紅い華
いろいろな物語。
「読んでいるこのコトバは本物?」
と思うなら読み返そうか。
ねぇ…。あなたは知りたい?
本当のコトバ
葉を揺らし、枝を折り、地を踏み荒らして進む。わざと大きく、ガサガサと音を立てさせ『ここに居るから近寄るな』と伝えようとする。なのに、彼女はここに来る。僕の気も知らないで、彼女はこんな僕に笑いかけてくれるんだ。この後の結末を知りながら。
これは、無知な僕らの物語。
ステップを刻みながら、鼻歌を喉の奥から響き出す。入り組んだ森の中も、僕にとっては自分の家の中と同じ感覚だ。
やがて一軒の木で縁取られた小屋に着く。ガタンっと、少し乱暴に木の戸を開けて、その部屋の中の、ベットに横たわっている肉塊に甘い言葉を囁き、上手く、上手く口車に乗せて騙したあとは骨の髄までしゃぶり尽くす。
ここまでは、シナリオどうり。
肉塊だったものが身にまとっていたお飾りの洋服を僕が着直し、ベットに横たわる。そして、この物語をなぞらえるかのようにノック音が、トン、トン。と心地良いテンポで打ち鳴らされていく。
けれど、ここからが誤算だった。
なんと赤ずきんは物語を破ったのだ。
僕を見るなり、赤ずきんの瞳から光が溢れだし、
「狼さん。」
と言って抱きついてきたのだ。
彼女の細くて折れそうな腕が強張り僕の体を締め付ける。
「!?!?」
僕は急に起きた出来事に混乱していた。このとき、僕は体を彼女の腕と同化したかの様に強張らせるしかなかった。
『どうしてこうなった?』と自分に問いかけている僕を我に返したのは、ふわっと甘い血の香りが鼻を撫でてきたからだ。
目の色を変え、僕を誘う甘い香りの元を探す。視線を落とすと彼女の腕には紅い華が咲いており、つうっと涙を流していた。
それを見た瞬間。僕を押し潰すかのように何かが包み込んだ。
それから後のことは覚えていない。
ただ。本能の思うままに喰い散らかした事は目の前に置かれた状況でわかった。
少し固まってグチャッとした赤黒い血が、瀕死状態の彼女をより美しく際立たせている。ああ。本当に
オイシソウ―――――…
「お、おかみさっ」
噎せながら僕を呼ぶ赤ずきんを横目に、僕は彼女の首元に牙を立てた。だらりと鮮血が流れ出す。
薄い首の皮を引き千切ろうと顔を赤ずきんの方に向けた時だった。彼女は口をパクパクと動かしてかすれた声で最後にこう言った。
「また、繰り返すの?お願いやめ―」
ブツンと切れの悪い音を立てて噛み切った傷口から勢い良く血が吹き出していく。こんな光景を見て
『ああ。懐かしい』なんて思ったりした。
大好きな血の匂い、大好きな血の味を堪能していてとても良い気分なのに何故だろう?
涙が溢れ出て止まらないんだ。
本当はどうして涙が溢れるかくらいわかってる。だけど、きっとそれを認めてしまったら、この気持ちを本物にしてしまったら、物語が変わってしまうだろう?
僕は自分自身にそう言い聞かせると、ぼろぼろとこぼれ落ちる光の下にそっと手を添えた。
…あれからどのくらい時が過ぎたのだろう。
いつの間にか少しかさが増えて波紋が立つほど光を集めていた。光だったものの残骸の中に写る僕は、波紋が鳴るたび僕の顔が歪んでゆく様子をなんの光も持たない眼で観ていた。
それを観ると沸々と湧き上がってくる感情があった。けれど、僕へ向けられた憎悪は何も出来ずに光を奪って、光と共に僕を 絡めて堕としていくだけだった。
パシャン
何か音がした。
軽くなった自分の手を見ると、光を集めていた手にはもう何も写っていなかった。
そのことが分かった瞬間に僕の脳内はある一つの答えを出した。
もう僕には、彼女しか……
僕は彼女を愛していた。何回も何十回も物語を繰り返し繰り返し演じてやっと気づいた。ただの自己満足だったのだ。
彼女は僕を愛してなんかいない。
彼女に向かって、『ここに居るから近寄るな』と伝えている
つもりで本当は彼女に来て欲しかった。笑顔が見たかっただけだった。
僕は未だ瞳から溢れる光を拭って微笑した。こう決めたのだ。
彼女の気持ちなんて知らない。君はいつか僕のものにする。
だからこの気持ちを本物にする為に全て、食べてしまおう。
彼女の心が僕の気持ちをわからないと言うなら、身体に教え込めばいい。僕はどうせ人食いの狼だから、綺麗な赤ずきんには似合わない。
僕の物に決してならない赤ずきんも、食べてしまおう。
僕の物になるまで、
何度でも、何度でも。
トン、トン、トン。と木のドアを丁寧に叩く音がする。やっと来たんだね?僕の赤ずきん。
壊れかかっていた歯車が鈍い音を立てて崩れ落ちていったのを僕達はまだ知らない。
どうも、こんにちは!朝月 神無です!
今回で投稿した作品は2作目となりました!
これからもどうぞよろしくお願いします!




