 ― ― ― ― ― ―




 何とか目的の駅まで耐えきった……心臓は今にも破裂しそうだけど。


 駅の椅子に座り深呼吸をしていると斎藤は俺の事など構わずに「海だぜ!!」とか言って走っていった。アイツらしくていいが流石に少し休ませてほしい。


「……大丈夫?」

「だいじょばない、かな。」

「落ち着くまで待つよ。」

 

 俺の所為で橘の遊ぶ時間が減ってしまうのは流石に忍びないので、大丈夫になったことにして海に向かう事にした。


「よし。もう大丈夫。行こうか!」

「……うん。」


 夏休みだからある程度の人数は来ていたが、込み合っているという程でもなかった。


「お~い!佐倉達も来いよ!!冷たくて気持ちいいぜ!!」

「ったく、皆アンタみたいにガキじゃないんだからちょっとは休ませてあげなさいよ。」

「一緒に遊んでるお前にだけには言われたくねぇ!!」


 またイチャつき始めた。あれで付き合ってないんだから驚きだよな……


「……涼君、陸上競技の大会の練習って順調なの?」

「ばっちりでっせ。姉御」

「ぷっ……なにそれ!」


 ふざけて答えたら珍しく笑ってくれた。付け足しで説明しておくと俺は日本内でも片手で数えられる位の運動能力があるらしい。


「こうやって遊びに来れる位に余裕だよ。」

「そっか、それもそうだよね。」


 浅瀬でいちゃついてる雪代たちを横目に俺達は会話を楽しんだ。


 日も沈み始め、海がオレンジ色に染め上げられていた。


「……ねぇ、涼君、好きな子とかいる?」

「!!……まぁ、いないって言ったら嘘になるかな……」

「そっか。多分、その子は君の告白を待ってると思うよ?」


 それは今告白しろと?そういう意味合いでいいのでしょうか橘さん!?


「できるだけ早くした方がいいよ。女の子気持ちは移り変わりやすいから。すぐ別の男の子に取られちゃうよ?」

「……それもそうだな。」

「そうだよ。だから早く雪し――」

「――橘、好きだ。付き合ってくれ。」

「……??」


 え?もしかして戸惑ってる?


「涼君は雪代さんが好きなんじゃないの?」

「ん?なんで?」

「いつも距離が近かったから……てっきり好きなのかと思って……」


 すべての男子高生が下心丸出しで好きな子に近づけると思わないで!?、寧ろ近すぎる場合女子としてみてない方が多いです!!


「俺が好きなのは橘なんだけど……」

「……それ本当?嘘じゃない?」

「嘘じゃないよ。」

「……喜んでお付き合いさせていただきます。」

「えっと……よろしくお願いします?」


 橘との間に気まずい沈黙が横たわる。その沈黙を破ったのは俺でも、橘でもなく、雪代だった。


「おめでと~!!まさか本当に告白するとは思ってもいなかったよ~佐倉もやるときはやるね~」

「え?」

「まぁ、お幸せに!」

「なんで?俺が橘のこと好きだって……」

「女子の情報網ナメない方がいいとだけ言っておこうかな。」


 ……俺が踏み込んじゃいけない領域だろう。


 気が付くと夕日も、もうすぐ沈み切り辺りは暗くなりそうだった。


「そろそろ帰るか。」

「そうだね。」

「よっし!帰るか!!」

「斎藤うっさい!」


 水着から普段着に着替え電車に乗り、自宅から一番近い駅で降りた。待ち合わせに使った駅が一番近いのでルートは行きとほぼ変わらないが、橘を家に送るので少し遠回りになった。


「橘は海好きなの?」

「橘じゃない……みか」

「それはまだちょっと……」


 恥ずかしいので遠慮しようと思ったが、橘が恐らく下の名前でないと反応してくれないので仕方なく下の名前で呼んで見ることにした。


「み……美佳」

「えへへ……なに~?」


 うっわ、なにこれ恥ずかしすぎる。鏡を見なくても顔が赤くなってるのが分かる。熱い。


 初恋の相手と恋人になれたから浮かれていたのか、はたまたいちゃつきすぎて神様に嫌われたのか、悲劇は起きた。


 ――――響き渡るブレーキ音。肉が弾ける音。骨が砕ける音。空中を舞う鮮やかな赤。近づいてくるサイレン。白と黒に点滅する視界。急速に熱を失う感覚。美佳はど――


 俺の意識はここで途切れた。




 ― ― ― ― ― ―




 目が覚めると見知らぬ……いや、知っている。俺はこの天井を知っている。大会の練習中にケガをして入院したことがある。


 つまりここは、病院。


 そっか、俺事故にあったんだ。大会近いのに最悪だな。監督に謝って許してもらわなきゃな……


 意識が段々と覚醒していく。そして気づく。右足の激痛に。


「――――」


 人間の物とは思えないほどの絶叫を上げた。何人もの医師が俺を押さえつけた。


「すまないね。これで楽になるから。次に目を覚ますときは傷は塞がってるから。ゆっくり休んでね。」


 医師はそういうと無理矢理注射器で麻酔を注射した。



 ― ― ― ― ― ― 


 

