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過労死から始まるドラゴン転生  作者: questmys
一章 幼生期
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20 神託

 フルアーマーはピクリとも動かない。そして中身は目の前でお茶を片手にくつろいでいる。

 あの鎧は抜け殻か。油断した……脱皮するとあんなイケメンになるだなんて。おのれ、俺がその場にいさえすれば進化キャンセルして元の鈍重な鎧のまま据え置いたのに!

 あらゆるパーツが濃いタレ目野郎と違って、正当派の美形青年といった感じだ。さわやか系だ。流石は勇者の一族……物語映えする(ツラ)してやがる。

 それに、心なしかフルの視線が――いや、気のせいだ。きっと気のせいだ!


「魔物を召還する魔物……ですか」

「サイクロプスを召還するほどです。三体程度では済みますまい。いつの間に森の中に潜んだのか……安心は出来ませんのう」


 二人して真剣な話をしているので、後は任せてフルと宴会に行きたい。

「こら、引っ張っちゃダメよ。わたしはトラスタ様のお世話を頼まれてるから。

 それより、また危ないことしてきたんでしょう? ほら、回復してあげる」

 ケガを負うような相手ではなかったのだが、断るのもなんなので甘えさせてもらう。フルの魔力が発動し――その様子をトラスタが見ていた。目を見張るその様を見て、「あ、まずったかも」と直感的に思う。じいさんも眉をひそめて止められなかったことを後悔しているようだ。

「【ヒール】」

 傷一つないので効果の程はハッキリしないだろうが、この魔力量はもはや隠せない。


「これは……とてつもない魔力だ。一体どれほどの修練を積めばこの域に達するのか……」

「そんな。わたしなんて、本当、まだまだです」

「ご謙遜を。私の知る限り最高の魔力量(ちから)です。それをこの若さで――」

「いやだわ、トラスタ様ったら。うふふ」

 わー、これ嬉しそうな顔しちゃってまぁ。あかん、ベタ惚れやないか。ダメだよこういう男に引っかかっちゃ。「英雄色を好む」といって色んなところで何人も食い散らかしてるんだから。


「あら、コートも褒めてくれるの? でもこれって全部コートのおかげよね」

 よーし、伝わってないね。分かってたけどね。


 ならばとトラスタに向かってガン付けておいた。うちの子に手ぇだしたらぶち殺すぞ。毎日半殺しだ。右半身と左半身を日替わりで殺す。

「あはは。人懐っこい子だね、この子ドラゴン――ドラゴンでいいんだよね?」

 よーし、通じてない。チックショー!


 ◆


「さて、バルシェン殿。この村に迫る危機の程は理解できました。頻度は低いものの驚異的な魔物が出現する現状を見過ごすことは出来ません。

 王都から兵を派遣させましょう。もっとも、この村の規模では数が多いと兵站も賄えないでしょうから、精鋭二名を交えた二個分隊、八名から十名程度を駐屯させます」

「お心遣い感謝します」

 じじいは礼を述べるが、俺としてはタレ目野郎レベルの兵だか騎士だかが十人いたからといって役に立つのか疑問だ。精鋭二人ってのがどれ程ものなのかが重要だろう。

「申し訳ないのですが、私はこれから本隊へ帰投せねばなりません。次の任務が待っています故。その間のことはアルフォンスに任せてあります」

「……致し方のないことですのう。むしろこうして副団長自ら調査に出向いてくださったことに感謝します」

 おや、帰っちゃうのか。んー、まあ、んー、そこそこの魔物なら、俺がいればなんとかなるかな。悪い虫が去るならば喜ぶべきか。フルは残念そうだが。

 というか、タレ目は残るのね。邪魔だわー。あいつ役に立たないだろ。一緒に連れ帰ってくれないかな。

「それから、村がこういった事態である時に心苦しいことなのですが……」

 トラスタは眉根を寄せて言い難そうにしてから、フルの方へと視線を向けた。

 なんだかすごく悪い予感がするので、フルとトラスタの間に割り込む。だが身長が足りずに目と目が合う瞬間を邪魔できなかった。無念だ。


「単刀直入に申します。フル殿を王都へお連れしたい!」


 その一言でフルはといえば、嬉し恥ずかし、口元に両手を当て驚くと共に喜色満面で顔を赤らめている。

 うおおおおお、なんということでしょう! もうね、言っちゃうけど、恋する乙女の顔ですよそれぇっ!

「わたしで良ければ!」

 返事も早いしぃ!

 いかん! じいさん、お前が頼りだ! 頑張れ。村の高齢化防止のために。そして主に俺のために!

「理由を、伺ってもよろしいですかな」

「もちろんです。

 バルシェン殿はお気づきのようですが、私の生まれであるアインス家は勇者の一族と呼ばれ、かつて魔王を倒した勇者の子孫であると伝えられています。そのアインス家に、数年前から度々神託が下るようになりました」

「なんと! それはつまり、神の御意志を預かる程の事態が起きている、ということでしょうか」

「……詳しいことは話せません。

 ですが、今回の申し出もその内の一つなのです。神託にはこうありました。

『火の山の麓に災い蔓延る。急ぎ迎え。その地で聖女が待っている』、と」

 フルも、じいさんも、驚きを隠せないといった顔だ。

 しかし、俺は騙されませんよ。異世界だからって神の神託だとか、舐めんなよ。神様云々を語る奴は大体詐欺師だ。胡散臭いことこの上ない。

 勇者詐欺と神様詐欺でダブル役満だわ。ギルティ確定。俺に司法権があったら塀の中で臭い飯食わせてやるのに。

「村に着いてから、私もアルフォンスも、フル殿が神託にあった聖女ではないかと考えました。そして、先ほどの素晴らしい回復魔法の腕を見て、確信したのです。

 彼女こそが、神託の聖女である、と!

 フル殿。私と一緒に来て頂けますか?」


 許さぬ。

 王都だなんて……。会ったばかりの男と二人旅だなんて……。


 神が望もうと、本人が望もうと。

 親父さんが許そうと、お母様が許そうと。

 この俺が! 決して! 許さーぬ!

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