第1話 俺は不思議な財布を手に入れた
俺は落ちている財布をさっと拾って、まっすぐ歩いて曲がって横道に入った。
うん、完璧だ。誰も気づいていないな。
「どれどれ。いくら入っているんだ?」
俺は期待に胸を躍らせて、拾った財布を開く。
すると。
「千円?」
千円札がたった1枚だけ入っている。
「なんだ、千円だけか」
まぁ、千円だとしても、拾ったんだから運が良いか。
しかし、中途半端な運だな。
「おーい。どこかにいる女神様よ。どうせ、幸運をくれるなら、もう少し大きいのを頼む」
『なろう映画』を観た後だから、ついつい文句言ってしまった。
まぁ、俺の運はそんなものだろう。
「しかし、まぁ。財布を落としたのはどんな奴なのか?」
財布の中を探してみるが、身元が分かるものが何も入っていない。
千円札が一枚。それが財布の中身のすべてだ。
「これじゃ、警察に届けても持ち主に戻ることはないだろう」
俺は自分自身にそんな言い訳した。
そして千円札を抜き出して、俺の財布に移した。
「まぁ、財布は用なしだから、どこかに捨てないとな」
そう思った。
しかし、妙に気になってもう一度確認することにした。
「本当に何も入ってないよな………あれ?」
財布の中には、千円札が1枚だけ入っていた。
おかしい。
さっき抜き出したから、もう何も入っていないはずだ。
「まぁ、いいか」
自慢ではないが、俺は細かいことは気にしないタイプだ。
あれこれ悩んでも、いいことはないと分かっているからだ。
さっき見間違えただけだろう。
最初から2枚入っていたのだ、そうに違いない。
すると2千円か、ちょっと嬉しさがアップしたな。
『なろう映画』の映画代1800円以上が戻ってきたのだ。
「それなら、もう1枚の千円札を俺の財布に移してと」
ちゃんと言葉に出して確認する。
言葉に出すことで間違いを防止できる。
バイトの先輩でそれをやたらと強調する男がいたな。
「この財布には、もう何も入ってない。間違いない」
一度財布を閉じる。
何も入っていないはずの財布をもう一度開いて中を覗く。
「うわっ!!!」
思わず大きな声を上げてしまった。
誰もいないところだから良かったが表通りだと何事かとジロジロみられてしまうレベルの声の大きさだ。
「また、千円が入っている。どういうことだ?」
俺が拾った財布はもしかすると千円札が無限に出てくる財布なのか。