10 珍味の話、つまりは雑談
ぼちぼち体を起こし、伸びをする。
おお、体の節々が硬い。まるで岩のようだ。いや、俺の鱗を顧みれば「鋼鉄のようだ」と例えるのが正しいか。おっと、自慢してしまったかな? ふっふっふっ。
「きひぃっ……貴様、い、生きていた、のか?」
「失礼な奴だな。生きてるよ。ちょっとウトウトしてただけだろ」
「三日も微睡む奴があるか!」
おっと、いけねえや、ぼんやりしている内にそんなに経っちゃったか。
それより君、声枯れてるよ? 大丈夫?
「貴様は何がしたいんだ……。俺をこのまま衰弱させて殺す気か……。それが……そんなことが……楽しいのかぁっ……」
あーあ、また泣き出した。
「猿顔の泣きっ面見て何が楽しいと言うんだ。俺はお前を尋問してあの自称魔王について情報収集したかっただけだよ」
「だったらせめて何か訊けぇっ!」
「あー、はいはい、悪かった悪かった。
じゃ、なんか喋って?」
「そんな訊き方があるかぁっ!」
注文の多い奴だ。立場分かってんのかこの野郎。
お仕置きが必要だな。
俺はおもむろに手をかざした。
「む、ぐっ、何を……」
指一本を猿顔の鼻先に置き、触れるか触れないかの距離を保ちながら眉間へと移動させる。
「お……あ、きひぃつ! ひゃ、ひゃめろ! ムズムズする!」
そう、眉間に尖ったものを近づけるとなんだかムズムズするのだ(注:効果には個人差があります)。
それだけだ!
「話す気になったかね」
「何を話せと言うんだ!」
「まずその反抗的な態度をなんとかしなくては、ということか」
「普通に訊けよぉぉぉ!」
「君、珍味とか詳しい? 知ってるかなぁ、あの料理」
「……は?」
「『猿の脳みそ』っていうんだけどさ」
「…………は?」
「猿を動けないように縛ってね、真ん中に穴の開いたテーブルに固定するんだ。その穴から首だけ出して、頭蓋骨を、こう……」
すぱっ――と、真横に切る仕草。
「………………」
「まあ、聞いた通りのゲテモノ料理なんだけど。何がゲテモノかっていうとね、頭を開かれても、その猿は 生 き て る ん だ っ て 、さ」
猿顔の呼吸が荒くなり、顔から血の気が引いていく。
「それで、どう食べるのが一番美味しいか、っていうと」
口をぱくぱく、金魚のように閉じたり開いたり。
「食べる前に」
動けない頭を必死に仰け反らせ逃げようとする。
「その猿を」
だが逃げられない。
「興奮させるんだ」
だが逃げられない。
「――――――っ――ゃぁ――――――――」
だが逃げられない。
だが逃げられない。
だが逃げられない。
だが逃げられない。
「肉とか食べたい」
猿顔は絶叫した。




