第六話
オーエン「ここか。ラバーがある教会ってのは」
シンク「ああ……結構前に大爆発が起きてこの有様だ。いまは修復作業も止められている」
オーエン「トリックがラバーへの入り口を書いてくれていたはずだろ? 分かるか?」
シンク「多分この辺りだとおもうんだが……(地面を触ってガコッとなにかにあたる)お、ここになにかあるぞ、オー……ッ!!!」※オーエンを呼ぼうとして顔をあげたときに何かに気づく
オーエン「シンク? どうした?」
シンク「オーエン……これ……」
オーエン「……! こ、れは……トリック……? いや、なんだこれ、人形か……? あちこちが熱でただれてるけど人間の死体じゃ……」
シンク「この破損状態を見ると……これは恐らくクローンの死体だ」
オーエン「クローン……?」
シンク「オリジナルと均一な遺伝情報を持つ集団だ。あの日この場所を知らせてくれたのは別の……だからといってこんな無茶なことを……」
オーエン「……ッ」
シンク「……彼の覚悟を無駄にはしない。行くぞ、オーエン」
オーエン「ああ」
オーエン「グッ……眩しい……」
シンク「ここがラバー……? どうして地下なのに、ステンドグラスからこんなに光が入ってきてるんだ……? まるで上の教会がそのまま地下にあるような……」
オーエン「ほんとにここで合ってるのか……? キングみてえなやつが所属してる施設とは思えねえ……」
キング「失礼な奴だな。こっちが黙ってれば言いたい放題だね」
オーエン「?!」
シンク「?!」
エース「ようこそ、オーエン、シンク。待っていたわ、ずっと……ずっとこの時を」
オーエン「キング……! それからあの女は……?」
キング「おい! エースのことをそんなふうに言うんじゃねえ! 忘れてるからって容赦しねえぞ!!」
シンク「エース……あの女性が……いや、それよりも今忘れてるって……?」
エース「そんなに警戒しなくとも私はあなた達と戦うつもりはないわ」
オーエン「は……?! そんなこと信じられるわけねーだろ!!! お前らは散々俺の仲間を傷つけたんだぞ?!」
エース「それに関しては本当にごめんなさい。仮にも私たちとあなた達は敵同士……手加減をしていれば怪しまれるもの」
シンク「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体なんの話をしているんだ?! それはまるで俺たちが敵同士ではないような言い方じゃないか?!」
テン「そのとおりよ……私達はあなたたちの敵ではない。本当の悪は別のところにある……」
オーエン「お前……あのときの……!」
テン「また会ったわねオーエン。いえ、そうなることは分かっていたのだけど」
シンク「彼女は……? オーエン知り合いか?!」
オーエン「ああ……前に話した。オナーの人間だったのか……?!」
テン「私はテン。獣を使役する力を持っているオナーの一人……ふたりの戦いぶりはよく見させて貰ってたわ」
オーエン「お前からは敵意を感じなかった……だから俺は本当に……」
エ―ス「あなたのそれは間違っていないわ。テンがあなたに敵意を持つはずがないの」
テン「エース、もういいんです。彼は何も覚えてはいない……私の知っている彼とはもう、違う」
オーエン「さっきからその忘れてるっていうのはなんなんだよ……? 俺の記憶がないことにお前らが関係してんのか……?」
エース「それを説明するのは、私よりも彼のほうが適任だわ。……ねえ、ジャック」
※コツコツと影から歩いてくる
シンク「ジョーカー……?!」
ジョーカー「(タバコを吸って吐く)お前らはまた勝手に……頼むから俺の寿命をこれ以上縮めないでくれよ……」※普段どおりに
オーエン「おっさん……どういうことだよ……? ジャックってなんなんだよ?!」
ジョーカー「もうすぐケイトとサイス、P-WEの奴らもここに来る。そうすれば全部話そう。全ては、悪を潰すためだ」
デュース「ねぇ、これどういう状況……?」
トレイ「さあ、僕にもさっぱり……」
エイト「早く説明してください……ヤツの顔を見ているだけで、怒りで爆発してしまいそうだ……」
セブン「エイト、もう少し我慢して……」
ケイト「……なにがどうなってるの……敵の陣地にスポットのメンバーが揃ってるなんて……」
サイス「…………」
ナイン「サイス」
サイス「あ……クラブ……」
ナイン「その名はもう捨てたんだ。今はナインって呼んで、サイス」
セブン「え……? ナイン……あな、た……」
ナイン「ごめんねセブン。今まで、本当に辛い思いをさせた……」
セブン「……ッ!」
エース「私はエース。今はそう名乗っているけれど、もとはこう呼ばれていたわ。スポット上層部、オークションのひとり『ハート』と」
