表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
三章 成体期
68/79

13 デスマッチ

 突撃してくる黒ドラゴンは巨大化して成竜形態となった。

 ならばと対抗してこちらも巨大化する。


 鳩尾に頭突きが直撃して息が詰まるも、耐えられない攻撃ではない。踏ん張り受けとめることに成功した。そのまま地面に押し伏せ組み敷いてやろうとしたのだが、不意に押さえていた感触がなくなりバランスを崩した。

 よろめいた俺の後頭部に衝撃が走る。力を逃がすために前転しつつ前方へと待避。そしてでんぐり返しの途中確認した俺の後方では、尻尾を振り回し攻撃をしたのであろう黒ドラゴンの姿。奴は超短距離転移により、拘束される前に俺の後方へ逃れ、更に一撃を繰り出してきたのだ。


 ええい、小癪な真似を。


 体勢を立て直したところ、黒ドラゴンは既に次の攻撃の構え、ブレスの予備動作に移っていた。

 スキル『全知全能』を発動。

 こちらもブレスで対抗してやる! ふはははは、力技の勝負なら負けはない! 戦闘中でアドレナリンもドパドパ出ているから口の中の渋さも気にならない――――と思ったら十分渋いし糞不味い。おげぇ。

 黒ドラゴンがファイアブレスを吐き出すのに数瞬後れ、アイスブレスを繰り出す。斜線上でぶつかり合い、ものすごい蒸気が噴き出す。視界が遮られ下策を取ってしまったと反省するも、構わず力押しを続ける。と、同時に魔力を拡散し周囲に風を吹かせて視界をクリアにする。


 不意に、バランスを崩した。動いていないのに片足を踏み外した感触。土魔法により足下の地面を崩され、ドラゴンの巨体が傾き落ちる。体勢を崩した俺のブレスはあらぬ方向へ。そして黒ドラゴンのブレスはこちらへ直撃コースである。

 慌ててバリアを展開! しかし俺を守るべき防壁は形成されることなく魔力だけが散っていく。

 抵抗レジストされたのか、はたまた魔力使用阻害か、解除魔法(ディスペル)による無効化か。混乱する前に回避を試みればよいものを、下手に考えを巡らせてしまったせいで次の行動に移るのが後れ――ブレス直撃。ファイアブレスのくせに熱攻撃だけでなく質量攻撃も兼ねており、当たった衝撃で吹き飛ばされる。


 ――熱い。痛い。何故だ。押し負けている。どういうことですか。

 俺も獣神も生後一年未満。しかしエルフ美女にちやほやされて生きてきたこいつと違い、俺には旅と戦いを経験してきた積み重ねがある。能力の差でも戦闘経験の差でも俺の方が勝っているはずだった。

 何故だ。何故勝てないのだ。教えて『全知全能』!


 問い:何故俺は後手に回っているのか。

 答え:獣神が先代より受け継いだ戦闘技術を駆使しているため。

    勝利するためには『全知』による戦闘サポートが必要。


 うん、おう、さらっと『自分に任せろ』アピールしてきたな。そこまで聞いてねえよ。スキルのくせに自己顕示欲の強い奴だ。チミ、今の状況に乗じて俺の精神を乗っ取る気だろう。そうはいかんぞ。


 だがしかし、これが先代から力を引き継いだエリートと引継ぎ無しの新米野郎との差なのか。ぐぬぬぬぬ。

 小手先の技で対抗しても勝てないことは分かった。ならば泥仕合に持ち込んで力でねじ伏せてやろう。


 俺の周囲に冷気が走り、分厚い氷に包まれる。その向こうでは黒ドラゴンが魔力を高め次の攻撃に備えていた。渦巻く魔力に既知感を覚える。あれは闘技場で馬野郎相手に放たれた黒い雷撃か。

 ふん、あの頃の俺では翼を穿たれたが、『全知全能』を手に入れた今ではさほど脅威にも感じない。『全能』による肉体強化、魔法抵抗増強、治癒能力向上は展開済みだ。

 体を覆う氷を力尽くでかち割り、悠々と歩を進める。雷を放たれようとも防御はしない。己が身一つで受けとめ、堪えきり、なおも歩みは止めない。

 思った以上に痛かったが、涙目になるのも堪えて悠然とした態度を取り続ける。


 これは演出である。

 何をやっても無駄だと思わせる。

 効いていないのかと疑念を抱かせる。

 打つ手はないのだと惑わせる。

 そうして俺相手には勝てないのだと諦めさせる。


 ゆっくりと歩みを進める俺に対し黒ドラゴンの猛攻が続く。火炎攻撃、水流攻撃、嵐を巻き起こし、大岩をぶつけてくる。やがて攻撃手段は俺を傷付けるものから足止めをするものへとシフトしていくが、「ん? 今何かしたかね?」と言わんばかりの余裕の(てい)で進んでいく。

 無駄だ。全てが無駄な攻撃だ。

 僅かな傷や痛みなどあっという間に癒えて無くなる。足下を崩そうが壁を作ろうが空間を曲げようが『全知全能』によるレジストで瞬く間に元に戻る。転移で逃げようとしても『全知』で転移先を特定し『全能』で移動を阻害する。

 無駄なのだよ! いい加減に悟るが良い!

