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乙女ゲームの悪役令嬢になったようです~命大事に

作者: みかん

 物心ついた頃から違和感を感じていました

 私が私じゃないみたいに。


 鏡の中には肌の青白い、銀髪に近いほど薄い色の金髪の人形のような幼女がいます。


「これが私? 」


 自分なのに自分じゃないように見えます。

 違和感を感じながら少しずつ歳を重ねてきました。


 7歳になったある日、婚約者が決まったとお父様に言われました

 次の週末に顔を合わせる事になりそうです




 お父様の前に出ると緊張します。


 出来て当たり前、出来ないと眉をひそめられる。

 減点方式なんです。


 私は両親に愛される為に頑張りました。完璧を目指して。


 出来損ないは愛されないのです





 夜、天蓋のついた広い広いベッドにたった独りきりで眠りにつきます

 暗闇に不安で心細くてたびたび泣きました


 最初の内は一緒に寝て欲しくてお母様の部屋を訪ねた事がありました


 その時の失望したような目……


 心がキュッと縮んで何も言えなくなりました。



 きっと、きっと


 私がもっと頑張れば褒めてくれる


 そう信じていました。いえ、信じたかったのです





 婚約者との初の顔合わせの為にお城に行きました

 どんな人だろう?

 優しい人だと良いな


 恐る恐る案内された部屋に向かいました

 そこにいたのがアルス殿下です。


 とても綺麗な少年で、大きくなったらとてもカッコ良くなりそうです

 少し見とれてしまいました。

 王子様だと聞いてドキドキして、我ながら顔が赤く染まったのがわかります。



「2人とも上手くやれそうだな」

「はい、陛下」


 緊張しすぎて殿下しか見えてませんでしたが、

 大人達の声が聞こえたのでそちらに目を向けた瞬間、絶望しました。


 私が自分の顔に違和感があった理由。それは前世の記憶があったせいです


 そして王様の顔は、私が前世でやった乙女ゲームの攻略対象者の顔でした。

 ただしその名前はアルス。


 そう、目の前のこの少年が成長するとこんな感じになるのでしょう




 私は攻略対象者の婚約者

 いわゆる悪役令嬢です


 自慢できる素敵な男性にする為に色々指図したせいで嫌がられて

 避けられているうちにヒロインと出会うんでしたね


 ヒロインは庶子の為にいびられていたけれど

 健気に頑張る姿に殿下が少しずつ心惹かれていく話でした




 もしヒロインが逆ハーエンドを狙ったら

 私は皆様の前で断罪されて国外追放です


 もしヒロインがアルス殿下攻略ルートを選んだら

 やっぱり皆様の前で断罪されて牢屋行きです


 貴族らしい貴族の両親からはその時点で縁を切られます……



 どうすれば良いのでしょうか?


 困惑して殿下を見ます。

 私の視線に対して不思議そうにキョトンとした表情が愛らしい




 あぁそうだ。



 不意に思い出す

 私は、前世でも親に愛されない子供だった


 頑張って、言うことを聞いて、間違わないように間違わないように生きてきた

 周りに評価される事が全てでした



 そんな中、私のたった一つの息抜きはアプリの乙女ゲームをする事


 私の一番お気に入りのキャラは

 周囲からの期待からのプレッシャーで押しつぶされそうな気持ちを抱える男性

 そう、アルス殿下が一番大好きだったのを思い出した


 彼に、共感したのだ





 ヒロインに……取られたくない





 私の心には暗い闘志が湧いた。

 フラグは折ろう。シナリオを変えよう。トラウマは回収しよう。


 王子の性格を変えるのだ


 そしてヒロインはいじめない

 私の存在をスパイスにイチャイチャされてたまるもんか!



 学園入学は12歳、それまでに……


 私は決意を込めて右手をギュッと握った









 12歳になった秋、いよいよ入学です


 アルス殿下を褒めて褒めて褒め倒して!

 自信をつけさせる為に頑張った結果



 ……殿下は俺様王子になりました。



 ちょっと……いや、かなりやりすぎた気がします

 乙女ゲームの時のような生真面目で不器用で女性に優しい彼はどこに……


 ま、まぁこれで彼の弱点をくすぐられる事はないでしょう

 予定と違いますが良しとします。


 あとはヒロインと出会うイベントの時間に他の予定を入れればバッチリです





 最初は順調でした。


 でもまさか他の攻略対象者と一緒の時に出会ってしまうなんて!


