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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
三章 成体期
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2 竜王のタナカちゃん

 島の周りをぐるっと飛び回り確かめてみたが、パッと見でドラゴンが住めるような大きな洞窟なども見当たらない。巣穴を隠しているのだろうか?

 ひょっとしたら別の島なのか? でも人類領域と魔族領域の境界線の延長上ってなるとこの位置なんだけど……。


「タナカさーん。こんにちわー。いらっしゃいませんかー?」


 返事はない。ただの無人島のようだ。

 どうしよう。手がかり無くなった。本格的に困ったぞ。


 ただ、ここまで来て手ぶらで帰るのも癪なので、旗でも立てて占有してやろうかと企む。どうせどこの国にも所属していない土地だろうし、俺の別荘にしてしまっても構わないだろう。

 よし、今日からここを「ドラゴンランド」と名付けよう。

 そうと決まれば、雨風をしのぐための居住空間が欲しい。元のサイズに戻り、山の中腹に降り立って手頃な場所を探す。幸い、穴掘りは得意だ。ちょっとした横穴ぐらいサクッと掘っちゃうぜ。

 爪を立て、土を掘り返す。しかしすぐに硬い岩肌にぶつかり、掘り進める事が出来ない。岩ぐらいこの俺ドラゴンにかかればなんということもない! と力を入れるもビクともしないでやんの。なにこれ、すごく固い。


 その時無人島に地揺れが起こった。おお、大きいぞ! その影響で海も荒れている!

 こいつは堪らん。思わず空に飛び上がり島の様子を窺う。

 そして「おや?」と異変に気付く。海水が持ち上がっているのだ。

 …………いや、違うな。なんだあれ? タコの触手みたいな――――いや、尻尾か? 海から巨大な尻尾が生えてきた! 尻尾はしなりを作り、風を切って振るわれ、俺が掘っていた辺りの山の斜面を打ち付けた。


「ぎょえええええええええ!」


 あまりの出来事に叫び声を上げると、今度は尻尾と逆側の海面が盛り上がる。

 そうして姿を見せたのは、首の長い巨大な竜の頭であった。


 でかっ! 想像してたサイズをはるかに超える超弩級の頭部だ。

 寝起きのようで、のんきに欠伸なんぞをしている。えっと、こ、こちらの方が音に聞こえる竜王様でしょうか? お、大きいですね。っていうか、これ、無人島じゃなくて竜王タナカの胴体部分なのか! 先ほど岩壁と感じたのは巨大な鱗の一枚で…………あー、通りで歯が立たないわけだ。


 怒らせたら死ぬ。確実である。

 こんなどでかいドラゴンに0歳児の俺が適うわけがない。魔力解放して巨大化したところで、向こうさんからしたら少し大きなカブトムシくらいの感覚だろうよ。

 流石は竜の王。見た目からしてもう規格外である。


 ご機嫌を損ねないようにそろっと竜王の正面へ回り込み、揉み手をせんばかりにへりくだって、まずはご挨拶だ。

「ど、どーもー。りゅ、竜王のタナカ様であらせられますでしょうか? ほ、本日は、ご、ご機嫌麗しゅう…………」

「…………ん~?」

 未だ眠気も覚めやらぬご様子で、これまた大きな瞳をパチクリさせ遊ばしておられる竜王様。あわわわわ、大丈夫かこれ。お休みのところにお邪魔してご機嫌を損ねていたりしないだろうか。ああ、やっぱり手土産の一つでも用意してくるべきだった。

 これ以上ヘタを打ちたくはない。何か反応されるまで大人しく待つ事にする。やがて多少眠気も覚めたのか、首を傾げつつ、俺の事を不思議そうにご覧になる。


「お姉ちゃん、だーれ?」


 …………お姉ちゃん。後ろを振り返るが誰もいない。つまり対象は俺である。マジか。

 聞きたい事の一つにあっさりと答えが出てしまった。死にたい。

 いや、やっぱり死にたくない。あんまり(だんま)り決め込むとご機嫌を損ねるかも知れない。

「お初お目にかかります。サス国の田舎でドラゴンやってますコートと申します。どうぞお見知りおきを」

「ぼく、たなかやすのり。はじめまして、こんにちわ」

 おぅふ、竜王様がお辞儀をするだけで海が荒れる! 超ダイナミック!

 っていうか、お名前、もろに日本人ですね。完っ全に転生してはる。

「んーと…………ああ、お姉ちゃんがつぎの女神役するんだね。それで――――フルお姉ちゃんが安全にくらせるようにしたいの?

 うーん…………大丈夫みたいだよ? けっこう長生きするみたいだし」


 わぁい、話がサクサク進むぞ!

 っていうか聞きたかった事の二つめにももう答えが出ちゃったぜ畜生めぃっ!


「竜王様は相手の心? 記憶? が読めるのでいらっしゃいますか?」

「んーん。あ、よめるんだけど、さっきのはそうじゃなくて、えーとね、ちょっとだけ未来を見たの。

 あのね、ぼく、『全知全能』っていうスキルがあって、知りたいこと何でも分かるんだよ」


【速報】竜王タナカ、ガチで全知全能だった。


 女神より邪神より竜王様の方がよっぽど神だよ。ゴッドだよ。


「あの、実はわたくし、女神と言われましても加護が使えなくてですね。っていうか魔法すら使えない情けないは虫類でございまして。よろしければ、その辺ご教授頂きたく参上仕った訳でございまして」

「えっとね、かんたんだよ? 使おうと思わないから使えないだけで、やったらできるよ?」


 いえ、そんな。歩きたかったら足を動かせ、みたいな事言われても、肝心要の足の動かし方が分からないんですけど……。


【悲報】竜王タナカ、教え方が雑。


 サッカーうまい奴が良い監督になる訳じゃない、みたいな。最初から出来る奴は試行錯誤をしてないから、噛み砕いて人に教えるのは苦手なのだ。だからいわゆる感覚派という教えベタになるのだ。


「すいません。分かりません。出来ません」

「えー。できてるのにぃ…………」

 出来てたらこんなとこまで来てないっス。自分、不器用ですから。

「フルお姉ちゃんがまほう使う時、お姉ちゃんが自分のまりょくをわけてあげてたでしょう? あれがそうだよ」

 …………マジか。すんません、出来てました。割と早い段階で出来てました!

「助けてあげたいな、って思うと、おてつだいできるの。だから、ほかの人のことも助けてあげたいなって思えたら、それでだいじょうぶ」


 教え方雑だとか思ってすいませんでした! 超分かりやすかったっス!

 気持ち一つの問題だったんだ。自分が女神だと信じず、無意識にストッパーをかけていただけなんだ。


 感覚的なものだけど、本能さんも「もう出来るよ」と太鼓判を押してくれた。

 この時から、俺は本当に人類の女神となった。

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