6 ドラゴン転生
どれほどの時間が過ぎたのだろう。
羽ばたき続けるも、未だ翔べない。
けれど翼膜で空気を掴む感覚が分かってきた。愚直に繰り返した反復練習は無駄ではなかった。
そしてついにその時は来た。少しだけ、ほんの少しだけだが、体が浮かび上がった。
直後に溶岩の海へ背中から落ちるも、確かな手応えに喜びを感じる。
希望が見えてきた。
再び壁に張り付いて、翼を羽ばたかせる。浮く。落ちる。そのワンセットをただひたすらに繰り返し、「浮く」が「浮き上がる」に変わった。何度も何度も挑戦を続けるうちに浮き上がる限界は高くなり、あんなに高かった空が近づいてくる。
やがて火口の縁は間近に迫り、確かな手応えを感じた。あと少し、ほんの少しの距離。落ちてなるものかと必死に藻掻き、爪を掛けることができた。そこから体を手繰り寄せしがみつく。
転がるように外へ出て、仰向けに倒れた。無様な醜態を晒したが、構うものか。見る者もいないのだから。
結局、何日かかってしまったのだろう。それでも上手に翔べたとはお世辞にも言えないのが滑稽だ。
だが、目的は果たされた。
山頂の冷たい風が心地よい。視界を遮る壁がなく、遙か彼方も見通せる。
いつの間にか泣いていたらしい。感動なのか、喜びなのか、判然としない。ただ無心でいたような気がする。そして目下が濡れていることに気付き、ようやく達成感というやつが沸いてきた。
俺はやったぞ! やった! やってやったぞ、くそったれ!
火山にドラゴンの咆吼が響く。俺の叫びだ。命の叫びだ。
今日、この世界に生まれた。そのことを告げるために、産声を上げた。