 更に誤算だったのは、イベントが起きてないのに仲が深まるなんて!



 何が起きてるのでしょう?



 そしてアルス殿下に呼び出されました

 従者を声が聞こえない程度の離れた場所に待機させ

 二人きりで教室にいます


 殿下は言いました

 自分のワガママですまないが婚約を解消させて欲しいと。


「なぜですの? 最近親しいと評判の方と婚約するのでしょうか? 」


 聞くとまだ婚約は申し込んでいないと言います


「それなら、あの方が婚約を受けてくれてから私との婚約を解消すれば…… 」


 声が震えます。まだ、引き止められるのではと淡い期待にすがります

 でも殿下は首を振りました。

 妹のように、姉のように、大事に思っている私に対して都合の良い事は出来ない


 そう告げるのです。


「上手く言えないのだが…… 」


 殿下は言葉を探すようにポツリポツリと続けました


 曰わく……

 何でも手に入った。望まなくても手に入った。

 何かを手に入れる為に必死になった事が一度もない。

 必要な全てがもうそこにあったからと。


 でも……と殿下は続けます。私は真剣に耳を傾けました。


「本当に欲しいものが出来た時に、こんなに頑張れる自分を自分で知らなかった」


 ああ、これは私が乙女ゲームで焦がれたアルス殿下だ。

 表面上は俺様になっていたけど、本質は全く変わらなかったのだ


 私の5年間の努力は全く無駄だったのか


「たぶん貴女と結婚しても上手くやっていけると思う」


 大事に思っている。幼なじみのように。家族のように。戦友のように。


 そう告げる殿下へ、

 それなら私と結婚をして彼女を愛人にすれば良いと言いたかった。

 言いそうになった。でも違うのでしょうね。


「私はこの気持ちを知ってしまった。本当にすまないと思っている」


 王族が、いくら二人きりとは言え私に頭を下げる。本当に駄目なんですね


「わかりました」


 私の言葉を聞いたアルス殿下が頭をあげる


「その代わり、あの方に思いが届かなくても」


 私との婚姻はありませんよ?

 そう言って微笑むと、殿下は再び頭を下げた








「髪も結わずに見苦しい」

「まるで庶民の子供のよう、だから庶子は」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、おやめなさいと反射的に口から言葉が出ました


 見ると例のヒロインがいたのです。

 それにしてもレディファルスとは……彼女も転生者なのでしょうか?


 話しかけようと迷いましたが

 選ばれなかった女が、選ばれた女に対して何を聞こうというのでしょうか


 せめて毅然と、胸を張って去りましょう


 私は顔を上げて歩きました。





 この一年、両親を通じて内々にゆっくりと婚約解消を進めてきました


 お父様とお母様の顔が見れなくて、家では常に視線を下に向けていました。


 私は今世でも、両親に必要とされない役立たずな子供でした。



 これからお城へ向かいます

 婚約解消と、新しい婚約者を紹介されるようです

 ヒロインも呼ばれると聞いています



 本来なら今日が断罪イベントの日です



 もし今日、シナリオ通りに断罪されたらどうしよう

 急に怖くなりました。でも……フッと笑みがこぼれました


 断罪されたらされたで

 これ以上、お父様とお母様の失望する顔を見なくて済む


 そう考えると開き直りのような気持ちがわいてきました。





 馬車がお城に到着です

 案内された部屋に着くと、王様と王妃様と殿下がいました


 室内の人間は最小限で、私への配慮が感じられました

 何事もなく婚約は解消されました


 王妃様には気に入られていたので、その為に解消にこんなにも時間がかかったようです

 無事に終わってホッとしたような複雑な気持ちでいます


 少しするとヒロインも入ってきました




 ヒロインが話しかけてきたのでずっと聞きたかった事を聞きました

 やはり彼女は転生者のようです


 しかも乙女ゲームをした事がない転生者でした


 それなのに攻略対象者を攻略出来たのは、経験に裏打ちされた行動でした

 彼女自身のコミュ力の高さだったのです


 私が何を変化させようと駄目だった理由はこれでした。


 彼女はシナリオがどうとか、分岐点がどうとか

 そんなものは一切知らずに、目の前にいる人と向き合っていたのです


 この現実に、ゲームを持ち込む私が間違えていたのです


 私は、私の目の前にいた殿下だけをきちんと見ていれば、

 そうすれば失わずに済んだのかもしれません



 彼女は言いました。これからが大変と。

 常に私と比べられ、毒殺される危険とも隣合わせになるでしょうと



 毒殺と聞いてギョッとします

 もしかして私が王妃になってもそんな危険があったのでしょうか?



