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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
三章 成体期
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4 腐った歴史

 竜王様より譲り受けた『全知全能』はスキルである。

 使わなければスキルは発動しない。

 しかしそこは神の力と言うべきか、無理矢理に発動し俺の心を浸食しにかかっている。


 その中で『全知』について。

 全てを知ると銘打っているものの、発動した瞬間から全知を得るものではない。知りたいことに答えが得られる能力だ。そう、例えるならば辞書。またはウィキペディア。それかグーグル。


 能力(ちから)に飲まれまいと抗う俺に、『全知』は遠慮無く持てる知識を開示してくる。それは、『全知全能』を譲り受ける直前に考えていた疑問への答え。


 この世界の成り立ちについてである。


 ◆


 世界は広い。世界はこの大陸だけには収まらない。

 この大陸には元々人間と各種獣人と動植物が共存していた。

 共存と言っても原始的なものである。農耕民族と狩猟民族がいて、動物を狩ったり飼ったり、たまに襲われたり。


 そこへある時、別の大陸から流れ着いた人間達がいた。

 戦に負け、国を追われて逃げてきた者達である。命からがらではあったものの、幸運にも遠く離れたこの地へと辿り着くことが出来た。

 一方で不運だったのは元々この大陸に住んでいた者達である。彼らは漂流者達から『原住民』と蔑まれ、襲われ、土地を追われた。

 原住民達の文明レベルは低く、漂流者達のそれは高かった。特にその差を如実にしたのが鉄製武具の存在である。原住民達が狩猟に用いていた狩りの道具など、鉄製武具に比べればあまりに柔く、脆かった。


 漂流者達は少数であった。けれども、争いに慣れない原住民達は為す術もなく蹂躙され、北へ北へと追い込まれていく。


 ◆


 一方的な虐殺劇。その状況に業を煮やした者がいた。

 当時の大陸に転生し、ドラゴンとして生まれ変わった男である。

 彼の名はガリコイツ。ちょいとジャパンカルチャーに被れた陽気なオタク気味スペイン人であった。なぜだか異世界に転生し、しかもドラゴンで、メスになっちゃってたりもしたが、ケモナーの気があった彼はこの獣人達の暮らす大陸をいたく気に入っていた。

 彼は彼の楽園を汚す漂流者達にご立腹であった。

 当初こそ「弱肉強食」は世界の法則と、傍観を貫いていた。が、あまりのワンサイドゲームに遂に見ていられなくなったのだ。


 それは決して正義感からくるものだけではなかった。

 しかし彼の愛は本物であった。


 彼は、当時から既に超常の存在として世界に君臨していた竜王タナカの教えを請い、獣人達に二つの贈り物を与えた。

 一つは加護。彼のケモナー愛とドラゴンの能力を以てすれば容易く与えられた。

 一つは魔法。獣人達は原始的な生活をしていたため世界の(ことわり)を理解出来ず、教えるのに難儀した。だが、加護により魔力を分け与え、呪文により定められた理を発現させる体系を作り上げることで、獣人達は理解出来ぬ魔法を使うことが出来るようになった(故に現在の魔族が使う呪文はスペイン語で構築されている)。


 こうした成果により、ドラゴンは崇め奉られ、信仰が生まれ、図らずとも『神』と呼ばれる存在が誕生した。

 世界を創造した神からは格段に劣る位階であったが、彼は『獣神』と呼ばれる存在になったのである。


 鉄製武具に対抗しうる二つの力、加護と魔法を手に入れた原住民達は、それまで猛威を振るっていた漂流者達を押し返した。


 ◆


 それから幾百年と経ち、原住民と漂流者達は大陸の中で棲み分けを行い、静かに暮らしていた。互いに交流は持つものの、過度な干渉を良しとしない関係。

 故に彼らは混ざり合わず、同じ大陸の中ではっきりと二分された。

 漂流者達は自らを人類と呼んだ。そして、原住民と呼び蔑んだ彼らのことは、魔法を使う部族、魔族と称した。


 時を経ても一つになりきれない人々の姿を見て、獣神は焦りを覚えた。

 獣神は信仰を得て神へと転じた身である。生まれついての神に比べて神性は低く、加護を行使し続けたことにより彼の存在は摩耗していた。ケモナー愛は無限であるが、その肉体と精神は有限であったのだ。

 ならば、と獣神は考えた。次代の獣神を産み育て、自らの世継ぎとすることを。

 幸い生まれかわった身体はメスであり、神の力を用いればオスの子種が無くとも子を成せるだろうと確信していた。


 だが彼は知らなかったのだ。ドラゴンの生態について。

 転生を経て自然発生したドラゴンは全てメスとして産まれる。そしていくつかのは虫類や両生類のように、元々単為生殖を行い子を成すことが出来る。その際、産まれてくる子供は全てオスとなる。

 そうして産まれたオスと(つがい)になることで、ドラゴンは繁殖することが可能となるのだ。


 斯くして、産まれた子供はオスであり、獣神よりも遥かに優れた神性を備えていた。

 愛情を一心に受けてスクスク育った次代の獣神。

 成人した子供は、早速本能に従い獣欲を満たすことにした。


 獣神ガリコイツは「マジかよ」って思った。

 音声で表すと「アッーーーーー!!」である。

 何せ経産婦ではあるが心は男だったのだ。

 そして己よりも強くたくましく神として優れた息子に為す術を持たなかった。


 正に悲劇。


 そうして産まれたのが初代女神となるドラゴンである。

 因みにこの長女、その後も続けられた情事を目撃したためか、『ホモ』と『やおい穴』に目覚めた。見た目はオス×メスのはずなのだが、彼女にとって大切なのは精神性だったのだろうか。日本からの転生者でもないくせに深読みして、性根がしっかり腐ってしまったのだ。


 そんなこんなで性欲旺盛な獣神と腐女子な女神は降臨した。

 そして初代獣神の没後、二柱は新たな(つがい)となり人々を導くこととなるのである。


 はっきり言って、世も末であるぞなもし。

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