19 怪我の功名
残念! ドラゴンキックは失敗に終わった!
あー、痛たたた。流石にあの高さから突っ込むと衝撃も大きい。
助けるつもりが、いらぬ手出しをしてしまった。反省しよう。
土埃の舞う中、反省しつつ立ち上がる――と、なにやら奇妙な輩と目があった。唐突なことにギョッとするが、相手も驚いているようだ。お見合い状態で膠着する。
橙色のローブを頭からすっぽり被り、目だけが赤く光って見える。手には木の杖を持ち、「わたし魔導士です」と言わんばかりの如何にもな風貌。人間……ではないよね? あれ、こいつも魔物か?
おや、よく見れば三匹も同じようなのがいる。個体差はなく見分けは付かない。やはり量産型の雑魚モンスターか?
おっと、こちらが観察している内に先手を打たれた。呪文を唱えながら杖を振り回している。目を凝らせば魔力の発動が見えた。
すわ、攻撃魔法か!
と思いきや、違った。
雑魚魔導士達の前方に光で魔方陣が描かれ、そこからゴブリンが一匹ずつ這い出てくる。召還魔法か魔物創造なのか知らんが、ひょっとしたら、一連の魔物騒ぎの原因はこいつらか?
うっかりボーッと観察してしまったが、まずいぞ、六対一は厳しい。ゴブリン二匹はすでに召還されてしまったが、俺とお見合いしていた雑魚魔導士は魔方陣の起動が遅れたのでまだ這い出てくる途中だ。まずはその頭を踏み潰し、そのまま雑魚魔導士の首筋目掛けて噛み付く。
ゴキリとの骨の折れる音と感触。次いで血の味と匂いが口の中に広がる。
おええ、気持ち悪っ! 都会派な僕チンには噛み付き攻撃は向かいよ!
仲間を殺され怯む雑魚魔導士達。一方そんなこと関係無しに左右から突っ込んでくるゴブリン二匹。
片方を尻尾で薙ぎ倒し、もう片方は爪で引き裂く。流石に一撃とは行かなかったが、致命傷は与えられたようだ、動きを止めている。その間に雑魚魔導士一匹を爪にかけ、組倒して滅多刺しにする。
うう、感触が気持ち悪い。
ウサギの時は一匹は逃げられ、もう一匹は家に着いてからお母様が絞めた。
一角熊と戦った時は無我夢中だった。
自警団との見回り中は攻撃は人任せだった。
これが初めて意識して殺す戦闘だ。
向かないわ。直接手を下すのは性に合わないわ。ドラゴンの強靱な体に似合わぬ消極的意識。だって、気持ち悪いんだもの。心の拒否感が半端ない。
でもやらなきゃやられる。仕方がないのだ。やるしかないのだ。
ドラマや映画で殺し役が叫びながら刺し殺していた場面を思い出す。何となく、気持ちが分かった。叫べば気も紛らわせられる。この嫌悪感は素面じゃやってられない。素人の俺にはなおさらよ。
だから、腹の底から雄叫びを上げた。
期せずして魔物共を怯ませることが出来た。相手は雑魚だ。正直、傷一つ負うこともない。ワンサイドゲームになってしまった。余裕があるせいか、殺生を気にやんでしまう。
すまん。でも死ね。
◆
六匹全てにきっちりトドメを刺し、穴を掘って五匹埋めた。
なんとなく、埋めておきたかったのだ。
俺が穴掘り得意で良かったな、普通、魔物の埋葬なんてしてもらえないんだぞ。
残る一匹は状況説明のために持って帰る。といっても、会話できるのはじいさん一人。いい加減不便を感じる。
いや、文字が書けるのはフルも知っているし、筆談で……うーん、でも、騎士達の前で目立つ事するなって言われてるしなぁ。俺だって出来れば平穏に暮らしたい。
まあ、いいか。なるようになる。帰ってから考えよう。
◆
村へ戻るとすっかり祝勝会ムード一色であった。
サイクロプスの死体を囲んで駄目な大人達が酒盛りしている。まだ日も高いというのに、こいつら今日は仕事する気ないな。くそう、のんびりしやがって。是非とも仲間に入れてください。
だがその前にやることがある。じいさんはどこだろう。トラスタもいないし、家かな?
魔物の死体を担いでいるので村人達から視線を受けるが無視だ。とっとと引き渡して俺も酒盛りしたい。
案の定、じいさんは自宅へ戻っていた。トラスタも、気絶したままのタレ目もいて、何故かフルも一緒にいた。ああ、回復してやってたのかな?
相変わらず普段のフルアーマーはピクリとも動かない。
――ところで、知らない男が増えてるな。フルの隣でお茶飲んでるあん畜生はどこのどちら様?
「おお、帰ったか。む、それはなんじゃ?」
「グァ」
とりあえず戦果を放り投げ、ガウガウ鳴きながら身振り手振りで説明する。
「なんと。ふぅむ、ではこいつが今回の騒動の原因……全部で三体おったのか」
三体……ね。魔物は匹で数えていいんじゃないかな。……魔物だよね?
「バルシェン殿、そちらのドラゴンの子はなんと?」
知らない男が話しに加わる。君、ちょっとうちのフルから離れなさい。距離が近いよ。
「トラスタ殿、こちらのチビの報告では――」
え、トラスタ? ええぇっ!




