6 神の晩餐
私が転移した先はセントス国の城内にある客室。
そこにはスーシャ姫とお付きの騎士、そしてバルシェンが歓談の時を過ごしていた。
「ただいま戻りました」
「お……おお…………」
私の姿を見に止めたスーシャ姫がイスから立ち上がり、跪いて礼をした。騎士とバルシェンもそれに続き跪礼を行う
まず口を開いたのはスーシャ姫。
「お帰りなさいませ、新たなる女神コート様」
その態度は以前のように私を軽んじるようなものではなく、敬意から来るものであった。
「出迎えご苦労様です。よくぞ私の帰りに集ってくれました」
「この身に女神様の加護の力を感じた折り、お帰りになる時は近いと確信しておりました。女神様をお迎えするに相応しい準備も適わず恐悦至極にございます」
私が加護を与えてから転移してくるまで僅かな時間しかありませんでした。その間にこうして三人集まってくれただけでも十分というものです。
「どうぞ構えず、楽になさって下さい。そして私の言葉を聞くのです」
「ははぁっ!」
次いでバルシェンが感心したように声を出す。
「しかし、見違えたのう、チビや。いや、もうチビなどとは呼べんか」
「好きに呼んでもらって結構ですよ。
それに、貴方は正しかった。私こそが女神クシュレッダの正当な後継。貴方の言葉を信じて神の意識に目覚めていればこれほど遠回りをすることもなかったでしょう」
「…………本当に、お変わりになった。不敬ながら、見違えてございます。
女神コート様、どうぞ我ら人類をお導きくださいませ」
最後に姫付きの騎士。彼のことは今まで騎士Aと呼んできましたが、『全知全能』が発動している今ならその名も経歴も全て把握出来ています。
彼もまた、トラスタと同じ勇者の末裔。当代の勇者候補の一人だったのですね、アルスター=ヴィル=アインス。
「コート様、女神としてのご帰還を大変喜ばしく思います」
「ありがとう、アルスター」
「ささやかではありますが、先代の女神様も好まれたというお食事をご用意致しました。よろしければご賞味下さい」
そしてアルスターは腰に下げていた巾着を外し、恭しく私へと差し出した。
折角のご厚意です。頂くことにしましょう。
先代女神が好んだものと言えば――――言えば――――
「イーレクスの聖木より自然落下したものを受けとめ、聖女により聖別された、ドングリでございます。
……? コート様――――コート様?」
ドングリ。ド、ド、ド、ドン……グリ…………ぐふぅ、こ、ここにきて、何故、ドラゴンであるこの俺に――いえ、私は、女神の愛した樫の木の木の実を――うぼぁぁぁぁぁっ!
「そ……そろいも揃って…………」
眼前の連中がおたついているが知ったこっちゃあない。
俺の、こ、この俺ドラゴンの怒りが分かるか! 神となってもなお渋みのある木の実食わされる肉食獣の気持ちが!
「貴様ら、いつも毎回決まって馬鹿みたいにドングリ出しやがってこのバカチンがぁぁぁぁっ! この俺がドングリ囓って我慢出来るような優しい面してるかオラァ! 肉食わせろや肉肉肉ぅぅぅっ!」
スキル『全知全能』が心の中で暴れているが無視だ。すっこんでろ。俺は今この分からず屋達に大事な話をしているのだ。衣食住で最も大事な食事をコケにされて黙っていられるか!
俺は! 肉を! 食べるぞぉぉぉぉぉっ!!
――――あ、『全知全能』の精神支配が解けてる。
「ぜー、はー。あ、あぶねえ。危うく慈愛に満ちた神になるところだった。
おっす、じいさん、ただいま」
「なんじゃ、元に戻ってしもうたのか。まあ、そっちの方がお前さんらしいがのう」
ちょっとがっかりしてるんじゃないよ。自分らしさって大事なんだぞ。
そしてその横で愕然としている姫殿下よ、なんだね、なにか文句でもあるのかね。
「あの……えっと……え~…………。め、女神様?」
「ぶはーっははは! 神降臨とでも思った? 残念! コートちゃんでしたーーーー! イエァーッハハハ!!」
べろべろばー! 誰が神さまなんて面倒なことやりますかってんだ! 俺はドラゴンのまま「気まま」「わがまま」「あるがまま」に生きるのだーっ!
さようなら神の意識! 貴様の『全知全能』はこの俺ドラゴンが便利道具として有効に使ってやろう。ふははははは!
おや、騎士Aも巾着持ったまま固まっちゃって、まぁ。
「こ……これは……もしや…………お、俺のせいで、女神様の神性が失われてしまった…………?」
おぅ、バッカ、そんなわきゃねえって。むしろお手柄。お前が俺の自我を取り戻してくれたのさ。気にすんな。だからその巾着捨てろ。ドングリなんて見たくもないわ!
俺を騎士Aの肩に手を置き、慰めの言葉をかけることにした。
「よくぞやってくれた。貴様のおかげで俺は復活を果たしたぞぉっ!
ふふふふふ。ふぁーっはっはっは-!」
「その言い方、まるで悪人の台詞じゃないですか!
はぁ……まったくもう、このなんちゃってドラゴンときたら…………。
お父様からも何か言ってやって下さいませ!」
呆れるように溜息を吐く姫殿下の目線の先には――――おお、なんということでしょう、モブ顔の国王が。
「居たのぉ!?」
ヘタなドッキリよりビックリしました。
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多分明日も更新します。




