第14話 俺はそんな方法があったのかと叫ぶ
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「あのね」
「・・・」
タクシーの中で美波さんが話しかける。
俺はだんまりを続ける。
ショックだった。
せっかく美咲さんに見た目をなんとかしてもらった。
美波さんに、男の箔をつけてもらった。
それなのに、家のひとつも買えないとは。
「収入証明がないのよね」
「ああ」
「どういうお金なの、とは聞かないわ」
「ああ」
「収入証明、欲しくない?」
「えっ」
美波さん。
俺の目の奥を覗きこんでいる。
「欲しい。それがあれば家が買える」
「なんとかなるかも、しれないわ」
「本当かっ」
そんなこと、できるのか。
しかし、どうやって?
財布にはお金を生み出すことはできても、収入証明を作り出すことはできない。
「ちょっと待ってね」
美波さんは電話を入れた。
なにやら話し込んでいる。
「手数料はどのくらいか、だって」
「そうだな。1割でどうだ?」
「オッケーよ」
話は一瞬で決まった。
俺たちは、収入証明を用意してくれる人に会いに行った。
「ここよ」
大きなビル。
星川リゾート開発。
名前は聞いたことがある会社で、全国のリゾート開発をしている会社だ。
リゾート開発と言っても、バブルの頃のようなやり方はしない。
人気がなくなった温泉旅館を安く買い取って、今どきな格安旅館にして儲けている。
最近は、資金ができたようで大規模なリゾートも手掛けるようになってきた。
「こちらでお待ちください」
受付嬢は、巨乳美人というのがなろうアニメのお約束だが、星川リゾート開発の受付嬢もなかなかの巨乳美人だ。
豪華な応接室で待っていると、恰幅のいいおじさんがやってきた。
「美波ちゃん、お久ぶりだな」
「はーい。アキラちゃん、お久しぶり」
えっと、お偉いさんなんだよな。
オーラが違うから。
だけど、美波さんはアキラちゃん呼ばわりしている。
もしかしたら、美波さんってすごい人なのかも。
「それで、あの話はこの男が?」
「そうなのよ。なんとかなる?」
「もちろんだ」
おっ、収入証明をなんとかしてくれるらしい。
「だが、本当に金はあるのか」
「ええ。それは間違いないわ」
「信じられないな」
それを言われたら、見せるしかないな。
「金はあるぞ。ほらここに」
応接セットのローテープルに、ドスンとスーツケースを乗せて開けた。
「!」
大きい会社のお偉いさんでも、びっくりしているな。
「これだと2億くらいか」
「ああ。2億4千万ある」
「それだけの収入証明でいいのか?」
「いや、足りない。最低6億は欲しい」
「それだけの現金があるってことだな」
「そのとおり」
恰幅のいいおじさんは、俺を値踏みするように見ている。
そして。
「よし、分かった」
「用意してくれるのか」
それから、事務職の人がひとり入ってきて書類を提出していた。
よくわからないが、契約書のようだ。
「ハンコはあるか」
「ある」
家を買うんだから、そのくらいは用意してあった。
いろいろと足りなかったが、そこは経験不足だから仕方ないな。
「まずは、リゾート開発のコンサル契約をする」
「コンサル?」
「そう。星川リゾート開発株式会社とあなたの間の契約だ」
「なるほど」
「日付は1年前だ」
恰幅のいいおじさんは、星川リゾート開発の社長だった。
リゾート開発はいろいろな形でいろんな人の力を借りる。
中には高額なフィーを支払う場合もある。
それがこの契約ということだ。
「それで、今日、6億円の支払いをする」
「そうなるのか」
「現金で6億円用意してくれ。それをあなたの口座に振り込む」
「なるほど」
まずは金がないことにはどうしようもないということか。
「分かった、あと3億6千万円持ってくる」
「ちょっと待った」
「なんだ?」
「こっちの金はそんなに早く用意できないが、いいのか?」
ん?
振り込む金は俺が用意する。
なんで、そっちに金がいるんだ?
「6億の手数料の6千万円、これは一カ月待ってくれ。なんとかするから」
「えっ、手数料はそっちが払うものなのか?」
数秒間の間があった。
そして俺から言葉をつないだ。
「それなら手数料は無しでどうだ?」
「なんと。それで大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「税金がどどんと来るぞ」
そういうことか。
俺は今、6億円の収入の書類を作っている。
するとここで6億円の収入が生まれる。
その分の税金も発生するということか。
「それは問題ない」
税金がいくらかは分からないが、財布に頼めばなんとでもなる。
「それなら、不動産取引のプロを派遣しよう。要はタワーマンションの一室を買えればいいのだな?」
「その通り」
なんだか、よくわからないが、収入証明はなんとかなったみたいだ。
後は残りの現金をもってくるだけだ。
「これは預かってくれ」
「では、預かり証を用意する」
「そんなのいらん」
なんでも書類なんだな。
そういうのは苦手だ。
できるだけやりたくない。
「いいのか? この金を隠してそんなの知らないと言ったらどうする?」
「そんなことをするとは思えないが。収入証明がない金だから、隠されたらどうしようもないがな」
星川社長は大声で笑った。
「気に入った! 大胆な男だな」
俺と美波さんは残りの金を用意するために、一度、俺のアパートに向かった。
☆ ☆ ☆
アパートに向かうタクシーの中で美波さんが事情を話してくれた。
「アキラちゃんはね、裏金が必要になって困っていたの」
「裏金?」
「リゾート開発には、表に出せない金があるの。たぶん政治家か官僚相手の金ね」
するとあれか。
山吹色の饅頭か……お主も悪よのぉ~。
「だから、6億円悠斗さんに支払ったことになれば、帳簿に載らない6億円ができるって訳」
「なるほどな。だから手数料になるのか」
だんだんとカラクリが分かってきたぞ。
「アキラちゃんは、強欲だけどね。悪い人じゃないわ。ちゃんと約束は守るし」
「そう願いたいな」
でたぁ~、ご都合主義。笑