 規則的に鳴る電子音。恐らく自分につなげられているバイタル計測器の音だろう。


「……っく」


 体を起こし自分の右足を確認する。


「は?」


 無かった。自分の右足の膝から下が。


「う……そ、だろ……は、?」


 自分の呼吸が乱れるのが分かる。目頭が熱い。ダメだ。まだ耐えろ。ここで壊れたら全部が崩れる。


「そうだ、美佳は!?」


 隣のベットを見ても誰もいない。重症度で病室が決まると聞くが、隣に居ないという事は俺ほど重症じゃないと言う事だろう。


「起きてたのかい。体調はどうだい?」

「先生!!美佳は!?美佳はどこですか!?」


 この時の俺はまだ幸せだった。違うな、この時の俺は哀れだった。果てしなく馬鹿だった。愚かで救いようのない阿呆だった。


「……事故現場で()()()()のは君一人だよ。」

「……あ?」


 そんなはずはない。だって、あの瞬間の直前まで俺の隣に居たんだから。


 ……人間ていうのはいつも物事を自分の都合のいいように解釈してしまう勿論、俺だって例外じゃない。


「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!!」

「……現実を直視たくないのは分かる。だけどね……」


 違う。これは夢なんだ。悪い夢で目が覚めたら全部元どお――


「橘 美佳さんは死んだんだ。」


 何かが壊れた。俺の中で、壊れてはならない何かが。失われた。無くしてはならない何かが。


「」

「……受け入れられるまでしっかり休みたまえ。」


 俺は何も感じなくなった。何日が経ったのか分からなかった。寝ているのか起きてるのかも曖昧な状態でどれだけの時間を過ごしたか、ある日、気が付くと日が昇っていて、隣には父親が居た。


 いつもはあちこちを飛び回っているため滅多にかを合わせないが入院したことでお見舞いにでも来たのだろうか。正直今の俺にはどうでもいい。


「なぁ、涼、聞えてるんだろ?」

「」


 聞いては居るただ答える気力がないだけだ。


「……少し、昔話をしようか。」

「」



 ― ― ― ― ― ―




 昔々、あるところに一人の少年が居ました。その少年は、所謂(いわゆる)天才と称される部類の人間だった。


 知りたいと言う欲求に正直で、どんどんと知識を吸収して小学生の内に中学生の課程は完全に修了して高校生の課程に入るほどだった。


 飛びぬけて得意なものは無かったが、全部の物を平均以上にはできたんだ。


 だが少年には天才故と言ったらいいのか、既知の物には手を付けなかった。カンストしているステ―タスにポイントを振っても意味がないからね。


 でも、少年はある大人に言われたんだ。


「やらなきゃいけない事をやらない人間がやりたい事させてもらえると思うなよ。」と。


 少年はその大人の所為で段々と孤立していった。武器である知識を封じられたんだ。そんなのは牙の無い狼、爪の無い鷹の様なものだろ?


 運動は全部が平均的にできる。逆を言えば、それに特化した人間には勝てないんだ。野球を習っている奴には野球で勝てない。サッカー、バスケ、バドミントンなんかもそうだ。


 できる人間からしたら舐められるのは当然の事だった。


 最終的に残ったのは4人の友人だけだった。


 少年は友人の中の一人の少女に恋心を寄せていました。


 自分の周りにいる人間は不幸になるのにも係わらずその少女だけは常に笑顔を絶やさずにいたのです。


 そんな少女に少年は遂に告白をします。告白は無事成功。


 少年と少女の間には元気な男の子が生まれました。


 男の子は高校生になり運動能力抜群、陸上大会に出れるほどでした。


 学力は常に学年上位。順風満帆の生活を送っていました。高校二年の夏休みのある日までは。


 海に行ったその日の帰り道、交通事故で足を失ってしまってしまったのです。



 ― ― ― ― ― ― 



「それって……」

「やっとわかったか?」

「不幸自慢か?」

「ちげぇよ。寧ろ、五体満足なんだからお前より幸せだ。」

「じゃあなんだよ……」


 正直早く帰ってほしかった。親父の前でなんて泣きたくねぇ。


「……涼、お前、もう一度走ってみる気はねぇか?」

「は?」


 何を言ってんだこの親父は。俺は片足を失って二度と走れないっていうのに。


「無理だろ。俺の足は片方無いんだぞ。」

「だったら作れよ。」

「そんな金あったらとっくにしてるよ。」


 バイトして金稼いだとしても家賃と食費ぐらいしかねぇんだから無理に決まてる。


「お前何のために俺が日本中飛び回ってたと思ってんだ?」

「は?」

「足、もう作ってあるんだよ。金も心配すんな。全部俺が持つ。あとはお前の意思だけなんだよ。」

「……でも、俺にはもう目的がないんだよ。」


 元々は、不純だが、美佳に「すごい」って褒められたのがうれしくって頑張った結果こうなっただけだ。


「……いいか、人はいずれ死ぬ。たとえどれだけ若かろうが老いていようが関係ないんだ。」

「でも、でも……納得できねぇよ……」


 視界が歪む。喉が、目頭が熱くなる。


「なぁ、涼。お前はもし目の前に花畑が広がってるとして、どんな花から摘む?」

「……そりゃ、一番綺麗な花、か……ら。そっか。そういう事か……」

「よかったな、お前の嫁さんは神様にも認められる位の美人だったってことだ!!」

「まだ嫁じゃねぇよ。」

()()ってことはする気はあったってことだな。」

「っ!!……あ゛~もう゛!あっち行ってくれ!」


 ったくこの親父は恥ずかしげもなく言うから嫌なんだよ!!


「とにかく走るってことでいいんだな?」

「分かったよ走ればいいんだろ!!」


 美佳も見守ってくれてるだろうし、走らないと美佳に失礼だよな。


 病室のドアが閉まり親父は出て行った。


 親父の眼に溜まっていた涙は見なかったことにしてやろう。




 ― ― ― ― ― ―



 心地いい緊張。俺は今スポーツ用の義足を付けてトラックに立っている。


 俺は0.1秒を削る為に今日も走る。


 美佳の為にも。

ここまで読んで頂いてありがとう御座います。

短編は不定期ですがちょびちょび上げていきたいなぁと思っています。

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