第二回 過去へと流れるツイッター小説を現在につなぎ留める方法
さて。第二回は、ついのべの「現在性」とでも呼ぶべき性質について考察しようと思う。
ついのべは、文字通りツイッター上に投稿される。するとフォロワーのタイムラインや、タグ(#twnovel)の検索画面に表示される。それらはツイートしてから暫くの間、タイムライン上に残ることになる。だがすぐに新しいツイートやついのべに流されていってしまう。これが私の言いたい、ついのべの「現在性」だ。
具体例を挙げよう。これを書いている現在(2015年11月15日(日)の21-24時)、PC上でタグを検索してみると、まず「トップ」に誘導される。ここに表示されるのは多くのリツイートやいいねをもらったついのべになっているらしい。一日あたり数作が表示される(古くなると、あまり反響のなかったものも多く表示されるようだ)。次に検索画面で「ライブ」を選択する。するとタグがついた全てのツイートを新着順で表示してくれる。この時間だと、一時間あたり10-15ツイート程度が新たに投稿されている。一日の中では多い方だろう。数時間前のついのべを見ようとすると、何回かマウスをスクロールする必要がある。
このことから、よほど熱心についのべを読もうとしない限り、古いついのべは段々と読まれなくなっていくということがお分かり頂けるだろう。
この現在性に対して、ついのべ作家たちが手をこまねいている訳ではない。意識的であるかは推測するしかないが、この現在性から逃れる幾つかの手段が生み出されている。
その一つが、ついのべをまとめることである。一箇所に自作を置いておくことで、過去の自作にアクセスしやすくできる。自分の創作拠点であるブログか、ツイートまとめサービスであるTogetterを使う人が多いだろうか。もしかしたら他にもあるかもしれない。ちなみに、私は「小説家になろう」で自作をまとめている一人である。
二つ目は、ついのべbotを作ることである。私自身は利用していないので詳しくは分からないが、過去の自分のついのべを自動的に呟くアカウントを作ることができる。当然タグがついていれば、新しいついのべとして検索にも載るから、多くの人の目に触れる有効な手段だろう。
しかしこれらにもそれぞれ欠点はある。
ついのべのまとめを作った場合、全てを読むのに時間がかかってしまう。私の場合、現時点で総数約500作、文字数にして約7万字。読了時間は2時間30分に迫っている。もはや映画一本を見るのと同じだ。これでは誰かが読みに来ても、初めの幾つかが気に入らなければ他のついのべは読まれないだろう。実際、私のまとめのアクセス解析を見ると、全作を読んでもらえるのは約30人に1人くらいの割合のようである。
またbotを使う場合、書いた時の時間感覚が失われてしまう。クリスマスに作った作品を夏に呟くのは、少し妙だ。もっとも文学作品というのは得てしてそういうものではある。だがしかし、ついのべは現在性が強い文学形式である。クリスマスについのべを検索すると、そのほとんどはクリスマス関連のネタで埋まる。そうやって他の人とリアルタイムで同じネタを扱うというのが、魅力の一つだ。それを削ぎ落としてしまうのは、少しもったいない。
そこで私は最近、他に手段がないものかと実験を続けてきた。以下に挙げる方法が有効である確信はないが、何かの参考になれば幸いである。
一つは、ついのべを連作することである。現在のついのべと過去のついのべのストーリーをつなげることで、過去のついのべに注目を集めることができるだろう。続けざまに連作をツイートすれば、つながりも読み手に分かりやすいから効果的だと思われる(が、実際の効果は定かではない)。また古いついのべの連作を新たに書くと、既に自作を知っている人がニヤリとしてくれるかもしれない。
