第15話 俺は新居を手に入れた
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収入証明と銀行の残高証明。
このふたつをもって、不動産屋に翌日行った。
銀行が間に入るからスーツケースは無しだ。
「とにかくだ。物件を見せてもらおう」
今度は俺たちはもうひとり増えた。
不動産物件取引のプロの男。
黒縁メガネのやせ男。
いかにも細かそうな彼は、物件を買うタメに必要なアドバイスをしてくれる。
心強い味方だ。
「大丈夫です。物件のオーナーが来てくれることになりました」
現金はなくなったが、6億円の収入証明はすごい効果があるらしい。
「素敵!」
タワーマンションの最上階の部屋を見学に来たら、美波さんが
LDKの曲面窓に張り付いてしまった。
まるで子供みたいに、東京の風景を見ている。
素直でかわいいな美波さん。
しかし、まぁ。
確かにこのLDK、すごいな。
東京の風景がパノラマで観れるな。
「お気に入りましたか?」
現オーナーさん。
落ち着いた40代男性だ。
「ここでパーティをするとですな。みんなここに釘付けになるんですよ。特に夜景が人気です」
「私も夜景を見たいわ」
おいおい。
夜景って、何時までここにいるつもりだ?
「いいですよ。なんなら、私もお付き合いしますよ」
オーナーさんダメですよ、甘やかしては。
俺の隣にいるデキル不動産屋を見ると、うんうんとうなずいている。
「ねぇ、あなた。夜までいましょうよ」
俺と美波さんは、いつの間にか夫婦の設定になっているらしい。
たしか、恋人の設定だと言っていたはずだが。
だいたい、この部屋、俺がひとりで住むって言ってあったよな。
「なんなら、朝まででもいいわ。寝室もあるし」
さすがにそれはまずいでしょう。
ほら、オーナーさんもさすがにびっくりしている。
まだ契約も終わっていないのに、寝室は使えないでしょう。
「いや。ダメだ。俺は18時に約束があるからな」
「そうなの。残念。どんなひととの、約束なのかしらね」
うっ。それを聞くのか?
コンパニオンとしては、やりすぎではないか。
夫婦の設定になっているから自然なのか。しかし、すごい演技だ。
「キャバクラ」
「えっ?」
「キャバクラだ」
そう。ミキちゃんとみゆちゃんに約束しているのだ。
今日は、オープンからお店に行くと。
「あなた! キャバクラと私の夜景、どっちが大切なの?」
「それは、キャバクラだ」
「ひどい。あなたって、いつもそう」
すごいな。迫真の演技だ。
「まぁまぁ、奥さん。ケンカは…」
「なによ。男って、すぐ男の味方をするんだから」
もしかして、美波さん。
酔っぱらってない?
「私、夢だったの。コンパニオンになってお金持ちの人と知り合って、こういうとこに住むんだって」
昨日は、犬と砂浜を走るって言ってなかったか?
「それなのに…男のひとって、いつもそう」
えっと。元コンパニオンで、今はすごいお金持ちの俺の奥さん。
そういう設定でいいんですね。
「男にはな。断れない付き合いというものがあるんだ」
「どんな付き合いかしら」
ぐ。こういうのは女に勝てる気がしないのは、なぜだろう。
「そろそろ、時間だ。帰るぞ」
契約等は、プロ同士に任せることになっている。
すでに、仮契約書にはサインした。
正式引き渡しには、少々時間がかかるという。
だけど、それまではレンタルとして借りることの了承をもらった。
1日30万円掛かるけど、もちろん余裕だ。
「私、ここで待ってるわ。たった一人で夜景を見て泣いているわ」
「だ・め・だ」
男4人でゴネて暴れる美波さんを部屋から強制的に連れ出すことにした。
美波さん。壊れてしまいました。