オーエン「オークションの、ハート……?!」
エース「オークションのメンバーは全部で四人。スペード、ダイヤ、クラブ、そして私ハート。私達は現社会の秩序を正しい方向に導くため国が作った組織として動いていた、はずだったわ」
ジョーカー「だが、スペードとダイヤのふたりが欲に侵され暴走。自身の得た能力によってこの国を支配しようと企んだ」
シンク「……やっぱりそうか」
エース「クラブはスペードとダイヤに反抗して殺され、私はふたりの悪事をとめるためにオークションを抜けて対組織を作った。それがここ、オナーよ」
ナイン「俺はセブンと一緒にスポットに所属したが、その後すぐに新しいクラブとしてオークションメンバーに抜擢された。そのときにキングとサイスに出会ったんだ」
サイス「でも、キングは、わたしの……」
エース「あのときのキングはまだオナーとスポットの関係性について知らなかったの。スポットの全てを悪だと信じて疑わなかった……あなたのご両親が亡くなったのは私の責任でもあるわ」
キング「…………」
サイス「そんなこと……言われても……」
ケイト「じゃあ……あの時私に言ったことは……」
キング「弱いくせに無理して僕を探さなくてよかったんだ。……まんまと騙されて利用されてさ」
ケイト「……!」
セブン「ナイン……あなたがクラブとなった数年後に急に戻ってきたと思ったら別人のようになっていたから……わたし……わたしは……」
ナイン「スペードとダイヤの悪事を知ったんだ。その時にケイトと同じように俺も性格を変えられて利用されていた。けど、オークションとしては役に立たないから、P-WEの司令官として異動することになったんだよ」
ケイト「性格を……そうだ、私……」
ナイン「君は弟を探すためにスポットに所属しようと、ある女に交渉したはずだ。オークションのひとり、ダイヤという女に……」
※フラッシュバック
ケイト「お願いします!!!! お願いします!!!! 何でもする……何でもするから……!!!」
ダイヤ「何でもするってねえ? あなたみたいな臆病者はこのスポットに相応しくないのよ。命が惜しいなら立ち去りなさい?」
ケイト「お願い!!!!! 私は弟を……弟をなんとしても探したいの……! そのために力がほしいの、強くなりたいの……!!!!」
ダイヤ「ふうん……? その強い意志……使い方によってはいい駒になるかもしれないわねえ。じゃあ、こういうのはどうかしら。私がその性格を変えてあげる。ちょっといたぁい治療になるけど……あなたに耐えられるかしらあ?」
ケイト「やる!!!!! やります!!!!! どんなことでも耐えてみせます……!!!! だから……!!!!!!」
ダイヤ「あは、やだ、汚らしい顔……分かったから私の足にしがみつかないでくださる? それじゃあ……せいぜい頑張ってちょうだいな……」
ケイト「ああ……ああああああああああッ!!!!!!!!」※痛みに苦しむ
※フラッシュバック終
ケイト「は……ハァッ……ハッ……」※思い出して恐怖で息が切れる
サイス「ケイト……!」
ケイト「ダイヤ……そう……思い出した……!」
ナイン「ダイヤは性格を捻じ曲げる能力だ。それを解く方法は様々だが……俺の場合はジョーカーに助けられて今まで操られたふりをしていた。……そう、この日のためにね」
シンク「ジョーカー……あなたは何者なんだ……?」
ジョーカー「……」
エース「私の能力はマザー。マザーが持つ能力全ての起源。オナーを設立したあと、スポットに対抗できる人材を4人集めて能力を与えたわ。キング、テン、そしてジャックとクイーン」
オーエン「まさか……おっさんが……」
エース「そこにいるジョーカーと呼ばれる男は、私が薬物の能力を与えた元オナーのメンバー、ジャックよ」
ジョーカー「(タバコを吸って吐く)……」
オーエン「ジョーカー……!! テメエなんで今まで何も言わなかったんだ……!! 元オナーのメンバーでなんでスポットに所属してやがんだよ!!!」
ジョーカー「……助けるためだ」
オーエン「ああ?!」
ジョーカー「……戦う理由を見失ったお前が、自分の名を捨ててあてもなくほっつき歩いてるところをオークションの奴らが捕らえやがってな。で、俺はそれを見過ごせずにわざわざ出向いて同じように利用されてやったってわけだ。我ながら馬鹿げた話だと思うがな」
オーエン「……う、そだろ……つまり、それは……」
ジョーカー「お前なんだよ。自身で答えを見つけるために抜け出した元オナーのメンバー。クイーンはお前だ、オーエン」
オーエン「俺が……」
ケイト「オーエンが……オナーのクイーン……」
シンク「それで俺は監視役を……」
オーエン「じゃあ……俺の記憶がないのは……」