分かりやすく例えれば、ラジオ番組みたいなものだ。ラジオ番組も、独り語りやトークという点ではツイッターやチャットと同種のメディアと言えるだろう。私が特にラジオ番組で面白いと思うシーンは、放送中に出た話を後半でも取り上げたり、あるいは過去の放送で面白かった場面をネタにするような時である。それをついのべにも応用してみようという訳だ。
できれば具体例を挙げたいところだが、連作については色々と実験してみたので、また別の機会に考察しようと思う。
二つ目に挙げるのが、スター・システムを採用することである。スター・システムとは、同じキャラクターを別の作品にも出す手法を指す。伊坂幸太郎の小説とか、藤子不二雄作品とか、色々な所で使われているから、それ知ってるという人も多いだろう。これを採用することで、先ほどのストーリーをつなげる手法と同じような効果が期待できるという訳である。
これと似たことをした作家に、星新一がいる。星新一は、日本におけるショートショートの父とでも言うべき作家である。星新一のショートショートには、「エヌ氏」や「エフ氏」と呼ばれる人物がたびたび登場するのが特徴的だ。しかし作品ごとに必ずしも特徴は一致しない。名前だけが共有されている。
しかし星新一とは対照的に、ついのべでスター・システムを採用する場合は、キャラクターに特定の名前を付けるべきではないと私は考えている。その理由の一つは、ついのべは140字の中で完結させるべきだからである。つまり新しいついのべでは、またその登場人物の説明から始める必要がある。でなければ、そこから読み始めた人には訳が分からない。ついのべでは、そのキャラの名前より性質が大事なのだ。そしてもう一つの理由は、性質以外の情報が文字数を使ってしまうからである。性質さえ明示すれば、名前は要らない。その分、追加するべき新しい情報を書くのが優先だろう。
以下に、自作の例を載せておく。これらの作品の投稿時期は少し時間が空いているが、それでも繋がっていることは一目瞭然であろう。
糸電話が降ってきた。見れば糸はすうっと天まで伸びている。一旦は躊躇したが、好奇心が疼く。「もしもし」こもった声が振動になる。すぐに返事がきた。「もしもし」それからしばらく、時間を忘れるような一時を過ごした。「ところでお名前は?」「私は時間泥棒と申します」 #twnovel
時間泥棒は、突然現れる。その者と会話をした時間が、奪われる。そう言われている。どう思われようと、私のすることは変わらない。誰かの寿命を少しだけ延ばして、家族との別れの時間を作る。それが私にできる唯一の社会との関わり方なのだ。このお時間も頂いていきます。 #twnovel
「おい、そこで何をしている?ここは関係者以外立入禁止だ」「お兄さん、時間解放戦線の首領さんのお部屋はこっちで合ってますよね?」「貴様、何者だ!」「おっといけない。申し遅れました。私、時間泥棒という者です。偵察をしに来ました。この会話のお時間は頂いていきますね」 #twnovel
私は時間泥棒だった。誰かの時間を頂戴して時間が足りない人に配ることが、使命だと思っていた。でも気が付くと、私は最愛の人の死を延ばしていた。なのに、あの人は今朝も私に微笑んでくれた。その温かい笑顔で、私は決心した。私とあの人の残りの人生よ、世界の全ての人々へ届け。 #twnovel
これらの例では「時間泥棒」という性質を全ての作品に盛り込んでいる。どこから読んでも時間泥棒がどういう特徴を持つ人物か分かるはずである。もしここで「時間泥棒」を「ジョン」に変えてしまったら、ジョンが何者かよく分からないし、これらの繋がりに気付きにくい。いくら作者がつながっていると主張しても、それは独りよがりなだけだ。
以上、ざっくばらんに連作とスター・システムという二つの方法を提示してみた。ただしこれらにも欠点はあるし、有効であるという保証もない。少なくとも、ついのべの「現在性」に対して、これを完全に克服する方法は現時点では無いと言える。今後のついのべ作家たちの課題の一つであろう。
次回はついのべのジャンルについてまとめようと思う。これについてはあまり深く考えていないので、さらっと流そうと思う。それでは。