はじまり
「外が落ち着くまでしばらくかかる」
プルートにそう告伝えた。
「そうか、そうか。此度は本当に助かった」
まあそうなのだろう。勇者に追い詰められていたようだったし、あのまま行けば間違いなく殺されていたに違いない。
「外の様子を見ることはできるか?」
「それくらい造作もないよ」
そう言うと、プルートはなにかブツブツ唱え、壁を凝視した。
「外にはもう勇者はおらんようじゃ」
「そりゃ核で消し飛ばしたんだ、何も残る筈がない」
そう、あんな至近距離で核爆発が起これば、いかに低威力といえども、跡形もなく存在が消える。
「いや、それはありえんよ」
「なに?」
「さっきの爆発、純粋な物理攻撃じゃったろう?」
「ああ」
まあ、当然だ。
「なら対物理障壁を幾重にも展開すれば、あれくらいの爆発なら耐えられるじゃろう」
「冗談はよしてくれ、いくら1tとはいえ、核爆発だぞ?」
「1tというものがどれほどかはわからんが、あれくらいでは倒せん。てっきり我輩は最大級の爆発を起こすものと思っていたがのう」
最大級、といえば100Mt級なのだが、そんなもの、戦略都市爆撃くらいにしか使わない。
「と、いうことは勇者は逃げた、と」
「そういうことじゃな」
しくったな。
これなら反物質で消し飛ばした方がよかったか。
あれ作るの面倒なんだよなあ
「で、これからお主はどうするのじゃ?」
そうだなあ。もう帝国はこの世界にはない。よって目の前の幼女も殺す理由がないのだ。勇者はまあ、その時にはよるが。なにはともあれ、することはない。
「特にやることもない」
現状の答えはこれしかないだろう。
「なら我輩と旅でもせんか?」
いきなり何を言い出すんだこの幼女。
「俺にそのメリットがない」
ついていったところで面倒ごとに巻き込まれるだろうことも容易に想像できる。なんせ、目の前の幼女は魔王なのだから。
「利点ならある」
「はう、なんだ?」
「お主に魔法を教えよう。それに、言語はどうするのじゃ?お主の言葉は全てこちらの世界では通じんよ」
「なるほど、通訳と魔法を提供すると」
まあ、いい条件ではあるか。通訳はおそらく今の言い方からプルート以外にはできないと思われる。なぜ、というのは後で聞くことにしよう。
それから魔法、この世界で生き残るのには間違いなく必須だろう。敵が使ってくるのに対抗手段がない、などというのは最悪だ。
「そうじゃ、で、どうする?」
「魔法は貴様はどれくらいできる?」
「おおよそ我輩の知りうるすべての魔法は」
「それでは曖昧だ」
「なら、言い換えようかのう。現在公開されている魔法、我輩の種族、ダークエルフに伝わる召喚術、呪術、その他秘術、配下の者たちの持っていた魔法すべて、じゃ」
これは多いのか少ないのかわからんが、まあ対抗手段に困ることはなさそうか。
「それらを対抗手段含め俺に教えることは?」
「使えるかは別として教えるのは可能じゃよ」
ならば問題はない。
「最後に、お前の配下はどうするつもりだ?まだ残っているだろう?」
「皆死んだよ」
「で、仲間集めに旅するのか?」
「そうではない。もともと我輩は奴隷開放をさせるために戦っていたのだが、もうこの状況では諦めるしかないじゃろう。もう一度やったところで同じ結果になる。ならばもう放浪の旅にでも出ようかと、そういうことじゃ」
そうか。
「なら、旅をするとしよう」
「ようやく決めたようじゃな」
「いや、しつこく聞いたのは謝る。情報や詳細がないと決められないことも多くてな。自分の悪い癖だとわかっているんだがなあ」
「上に立つものなら、それくらいの慎重さがちょうどいいよ」
「そう言ってくれるとありがたい」
まあ、なにはともあれ、旅をするとしよう。