五日目 世界の秘密①
疲れたー
ゲーム世界での生活五日目。 エンデュラの森の隠れ家。 彼、クロードはいつものようにベッドから起きた。 そして、彼は彼女らがいる部屋の扉を開けて笑って言う。
「おはよう、ヒナ、テレシアさん、ロストさん」
「・・・・・」
ヒナとロストさんは口をぽかんと開けて、テレシアさんは無視。
「どうしたんだよ? そんな顔して。 ていうかテレシアさんは無視しないでくださいよ」
「そ、そうね、おはよ クロード」
「おはよう、クロ君」
「・・・・おはよ」
ヒナさんとロストさんは笑って言った。
それに対してテレシアさんは少し間を置いて小さな声で呟いた。
「それじゃ、出掛けてくるわ」
俺はヒナ達にそう言って隠れ家を出た。
隠れ家を出ていくクロードの背中を見送って扉が閉まるとヒナ達はため息をついた。
「はぁ、昨日、あんな事があったのにクロ君は変わりようが早いわね」
「違います ロストさん。 クロードは強がっているんです。 私達にバレないように」
「よく知ってるのね、クロ君の事」
「当たり前です。 この世界で一番、彼と一緒にいた時間は長いんですから。 だから....だから」
ヒナの瞳から一滴、一滴、透明な雫が落ちる。 いつしかそれは涙となり鼻水が垂れ、人様に見せられないようなぐしゃぐしゃな顔で言葉をこぼした。
「だずげだい!! クロードがずきだから!!」
本心がこぼれ落ちる。 心の底にあった助けたい感情。 そして、ずっと隠していたクロードへの思い。
「そんなこと知ってたわよ あなた達と会ったときにね」
ロストさんは花柄のハンカチを手渡し頭を撫でた。
「ロストさん....」
「ほら、泣くのはやめてクロ君を探しに行くわよ。 テレシアも」
ロストさんは椅子に座ってムスッとしているテレシアに言うと
「はぁ、分かったわよ 探しに行きますよ 姫様」
ため息をついて立ち上がった。
内心思っていた。 昨日の件が悪かった事に。そして、自分が間に合わなかった事を他人のせいにした事も。 全て当てつけだということを。 自分の無力さを隠すために他人のせいにした。 それは最低な行為だと自分自身が最も理解していた。
「さぁ、行こうか ヒナ テレシア」
ロストさんはそう言って隠れ家を出た。
☆☆☆☆
その頃、クロードはエンデュラの森の奥の奥にある湖を眺めていた。 うつろな瞳で。
透き通った湖に彼の絶望しきった顔が映る。 その度に彼は笑う。 笑顔を作ろうとする。 でも、その度に吐き気がした。 胃の中身を全てぶちまけたい衝動に駆られた。 彼は道化師のように笑う。自身に偽の仮面を被せる。 自分の無力さから逃れるために。
「なんか、疲れた.....」
俺は刀身が光り輝く短刀を自身の首に狙い定めて貫いた。 血が舞う。 あぁ、死ねる。 そう思った。 だけど舞った血はすぐに消えた。 傷も。そして、目の前に1人の青年が立っていた。
目の前に立つ青年は少し変わっていた。
着ている装備というより燕尾服にしか見えない服。 見た目は茶色の髪に紫紺の瞳をしており顔立ちが整っている。 右手には白色の分厚い本、左手には赤色のペンを持っていた。こんな森にいるような人間ではない。 いや彼は本当に人間なのか?突然現れたのだ。 人間なわけがない。
「君は死んではいけない。 君は唯一、我が主の願いを叶えてくれる転生者なのだから」
そう言って青年は俺に向けて赤いインクで書かれた1ページを破り胸に押し付けた。 すると、その紙は俺の体をすり抜け自身の体へと消えた。
「な、何をした?!」
「落ち着きた前、僕は君を殺しに来たのでは無いよ。 ただ我が主がとても会いたがっている転生者を見に来ただけさ」
青年は本を閉じて左手にあるペンを指先でくるくる回しながら言った。
「主? 転生者?」
意味がわからない。 どういう意味なんだ? なぜ俺を知っている?
「おや? 混乱しているようだね。 クロード君、いや黒森大樹君」
青年の言葉に俺は背筋が凍る感覚に陥った。
「お前、なんで俺の名前を知っている?」
この名前は誰も知らないはずだ。 知っている奴らはこの世界にいない。 だけどこいつは知っている。 ここはゲームの世界で現実とは関係ないはず。 やはりこのゲーム、NCOは未だに判明していない謎があるのか?
「その質問に答える義理はない。 僕はただ君に会いに来ただけなんだよ 黒森大樹君」
「舐めてんのか?」
「まさか、我が主がとても会いたがっている転生者を舐めているわけないだろ? 」
青年は棒読みで下手くそな手振りを踏まえて言った。
「お前、ふざけんじゃねぇ?!」
俺は剣を振り抜いた。 しかし、そこに青年はいない。 そして、いつの間にか視界が逆さになっていた。 土が目の前にある。上から声がした。
「さっきからお前、お前と、僕にはアルファスっていう主様から貰った名前があるんだよ」
少し怒りの混じった声音。 頭を押さえつける手はとても強い。 動けない。
「しかし君はまだ我が主の願いを叶える転生者にまで達してないようだね。 君はまだ彼女に会っていないのかい?」
「彼女? 誰の事だ?」
「巫女だよ、巫女。 見てないのかい? 銀色の髪に黄金色の瞳をした巫女に」
「お前、あいつが誰なのか知ってるのか?」
俺はアルファスと名乗る青年を睨み言った。
「ははぁ、知ってるも何も彼女は転生者をこの世界に連れてきた者だからねぇ、そして、僕達を殺してくれる救いの神様さ」
アルファスは大袈裟に手を広げ二ヘラと笑い言った。
「転生者を連れてきた巫女....」
「そう、君達を転生させた巫女さ!!」
アルファスは手を広げ大声で叫んだ。 とても大きな叫び。 木々が揺れ、湖に大きな波紋が浮かぶ。
「そうそう、忘れていたけど君に1つ重要なことを教えてあげよう」
「重要なこと?」
「あぁ、おかしいと思わないかい? 何故Lv.999の転生者がゴブリンにさえ勝てないのか?」
「お前はそれを知っているのか?」
「勿論だとも、僕がこの世界で知らないことは何も無いのさ! 僕は知識を独占している魔神の頭脳だからね!!」
アルファスは叫んだ。 今度は地面がめり込み、木々が砕け散った。
「わかったから本題に入れ」
「うーん、つれないなぁ 黒森大樹君....っとと、そんな怖い顔しないでよー、 はぁ、仕方ないなぁ、 それじゃぁ、話してあげるよ」
アルファスはため息をついた。
「一回しか言わないからちゃんと聞いてね」
「わかったからはやくいえ」
「それじゃ、言うよ。 それはね、君達がまだ力に目覚めていないからさ。この世界の住人が皆、生まれつき持つ『運命力』にね」
アルファスは真剣な声で告げた。
次回は『運命力』についての話と強欲の罪を背負い魔神の話です!