25 女神降臨?
「ふーむ、スーシャ姫はチビから事情を聞いておらんかったのですかな?」
「事情……ですか? コート殿の目的であれば、飼い主の少女が聖女に認定されたので、先んじて危険を排除するため魔族領域に打って出た、と伺っています」
「して、その飼い主――フルが聖女として認められた経緯については?
チビよ、説明せんかったのか」
「してない。別にいらないだろ?」
「そこが最重要じゃろ。
皆様方にも改めて紹介しておきましょうて。とてもそうは見えぬでしょうが、このチビこそが件の女神様の申し子、コートですわい」
「違います」
すかさず否認。しかし周囲はじいさんの言葉に重きを置いて、俺の否定的な態度を無視する。
「マジ違います。そんな話聞いてないし。ていうか、それじいさんの妄言でしょ? 証拠も何もないでしょ?
ごめんなさいね皆さん。このおじいちゃん、ちょっとボケちゃってて」
「ボケとらんわ。お前さん、まだ自分の立場を認めておらんかったのか」
「認めるもクソもあるか! 大体だね、どうしてオスドラゴンの俺が女神なんかになれる訳よ。女神だろ? 女だろ? 後釜だったらメスに頼みなさいよ」
はい論破! 正論でごめんね! じいさん、ぐぅの音も出まいよ。
と勝ち誇るも、何故かぽかんと呆れ顔の諸兄達。ちょいと待ちたまえ、何さその顔。俺何か変な事言いました?
疑問を浮かべる俺に答えたのは姫殿下である。
「コート殿は――メス、ですよね?」
…………はい?
「――――はっはっは、おいおいおい、君も大概冗談が好きだね。へっへっへ、オイラがメスですって? 聞いたかじいさん」
じいさんは憐憫の眼差しと共に俺の肩を叩く。気を落とすなとでも言うかのように。
「そうか、お前さん、自分の尻尾の付け根は見えぬだろうからな。ドラゴンのオスは尻尾の付け根が太い。一方でメスは比較的細い。お前さんは、メスじゃよ」
ここでワンポイントスタディ。
は虫類の中でもトカゲやヘビなんかの有鱗目ってやつはチンコがない。代わりにヘミペニス(二股チンコ)ってのが付いてて、それが尻尾の付け根に収納されてる分、オスの方が太くなるんだぜ! テレビの動物番組で見た事あるぜ!
そして俺の尻尾の付け根はそんなに太くないぜ!
マジか。うっは。超ウケるんですけど。ウエッヘヘヘ。
「いや、でも、俺は生後一年未満だし、まだ成長途中だし、付け根の太さとかパッと見で分かるほど違わないはずだしっ!」
あ、やばい、手が震えてる。なんだこれ。
「トカゲなんかは小さいので分かり難いが、お前さん、サイズがサイズじゃからのう。流石にパッと見で分かるくらいには違うぞぃ」
「聞こえない! 聞きたくない! あーあーあー! うあー、うあーーーーん!」
誰か嘘だと言ってよー! 俺の新しい人生は異世界転生ファンタジーだと思ってわっほい喜んでたのに実はTS(trans sexual・性転換)物だったなんて! マニアックすぎるよ! 需要あんのかよ! 少なくとも俺の好きなジャンルじゃないやいやいやいやい!
「いやー! オスだと思ってたのにー! っていうか意識は完璧オスだったのにー! 無理よ、あたし今更メスとしてなんか生きられない!」
「早くも順応しかけてますね」
姫殿下、冷静に観察するのやめて。
「で、本題なんですけど、コート殿は本当に次代の女神様なのですか?」
さらっと流そうとするのもやめて!
「女神とかもうどうでもいいよ。あー、鬱だ。滅びろ、世界」
ふて腐れモード発動中。王族の前だとか殿中でござるとか関係ねーや。横倒れになり床に尻尾を打ち付ける。
「バルシェン様、コート殿が邪神っぽい事口走ってますが」
「うーむ、参りましたのう。
こりゃチビ、やる気を出さぬか。世界が滅びたらフルも死んでしまうじゃろうが」
お……ぐっ、むぅ、痛いところを突いて来やがる…………。
「でも俺、本当に女神がどうとか言われても分かんないって。加護のやり方なんてさっぱりだし。神託とか出せないし。土掘る事しか能のない、僕はしがない土竜です」
「腐ってもドラゴンじゃろうが…………」
「腐ってる…………腐ってるんだ。俺は今、ふて腐れている…………」
「やれやれ。こういう時にフルがいてくれると助かるんじゃがなぁ……。
のう、チビよ。前にわしが言った事を覚えておるか? ドラゴンの住処ならいくつか知っておる、というのを」
……言ってたか? ああ、言ってたね。紹介されそうだったから速攻で断りましたけど。で、それがなんなんスか。
「その中の一体に、ドラゴンの王、という者がおる。世界で最も有名なドラゴンじゃ」
ほう、ドラゴンの王様ですか。ちょっと興味あるな。でも、怖そうな感じもしますね。
「永きを生きるその存在は、曰く、全知全能。ならば、お前さんが次期女神であるか、加護はどうすれば与えられるのか、御存知であるやもしれぬ。
どうじゃ? 会いに行ってみては」
どうしよっかな。
正直、余所様の大人のドラゴンに会うのってちょっと気後れする。しかも相手は王様だという。それって気軽に行ってお目にかかれるものなのかね?
まあでも、小さな村しか知らなかった頃よりは前向きに会おうかなって意欲もある。そして今の手詰まり感を解消したい気持ちも。
魔族領域に攻め込む足掛かりは無くしたし、ブレーンであるはずの姫殿下はサドッ気に目覚めて俺の事虐めるし、邪神は後釜が頑張ってて人類ピンチだし。
どーしよっかなー。行くべきか行かざるべきか、それが問題だなー。
「そのドラゴンの王様はどこにお住まいですかね? あんまり遠いと面倒臭いなぁ」
「やる気を出せと言うに。
竜王タナカの住まう地は大陸の西じゃよ。人類領域と魔族領域の境目、その延長線上じゃ。海へ出て、大陸の陸地が見えるか見えないかぐらいの位置にある無人島。そこへ行けば会えると聞いておる」
「ふーん。…………ん? タナカ?」
なんだかすごい和名臭いな。
「海は危険な場所じゃが、お前さんならひとっ飛びじゃろうて。
…………やはり、気が進まんか?」
「いや、ちょっと興味沸いてきた」
よっこらせっと起き上がり背を伸ばす。
「さーて、ちょっくらタナカの所まで行ってきますかね。
全知全能? 結構じゃないですか。だったらその全知って奴で、いい加減ハッキリさせてもらおうじゃないか。
この俺が、オスだって事をな!」
「そっちじゃなくて」
こうして俺は新たな目標を得るに至り、竜王タナカの元へと向かう事を決意したのであった。
姫殿下のツッコミを無視して。
次から三章です。




