番外『マグロス』編4話 また投資額が増えたぞ
「それでは正式契約ということで」
「ありがとうございます」
S&S売れました。
渋川社長が値段交渉を担当したら、あっさりと売れてしまった。
それも、1カ月前に提示された金額の倍近い金額。
「また、ずいぶんと高くなったな」
「この1カ月でガンガン利用者を増やしておきましたから」
S&Sの可能性を示すために、主に欧米で認知を上げる手を使ったらしい。
有名企業への導入サポート、テレビでの露出、ネットでのバズり戦略。
俺の知らない間に、欧米の利用人数が倍くらいになっていた。
まだまだ増やすことが可能だと見せつけたようだ。
「しかし、20億ドル…日本円にして約2000億円近くの買い取り額か」*1前話ではドルであった為こちらの方が分かりやすかと思います。
「ええ、14年前のユーチューブに匹敵する額です」
あー、ユーチューブに対抗心を持っていたってことなのね。
まぁ、社長としては自分が育てた事業を高く売るっていうのは、仕事を評価されたってことだしな。
「これで、渋川社長の経営者センスとスキルの評価がガンと上がるな」
「ええ、もちろん。だけど、悠人カンパニー以外の仕事はしませんよ」
大した給与を払っていないのに、すごい忠誠心だな。
まぁ、金だけじゃないってことは重々承知してますが。
「それで、悠人さんには猫島に飛んで欲しいのです」
「あー、猫恋ね」
S&Sを売り払った後は、他の事業を拡充することになっている。
最初は猫恋らしい。
猫恋というのは、「猫に恋して」ってタイトルがついている猫好きのためのサイト。
猫に関するあらゆる情報とコミュニケーションを提供している。
ただのサイトではなく、リアルとのリンクも重視しているサイトだ。
リアルの拠点のひとつが、瀬戸内海に浮かぶ猫島で、猫大好き美代子さんが拠点管理している。
「まずは猫カメラ増設計画だな」
「ええ。一気に3倍にしましょう」
猫島は住民より猫の方が数倍多いという猫だらけ島。
そこに美代子さんが民宿付き古民家カフェを作ったところから始まった。
猫は増えているけど、人は過疎化が進む島で空き家がずいぶんとある。
その空き家を借りて、いろんなプロジェクトをしている。
まずは、「猫に恋して」生活。
空き家を民泊にして格安で提供している。
他にも月単位で住めるシェアハウスも作った。
島の住民は年金生活の方がほとんどだから、時間はあるってことで手伝ってもらっている。
食事の提供、民泊管理等。
従来は日帰りだった観光客が泊まることで、島の住民たちにも仕事が生まれるようにしている。
都会で猫が飼えない人のために、癒しを提供するのが、ここの猫恋拠点の目的。
ただ、ここの猫が人気があがっているのは、島の人達の協力だけじゃない。
島外の協力者がたくさんいる。
島にいなくても、島の猫に恋することはできる。
それが、猫カメラの存在。
現在、200か所設置しているのを、600に増やすって計画。
これで島の人口より猫カメラの方が多くなった。
猫はもっと多いけどね。
猫カメラの映像を都会にいながらにして観る。
その中で、ラブリーな映像を動画として切り出して、猫恋サイトに流している。
そこから猫恋サイトは始まって、他の動画もアップできるようにしてある。
動画、画像、ブログ、掲示板、イベント告知、猫グッズ情報。
猫好きは、自分ちの恋した猫を自慢したくてしょうがない、って気持ちをパワーにしてかわいい猫の動画等を集めている。
猫好きだけに絞ったサイトだから、そのサイトに入ればいつでも、ふにゃーってなれる。
このやり方をベースにいろんなジャンルのマニアックなサイトを増やしている。
猫好きの次は犬好きだろうって意見が多かったけど、却下した。
それだと意外性がないから、悠人カンパニーがやる必要なしってね。
次がスローライフに決まって、猫島やサテライトオフィスがある宮古島がリアル拠点になった。
今は猫好きでスローライフにあこがれる女子が猫島にシェアハウス移住を始めている。
そのスローライフ拠点を中心にスローライフを発信するサイトができあがった。
家庭菜園ログから、手作り自慢まで。
そして、そのサイトの特機すべき特徴が、流儀。
何にこだわってスローライフしているのか。
それを主張するのが流儀。
ところがスローライフ以外にも流儀が広まってしまった。
菜園の作物成長をどう発進するのか。
それの流儀が出来上がって、流儀を一つにする情報が上がってくる。
それまでバラバラだった菜園の情報が、ひとつのフォーマットとなる。
それに対して、悠人カンパニーのプログラマーチームが流儀対応の表示法を加える。
流儀をベースにいろんなスローライフや情報発信が生まれて、見ている人達を楽しませる。
もちろん、ただ見せるだけじゃなくて体験してもらおうという流儀も生まれる。
移住者と地元の人達のつながりにも、流儀が起きる。
いろんな流儀が重なり合って、全く新しいスローライフの姿が実現していく。
週末スローライフの流儀を実践している人達は、週末流儀の人達を受け入れる側と、受け入れられる側に分かれてよりよい週末流儀を探索していく。
その過程を含めて流儀を見せて、魅せられていく。
「人にはそれぞれやりたいことと、やり方がある。それが自然じゃないのか?」
「だけど、それぞれが勝手にやっていたら、まとまらないじゃないか」
海底宇宙人が言っていたのは、この流儀の話だったのかなって最近は思う。
流儀をしっかりと持った人は、他の人の流儀にも尊敬を払う。
バラバラなことをしていても、不思議と全体がひとつの流れになる。
俺はスローライフ派の人達が始めた流儀というやり方。
それを大きなテーマとして、採用した。
スローライフ流儀というサイトは、そこから不思議に進化していって、現在に至る。
今は、関連商品から不動産まで組み込まれた、大きな産業になろうとしている。
そして、流儀を持った人達が田舎に散らばることで、田舎で生産される作物が変わりつつある。
都会で生きる人達の流儀に、田舎育ちの流儀がつながって、独特な作物流通が始まっている。
今、俺はこのスローライフ流儀を世界に広げることを考えている。
言葉の壁を越えて、地域の壁を越えて。
地上と海底、そして宇宙という全く違う空間と時代をつないだ海底宇宙人。
地球の地上だけなんだから、きっと流儀が広がるにはそんなに時間はかからないだろう。
どうも主人公は、事業を大きく育てるというより、スタートアップ事業の方が好きらしい。
お金が入ると、ついつい、新しい事業につぎ込んでしまう。
いつでも自転車操業というのは変わらないようだ。




