15 知的腕力でやらかすドラゴン式交渉術
脅しじゃないですよー。やだー、姫殿下のあ・わ・て・ん・ぼ。
「誤解しないで頂きたい。俺が滅ぼすわけではないです。魔王が攻め入ってくるんですよ。あの化け物が」
馬の脚力に猿の器用さ、人並みの頭脳を持ち魔法まで使いこなす。
単独でも一国を落とせそうな気がする。いわんや、敗走した国の王都をや。
そして奴は本当に単独でも攻めてくる。神風特攻の精神を持つクレイジー野郎である。
「……疲弊したとはいえ、我が国の精鋭達が、わずか七体の魔王軍に負けるとでも?」
「どうでしょう。俺はこの国の戦力を存じませんので。
知っているのは魔王の部下である雑魚六体に敗戦濃厚だった騎馬隊と、この俺ドラゴンが手も足も出ず逃げるしかなかった魔王の実力くらいなものでして」
「勝つだけなら、造作もありません。数の力には例え魔王でも抗えないのですから。そして彼の魔王は近接戦闘を好む武闘派。遠距離戦にはさほど強くありません。
コート殿も城壁の防備はご覧になったはず」
「あー、ドラゴン一匹倒せなかったあれね」
火薬兵器には正直びびった。爆発音と高速で迫る鉄塊は今後も御免被りたい。
あとは矢の雨ね。弓矢って点の攻撃だから今の俺ならかわせるさって思ってたけど、一斉に撃たれるとでかい剣山が迫ってくるようで本当に怖い。逃げ場無しの黒い雨。面で撃つ二次元殺法である。利かなかったけど。
そして俺の言葉に姫殿下の悔しそうな顔よ。今にも「ぐぬぬ」って言い出しそうだ。
「ちょっと『ぐぬぬ』って言ってもらえます?」
「ぐぬぬ……」
「はい、ありがとうございます」
俺に画力があればこの瞬間を切り取ってネットにアップするんだけどな。ネット無いけど。
「こ、コート殿は誤解しておられる。ドラゴンの鱗は規格外なのです。
ジルダリアスの攻撃は凄まじいものですが、防御面では並の魔族と大差ありません。当たれば勝つのです!」
なるほど納得。確かにあの統率された面攻撃を食らえば逃げること適わず。馬野郎も一溜まりもないでしょうなぁ。部下なんか裸だし。
「しかし、そこで上空をドラゴンが飛んでいたらどうでしょう」
混乱は必至である。
「そ・れ・が、脅しだと、言っているんです!」
「いやあ、可能性の話ですよ。可能性。なにせドラゴンってやつは人間様とは感性が違います。何をするか分かりませんからねぇ」
「じ、自分で言いますか……」
「でもね、俺はそんなことにはならないと信じています。俺達は友達になれる。助け、助けられ、お互いに助け合う、そんな素敵な関係に。そうでしょう、姫殿下」
きらきらと輝きださんばかりの純粋な目を向けてみた。
なのに姫殿下は追い詰められたような顔を俺に向ける。
何故だ。今俺大分良いこと言ったと思うけどな。
「拒否権はない、と、そう仰りたいのですね」
言ってないです。
◆
「分かり……ました。協力しましょう。ただし、わたくし個人が、出来る範囲で、と言う条件の下。非常に遺憾ですが。真に不服ではありますが。致し方なく!」
姫殿下 は あきらめた。
なんかもう言葉の端々に不満と悔しさが滲み出ているが。
「それではコート殿。協力するからには貴方の目的を教えて頂きたい」
「魔族領域の支配です」
「支配して何をしたいのか、です。あるでしょう、それに至るまでの動機というものが」
あー、なーる。それを説明していれば俺の誠意ももっと素直に通じたのだろうか。
その辺、別に隠すことでもない。フルにさえばれなければ、鈍重騎士のトラスタにだって教えても良いくらいだ。
と、いうわけで状況説明。
俺、ドラゴン、田舎の村で女の子に飼われる。
したらば女の子、女神の神託により聖女認定される。多分勘違いで。
やる気だす女の子。危ない。すごく危ない。
俺氏、超心配する。
女の子のため立ち上がる俺ドラゴン。世界の危険度を下げるため旅に出る。
「意外と良い話に聞こえますね」
「普通に良い話してるでしょ。飼い主の心配する忠義のドラゴン。それが俺」
「話半分嘘半分とはよく言ったものです」
「嘘じゃねーし」
あれあれ、姫殿下ったら俺のこと嫌い? それか、逆に冗談言い合えるくらい超速で打ち解けたって事(ポジティブ)?
「まあ、そんなわけで魔族領域を支配しよう、てなわけですよ」
「飛びましたね」
「ドラゴンだけに?」
「話が飛びましたね、という意味です!
どうして『貴方の飼い主の安全確保』が『魔族領域の支配』と繋がるのですか。もっと、間に細かいプロセスがあるでしょう」
あー、それな。
「ほら、今の世の中って、危険でしょ。女神も死んじゃったし」
「…………ん? 今、なんか、すごい爆弾発言しました?」
「あれ、ご存じない。これってあんまり有名じゃないのかな。女神と邪神が相打ちしちゃったから、人類と魔族のバランスが崩れちゃったでしょ。加護的なアレがコレして。だから境界線で攻めたり攻められたり国が亡くなったりしてるじゃないですか」
……返事がない。あ、すんごい難しい顔して考えてる。いや、合点がいったって感じかな。色々と心当たりがあるみたい。
「だから、早急に新しい舵取りが必要なわけですよ。ほんでまあ、折角だから黒幕的存在になって戦局を後ろから操作しよう、と。ついでにフルのことも適度に活躍させて歴史に残しちゃおっかな、なんてね」
「その話、わたくしが聞いても良かったのですか? 個人で出来る範囲を既に逸脱している気がするのですが……。その、後戻りも出来ない気もしますし……」
「やだなあ、俺達、友達、一蓮托生。でしょ? あっはっは」
「うふ、うふふふふ……」
笑顔の裏に「失敗したなぁ」って想いがありありと見て取れますね。でも訊いたのは姫殿下だもんね。俺、悪くない。
話を聞いて暫く悶々としていた姫殿下、やがて決心したかのように猛然と尋ね始めた。
「ええい、毒を食らわば皿までです!
もう一つ確認させて頂きたい。何故『支配』なのです。
人類側は魔族を、魔族側は人類を『滅ぼす』ために長い間争ってきました。そしてその方が支配するより圧倒的に簡単です。貴方の飼い主にとってもその方が安全でしょうに。
何故、貴方は支配を選び、元の拮抗状態に戻そうとするのですか。理由を聞かねば納得出来かねます」
えー、そこ、説明要る?
「だって、魔族全滅とか人類圧勝とかなったら、ここに住んでる人間みんな滅びるでしょ?」
「んー! また話が飛んだ!」
「ドラゴンだけに」
「それ、二度目ですからね。三度目言ったらぶちますからね!」
「姫殿下の手の方が痛むだけだと思いますけどね」
「ぐぬぬ……」
あー、いい顔だ。こんなに悔しそうな顔見たことない。写真撮りたい。
腕とかバタバタ振り回して飛び跳ねちゃってまあ。
かわいい。姫殿下かわいい。ちょっと癖になりそうなくらい。




