1 第一村人発見
「うおーーーーーーーーぉぉぉっ!」
雄叫びを上げながら住み慣れた我が家であるところの火山を駆け下りる。なんせ久しぶりの外の景色だ。更に言えばコンクリートの影も形もない大自然。そして有り余る活力、生まれ変わった若い体!
これでテンションが上がらない方がおかしいぜ!
雪の日の犬も斯くやと言うくらいはしゃぎまわる。したらばその辺の小動物が逃げる逃げる。それが面白くって更に駆ける駆ける。
あひゃーっひゃひゃひゃひゃひゃ、たーんのすぃーーーーーー!
勢い余って岩に躓き転げ落ちるも、それすら愉快でたまらない。スピードに乗った体はスキージャンプの踏切台みたいに反った岩に乗り上げ、空中へと跳ね上がる。錐もみする体勢を立て直し羽を広げれば、自動車なんて目じゃない速度で滑空できた。山の麓には森が広がっていて、このままでは突っ込んでしまうのだが、構うものか。
「いーやっほぅー! ドラゴン号、突撃します!
よーし許可する! なぎ払え!
サー! イエス! サー!」(一人言)
枝葉に体をぶつけながら直進。流石ドラゴンだ、鱗に覆われた体は傷一つつかない。痛いけどな!
運良く幹には当たらず直進。すると、なんということでしょう! 人がいるではありませんか!
人だ! 人だ! 人恋しさに耐えかねたこの身には何より嬉しい発見だった!
近くの木に爪を立て、角度を変えてその人の近くに降り立つ。スマートに着地したかったが叶わず、無様に転がりながらとなったが。
目の前に立つのは年若くかわいい女の子! 俺のテンションもうなぎ登りのストップ高! 本日最高潮であります!
「こんにちは!」
喜色満面で挨拶。ぼく悪いドラゴンじゃないよ。生まれたばっかの子供だよ、とかわいさアピール!
――するも、女の子は悲鳴を上げて逃げてしまいましたとさ。
なんでや。
明確な拒絶を受けて、アゲアゲだった気持ちが乱降下。すごいや、一瞬で冷静になれた。冷や水を浴びせられるってこういう時に使う言葉なんだね。実体験で学んじまったわ、ふへへ。
あー、なんか体痛い。節々も痛い。足に力が入んない。
なにやってんだ俺……。
急激な後悔に襲われ、深い絶望を感じた。先ほどまでの浮かれた自分を殴り殺してやりたい。
そりゃあそうだよ。ドラゴンって、モンスターだもんね。普通、逃げるよね。しかも空から猛スピードで迫ってきて、絶賛大興奮中だったんだから、恐ろしいよね。
ああ、なんて馬鹿な俺。神様、もしも叶うなら時間を巻き戻してください。先ほどの黒歴史をなかったことにしてください。むしろ転生したとこからなかったことに。もしくは今すぐ殺してくれぇっ!
後悔を胸に足取りも重く、トボトボといかにもな効果音が聞こえそうなくらい気落ちしながら歩く。
――ここ、どこだろう……。
森の中だし、見通し悪いし、なんか暗いし。元々どこへ行こうと決めていたわけでもないけれど、帰る道すら失ってしまった……。
涙目になりながらあてどなくうろつく。空飛ぶ気力もありゃしねぇ。
彷徨うこと数分。偶然にも、先ほど逃げられた女の子を見かけた。一本の木の根元に座り込んでいる。走って転けて足にケガでもしたのだろうか、鉄錆びた血の臭いがする。
俺のせいかな? と、僅かに罪悪感。
ここで出て行ったらまた怯えさせてしまうだろうなぁ、と考える反面、森の中で女の子一人は危ないんじゃなかろうかと危惧する。
「あの~」
脅かさないように、静かな声で、遠目の距離から声を掛け、ゆっくり近寄る。
「さっきはごめんなさい。人と会うの久しぶりで、つい興奮してしまって。その、大丈夫ですか?」
女の子の表情は怯えていた。首を嫌々と振りながら、腰を下ろしたまま後ずさっていく。
やっぱ怖いのかぁ。子供とはいえドラゴンだ。大きさは犬猫の比ではない。更に厳つい鱗、は虫類のギョロリとした眼、尖った牙に鋭い爪。逆の立場ならどうだろうか。うん、怖い。大の大人でも十分怖い。武器も持たずに近寄りたくはないね。
「見た目はこんなんですけど、決して貴方に危害を加えるつもりはないのです。ただ、こんな森の中に女の子一人じゃ危ないんじゃなかろうかと思ってですね。いや、余計なお世話だってのは重々承知の上なんですけど……」
近寄るのをやめ、なるべく優しい声音を心がけて話しかける。それでも女の子は怯えた様子で、近くに落ちていた木の枝をこちらに突き出しながら言った。
「**、****!」
――――あ、これ言葉分かんないパターンだ……。