3.不幸なお知らせ?
お昼には普通にご飯がでた。お茶碗一杯のご飯に、お味噌汁。少々の野菜物を中心としたおかずといった感じ。食事は朝昼晩の三食で、朝が量は大目。年齢・体格・仕事内容などによって予め基本の量は決められているんだって。そのおかげか、西の領ではメタボな人は少ないらしい。
そして、午後になって四嬢さんが教えてくれた残念なお知らせ。神指の街の学校・六人組は、「なりそこない」は面倒を見切れないとのこと。もちろん直接的に書いてあるわけでは無いけれどね。西の領では、基本的に「働かざるもの食うべからず」が徹底されている。小学生(と呼ばれているが、生前の世界とは別物)ですら、安全を確保されているとはいえ、小物の魔物が湧く林での魔物を討伐し、魔石を採取する事が義務らしい。たくましいな、小学生。
もちろん、怪我や病気などで働けないことは大人も子供もあるけれど、それをカバーするのが六人組や里・隣組などの存在らしい。嘘はばれると悪質な場合は、六人組や里・隣組からの排斥・転地などの罰則もあるし、嘘をついてると解るスキルを持つ人は割と多いらしい。だからこそ、厄介者になりそうな要因は引き受けたがらないよね。
年齢のせいだけじゃないだろうけど、自分ではどうしようもない事が続くのは、前世と同じだね。そう思い考え込んでいると、よほど不安そうな顔をしていたのだろうか?四嬢さんにせっかく整えた髪の毛をわしゃわしゃにされた。
むぅとばかりに見上げると、
「そないに心配せーへんでもいけるやで。あんたから奪うた品物返しとうなければなんとかするやろうしね」
と言って笑っていた。私の荷物だけでも、大きな行李だったのだから、両親の荷物はもっと多かったのだろう、数年分の学費が充当されるくらいなのだから。
夕方になると、四条さんは格子の外へ出ていき、格子の間の闇も元通りとなり何も見えない。目を離すわけはないだろうから、だれか外に入るんだろうけど、きっと誰も話しかけてはこないのだろう。枕元に羽織袴を脱いできちんと畳むと、さっさと布団に入ることにした。
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「では、特に危険な兆候はないと?」
神指街の嬢士隊詰め所である。詰め所といっても、街の警備を勤める嬢士達の宿舎や訓練場なども備える為、それなりに広くみすぼらしくも無い。特に豪華というわけではない隊長室で、遙は副長に一日のやり取りを報告を行うと、そう訪ねられた。
「そうやで~。記憶喪失ちゅうには疑問があるけど、今のとこ力が強うなってるやら、そないなのはあらへんようです。そういえば、隊長はおらへんねんか?」
そう、遙はただ世話をするだけで麩菓子を渡したり、手ぬぐいを絞らせていたわけではない。目覚めたばかりで力の加減などわからない状態では、麩菓子など簡単に崩れて食べることはできないし、濡らした手ぬぐいを引きちぎるくらいはしたであろう。旅の事を聞いたのも、子供とはいえ間者の疑いがないわけでもないのだから。
さくらの答えや様子からは、年齢相応の体力とやや表情に乏しい点はあるが、年齢以上の知識と落ち着きを感じさせていた。
「ああ。あの子の両親の荷物の目録を持って出て行った。どうせどこかで悪巧みをするのだろう。それで、疑問というのはどんな点なんだ?」
「いや、下着やらの着替えがぜんぜんできてへんかったのと、変にこだわりあるみたいやさかい。羽織袴は一人で着れるのに、違和感はあるんよね~」
と、さくらの下着の着付けを思い出して苦笑する。女性でも下着を着けるのは当たり前ではあるが、さくらのいうズロースは肌触りを良くするために使用されている布が高級なのと、ゴム素材が割高となる為一般的ではなく、当然子供用のサイズはない。さくら用の行李にも入ってはいなかったのだから、普段から使用しているわけではないだろうに、妙に拘っていた点も疑問の一つではある。
「そうか。では、明日一日様子を見ることにしよう。午後は神指通りまでの町を案内して様子をみてくれ」
報告書を見ながらも、無表情に副長は遙に言う。言葉のイントネーションも少ない為、冷たく聞こえるがどこか楽しんでいるようにも、遙には感じられた。
「ええんですの?明日一日は拘留する予定では?」
「本来の拘留期間の10日は経っているからな。黒川に連れて行くにしても、もうすこし情報がほしい。」
そう言いながら、子供用のフード付きの薄手の防寒着と小銭の入った巾着袋を遙に渡してくる。
「ちゅう事は、明日は半休やで。やった~」
「貸しだぞ?あと、帯刀は四嬢もあの子もさせないように。事故が起きては困るからな。」
「え~、いけずやな~。なんか起きたときは、勤務扱いにしてや~。それを直接渡したったら、あの子も怖がらへん思いまっせ?」
「それと……。」
顔を寄せて、四嬢になにか伝える副長
「…ええ人言うたのは訂正します…」
遙はしぶしぶ最後の命令を拝命した。