 ね? だからもう辞めよ? チクチクチクチク鬱陶しいし、痛いっちゃ痛いし、抵抗する度に口の中渋いし、おげぇ。


 くそう、歩く速度が遅すぎた。大物振って牛の歩みで進んだことが間違いだ。でも今更早歩きとか小走りしだしたらみっともない。小者感丸出しである。止まらぬ猛攻に効果有りと認めてしまうことになる。

 あー、でもこれ本当に効果あるのかな。ちゃんと相手を威圧出来てる? 気にした様子もなくポンポン魔法を放ってくるし。ひょっとしてこれ無駄なん違いますか。あいつ諦め悪すぎる。突っ込んで一撃噛ました方が早くないか。もうやだ、しんどい、諦めちゃおっかな。


 うだうだ悩んでいる間に黒ドラゴンが肉弾戦の射程圏内に入った。痛みに耐えてよく頑張った俺。

 この鬱憤を晴らすように敵の顔面へドラゴンパンチ! 手応え有り!

 しかし傾くも倒れず持ち直した黒ドラゴンから反撃の一撃を左頬にもらう。へへ、なかなかいい(もん)持ってるじゃねえか、この坊ちゃん育ちが。


 そして始まるデスマッチ。互いに一歩も退かぬ殴り合い。一発殴って一発殴り返すという図式が自然に出来上がり、倒れた方が負けという暗黙のルールが成立する。

 俺が望んだ泥仕合。想定通りだ。

 しかし、こちらは『全能』によりパワーアップしているというのに、黒ドラゴンとの殴り合いは互角の勝負。相手が『万能』で強化していることを差し引いても、上位互換の俺とここまで渡り合えることは賞賛に値するだろう。


 しかし想定外のことが一つあった。

 俺氏、泥仕合に耐えられるほど根性が無い。

 痛い。息苦しい。辛い。しんどい。もう辞めたい。マジ勘弁です。脳みそ揺らされ疲労困憊、倒れそう。


 神の力『全知全能』を手に入れた今、敵などいないと考えていたのに。甘かった。やはり人生はそんなに甘くない。ドラゴンだけど。

 そんな根性無しの俺だが、しかし負けず嫌いでもあるのだ。ここで負けたら男じゃない! メスだけど。


 フルの顔を思い出す。俺はフルのために頑張っている。フルのためなら頑張れる。

 頑張れるんだ!

 うおおおお! 負けるな俺ぇっ!


 渾身の力を振り絞り大振り右フックを繰り出す。体重の乗った最高の一撃だ。そしてそれを奴はかわすまい。心情的には「避けたら負け」なのだ。狙い通り、黒ドラゴンは正面から俺の攻撃を受けた。

 そして、狙いから外れて耐えきった。全力の一撃を耐えきられてしまった。

 黒ドラゴンの反撃。本音を言えばかわしてしまいたい。しかし避けるほどの体力が残っていない。全力を使い尽くしてふらふらの俺に、アゴを打ち抜くアッパーカットの一撃が決まった――――いや、奴の体力も限界だったのだ。拳は打ち抜かれず、ぺちりと軽い拳に打たれただけであった。

 疲労困憊の俺達は揃って仰向けに倒れ落ちた。巨大化も解けて息も絶え絶え。


「…………ふっ、やるじゃないか」

 黒ドラゴンは満足したように呟いた。空を仰ぎ、しかし目は閉じたまま、大の字になって寝転がっている。

 よくぞ『全知全能』であるこの俺ドラゴンにここまで対抗出来たものだよ。素直に褒めてやろうともさ。

「なあ、どうだい。俺達二人が組めばなんだって出来る。そうだろう?」

 だが甘い。実に詰めが甘い。

 俺は『全知全能』により完全回復。むくりと起き上がり更に巨大化。

「一緒に作り上げようじゃないか。平和で、平等な――――ぶへっ」

 踏みつけ、とどめを刺す。

 足をどけると舌を出してノビたは虫類が一匹。

 うむ、死なないか。流石は自称神。


 ――――勝った。

 俺は作られた異界の荒野で一人立ち、夕日を見た。虚しい勝利だ。

 戦いはなんて虚しいものなのだろう。しみじみ。


 ま、それはそれとしてこれから楽しい勝者側の権利行使だ!

旧年中は拙作をご贔屓にして頂きありがとうございます。

今年もこんな感じで頑張ります。


感想欄が「酷い話だw」で埋まるように頑張る所存。


追伸。予約投稿にするの忘れてた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