 全く考えもしませんでした



 それと同時に、彼女の覚悟も垣間見えました


 完敗です


 どうすれば、私も誰かに必要とされるのだろう?

 間違わないように生きてきたつもりなのに、と知らず口から言葉が漏れました


 彼女は言いました


 誰かの為だけではなく、自分の為にも生きてみれば?

 そしてたくさん失敗すればいいよと。


 たくさんの失敗が、本当に欲しい相手が出来た時に生きるから。

 失敗を怖がらないで?


 失敗は怖いけれど、それでも。

 たくさん傷ついてでも前に進めば見えるものがあるから


 微笑む彼女は、聖母さながらの包容力に満ちていて……







 あれから私は、お城の文官をしている、とある貴族の元へ嫁いだ

 日本でいう、警察庁長官や防衛省次官のような立場らしい


 顔立ちは整っているけれど地味な印象。不思議。


 そんな彼と喧嘩して仲直りして喧嘩して

 嘘のない気持ちで向き合ううちに

 少しずつ、かけがえの無い人へと変わったのがわかった。

 子供も2人出来た。幸せで怖いくらいだ



 あぁ、これが恋なのか



 苦しくて切なくて会えないと寂しくて

 一緒にいたいと心から思う


 それと比べると殿下への気持ちは、ただの執着でしかなかったのだと思う。

 前世の不幸せだった私の、最後の心の寄りどころにしがみついていたのだ




 夫が城で働く間

 私は王家の乳母として、また教育係りとしてお城で働いている


 ミリア……亡き貴女に代わり、私が立派に子供を育てますわ

 そう心の中で誓った。



「ちょっと待って! 勝手に殺さないで」


 フラフラになりながらミリアが入ってきました


 チッ!


「貴女こそ私の心を読むようなメタ発言はやめて頂ける? 」


 私は澄まして答えます。ミリアが発言をかぶせるようにたたみかけます


「いま舌打ちしましたね? あぁ、あの真面目なアリスさんはどこに? 」

「ここにいるじゃないですか」


 私がニヤリと笑うとミリアは大きくため息をついて言いました。


「ねえアリス、この世界は本当に普通の乙女ゲームですよね」

「ええそうですよ」



 と、扉がバーンと音をたてて開きました


「ミリア! 時間が出来たよ」


 扉を開いたのは王太子となった殿下です。良い笑顔です。


「ひぃー!! 」


 ミリアが叫びます。


「あの、その、せっかくアリスもいますから今は…… 」

「彼女は仕事中だからまだまだ時間はあるよ。さあ行こう」


 声にならない声を出してミリアはドナドナされて行きました




 正直、殿下と婚約解消になってラッキーだと今は思います。

 あれほど愛されるなんてとてもじゃないけど体力が持ちません


 あんな生活をすれば王妃として公務をする暇も無いでしょう


 妊娠の安定期までと出産間近以外の毎日欠かさず愛を交わす殿下。

 子供はもう6人います。


 暇さえあればミリアの元に通ってます。


 でも仕事をおろそかにする事もなく、

 むしろミリアと一緒にいる為にバリバリ楽しそうに働いています


 普通あれだけすれば男はゲッソリすると思うのですが

 逆にツヤツヤしてます。異世界マジックでしょうか?



 恐ろしい



 小一時間ほど過ぎてから殿下が足取り軽く執務室へ向かったのが見えた


 それから二時間ほど過ぎてから、ヨロヨロとミリアが戻ってきました

 うん。顔がまだ上気してほんのり赤く染まっています


 同性ながら色っぽいと思います


 ふとイタズラ心が芽生えて背中をすうっとなぞると良い声で鳴きました

 腰くだけしてます。感じやすいんですね


 わぉ、ぞくぞくします。


「本気で……やめて……」 


 息も絶え絶えなので冗談はこれくらいにしときましょう




 ミリア、頑張れ頑張れ……ふふっ


 







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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン上から目線でムカつくわ。 王子も屑なら家族も屑。
[一言] ヒロイン、いい子なのに…合掌(^◇^;)
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