ジョーカー「俺が能力で消した。このタバコの煙にはお前にしか効かない薬を混ぜてある。戦闘特化の能力を持ってたお前はスポットにとって一番の厄介ものだからな。お前を助けるためにはそうするしかなかったんだ。(笑いながら)全くお前のせいで散々な目にあったよ」
テン「君のことをずっと心配していたけど……スポットの皆は君にとって、とてもいい仲間のように見えた。探していた答えも見つかったみたいだし、安心したわ……」
デュース「ええっと、あ~ごめんねぇ? つまりまとめると、ジョーカーとオーエンは元オナーのメンバーで?」
トレイ「ナインとエースは元オークションのクラブとハートで?」
セブン「全てはオークションのスペードとダイヤの悪事を止めるために動いていて……?」
エイト「僕たちはそれを何も知らずに戦っていたと……?」
ナイン「そう。ごめんね?」
デュース「ごめんで済むかこの野郎!!!!!! ふざけんじゃあねえ!! いくらオークションの目を欺くためとはいえ何考えてんだ!!!!」
トレイ「うわああデュース落ち着いて落ち着いて!!!」
エイト「だったらここまで痛めつける必要ないでしょうが!!!! この爆弾魔!!!! せめて後に支障ない程度にしておいてくださいよ!!!!!」
キング「はは~~つい~~」
エイト「ぶっ殺す!!!!!」
セブン「エイトだめよ、傷がひらくから!!!」
エース「皆さんに全てを伝えるタイミングもなかったし、何よりこの計画は少しでもオークションに気づかれるとだめになってしまうから……巻き込んでしまってごめんなさいね」
ジョーカー「トリックが俺たちの味方になってくれたのは意外だった。だがそれのおかげで、こうやって再度集まることが出来た……彼には感謝しないとな……」
ナイン「ああ。彼はスペードに仕えているものだと思っていたんだけど……奴らに情報がいかないよう自身を壊してまで記してくれたわけだしね……」
オーエン「……よおくわかった……。俺達の真の敵は……スポット上層部、オークションってことだな……」
シンク「……ああ」
エース「さっきも言ったとおりダイヤは精神を歪める能力を持っているけれど、そこまで厄介な敵ではないわ。問題はスペードの方……彼はオーエンと似た能力を持っていて圧倒的な破壊力だわ。全員で攻防しないとこの人数でも勝ち目はない……」
テン「スペードの能力もエースの能力で得たものなんでしょう? なのに敵わないの……?」
エース「どの力もそうだけど、全ては使用者に影響を受けるわ。適合率っていうのかしら……彼は自分の能力を使いこなして我が物にしている。だからとても強力なの。今いる中だとオーエンが対抗できるかどうかってところね……」
オーエン「やってやるよ……散々好き勝手されたんだ。もう奴らの思い通りにはさせねえ」
シンク「俺もやるよ……何が正しいのか、やっと分かったから」
ケイト「ダイヤと……戦うってことなのよね……」
サイス「大丈夫……ケイト、わたしがいる……」
ケイト「サイス……ありがとう、そうだよね! 私はひとりじゃないもん……頼れる弟もいるし、ね」
キング「足引っ張らないでよね」
ナイン「皆もやってくれる? 今まで酷い言い方したりしてほんとに申し訳な……」
エイト「あーあーやめてください! その顔でその話し方されるのまだ慣れてないんですよ!」
デュース「ほら、いつもみたいに眉間にシワ寄せて指示してくんないとぉ!」
トレイ「そうそう。僕たちの司令官はナインなんだから」
セブン「だ、そうよ? ナイン……」※嬉しそうに
ナイン「(嬉しそうに笑って)ありがとう」
テン「オークションまでは私の能力で運んであげる。これが……最後の戦いね」
エース「ええ……全ては正しい方向に導くために……!」
ダイヤ「ああ……ああああ……!!! この、このッ……忌まわしい……!! こいつのせいでスペード様と私の計画が台無しに……!! おのれ……おのれ……!!」
スペード「まあいい……あれが数体集まったとて、俺の敵ではない」
ダイヤ「しかしスペード様……!」
スペード「なあダイヤ。オナーとスポット……全員こちらの駒にできたら我々は完璧になるとは思わないか?」
ダイヤ「それは……素晴らしいお考えですわ……! 私には到底思いつくこともなかった大胆な発想……ああスペード様……本当に素晴らしいお方……スペード様のお力があればあのような小物など一網打尽ですわぁ!」
スペード「ああ、そうだろう? 我々の計画はこのようなガラクタごときに止められるものではない。(扉があく)……そういうわけだ、痛い目を見る前に俺と手を取り合ってこの世界をよいものにしようじゃあないか、なあ? プレイヤー諸君」




