21 フルと二人で
寝室にフルと二人でくつろいでいた。
こんな日はいつぶりだろう――と思い返して、初めてだと気付く。村に居たときは室外ドラゴンだったからな。
フルは正式に女神の聖女となってからやたらと良い部屋に移っていた。本人は修行中だからと辞していたのだが、妊婦ということもあってマイナばあさんが強要してくれた。
戦争が始まる。
このゆったりした時間とは裏腹に。予定調和の大戦争が始まってしまう。
「あー、うまくいかねー。誰も彼もが勝手なことをする」
「そりゃそうよ。みんなそれぞれ考えて生きてるんだもの」
「あー、そうね。三者三様、十人十色、百人百様、千差万別だね」
「相変わらず変わった言葉知ってるのねえ」
おや、通じないか。俺も大分こっちの世界になれてきたと思ってたんだがね。こういう言い回しが通じるのは黒ドラゴンだけか。
「コートはさ。何がしたいの? 折角神様になったんだから何か凄いことが出来そうなものだけど」
「うーん。そうは言っても俺もまだまだ子供だから。焦って何かして失敗しましたってのも嫌だしさあ」
「そういえばまだ生まれたばっかりだったわね。なんだか子供の時からずっと一緒にいる気がするわ。不思議ね」
「そう? 俺が村に居着いてからこっち、色々あったからかもね」
「そうかもね。退屈な田舎暮らしが、今じゃ王都の神殿で巫女をしながら子供まで授かっちゃって。本当に色々あったものね」
うう、子供の話題が出ると心中複雑です。母を奪われる一人っ子の気持ちだろうか。モヤッとする。相手があの鈍重勇者なのも相まってモヤモヤッとする。
「やりたいこと……やりたいことねえ…………」
「何か思いついた?」
「今はフルの幸せ優先かなぁ」
「なぁにそれ。わたしの幸せより、自分の幸せはどうなの?」
「俺はどこに行っても何やってても幸せだと思うなぁ」
性格的にね。思い悩むタイプじゃないし。マイペースって言うかさ。
ああ、あと、フルが居れば幸せ。恥ずかちぃから言わないけれど。
「わたしだってそうよ。どこで何やってても幸せなんだと思う。元々田舎娘ですもの。小市民っていうか、小さな幸せ探しが得意なのね」
「いいねいいね。大切なことだよ」
「誰だってそうなんだと思うわ。勝手なこと考えて、勝手に動いて、勝手に幸せになっていくのね。だからわたし、聖女だ巫女だって呼ばれてもあんまり他の人の幸せは考えてないの。自分に出来ることを精一杯やっていれば、他の人たちは勝手に幸せになっていくって思っているから」
んー、真理だ。
そうだよね。飢えず、凍えず、着る物があればあとは勝手に幸せになるんだ。みんな生きてるんだから。
「コートも、もっと好きにやって良いと思うわ。わたしだけにこだわらずに」
「んー? ふふふ、そうだね。そういう日も来るんだろうね」
俺はもっと好き勝手にやって良いんだ。自由に生きて良いんだ。
フルは人間だから、俺よりずっと寿命が短い。でもフルが亡くなったって俺はきっと生きていくし、なんだかんだで面白可笑しくやっていくし、幸せにもなるんだろう。
自由で良いんだ。好き勝手にやっちゃっていいんだ。
そうだよ、あいつらが自分勝手に動くんだから、俺だってゴーイングマイウェイでいいじゃないか。
「うん! そうだね。もっと自由に!
よし! よし! なんだかやる気が戻ってきたぞ!」
「元気出てきた?」
「はいともさ! 今ならなんだか全部上手くいく気がする!」
「良かったわ」
フルは嬉しそうに微笑んで自分の膨らんできたお腹を撫でた。
おお、母性を感じる。フルの中に母親の意識が創られている。
「この子にも、そうやって自由で幸せな生き方をして欲しいわ」
「大丈夫だよ。聖女の子で、勇者の子で、神様の加護もたっぷりだ。誰も止められないさ。やんちゃに育ちすぎないように躾をよろしく」
「んー。躾かぁ。うまくできるかしら」
子育てにはちょっと自信なさげなフル。俺も自信ない。でもマイナばあさん居るから大丈夫じゃなかろうか。念のため親父さんとお母様も呼び寄せるべきかね。
「女の子だったら少しはやりやすいかもね。気持ちも分かりやすいだろうし」
子供を産むなら一姫二太郎って言うしね。男の子も欲しいが、最初は女の子の方が良い。あとから生まれてくる弟妹の子育てを手伝ってくれるから。諸説あるし、子供の居ない自分には知れないところだけどもさ。
「男の子だよ」
俺は知っている。全知全能で調べた訳じゃあないぞ。
「男の子なの?」
「うん、そう」
「そう。コートが言うならそうなんでしょうね。だって、神様なんだから」
そんな偉い者じゃあないですけどね。
でも男の子じゃないと俺のハーレム要員にならない。先代のクソ女神が用意した俺へのご褒美に、まだ生まれてもいない弟分枠が居た。その子がフルの子だ。
先代も随分と好き勝手にやってくれたものだ。因果をねじ曲げてまで何してくれとんじゃい。
それを考えると、うむ、おれは上手くやろうと意識しすぎて気張りすぎていたのかもしれないなぁ。
もっと適当で、自然体で、自由に、気の向くように。
「フル」
「なぁに?」
「おれ、頑張るよ」
フルの幸せのために。
「程々にね」
「うん。程々に。無理しないくらいで頑張る」
とてものんびりとした、夢のようなひとときだった。
やがてまどろみに落ち、一日が終わる。




