17 騎士隊
村へやってきた騎士は二人だけ。様子見の選抜隊だ。
正直少ないと誰しもが思ったが、落胆する者はいなかった。村に被害はなく、出てくる魔物は最初の一匹以外強くもない。村人達だけで十分対処可能だと分かっていたからだ。
そして村人達の全員が思っていた。
「レディース、エン、ダッ、ジェントルメェン! 安心したまえ。この! 僕が! やってきたのだからっ!」
変な奴来た-! と。
◆
「やあやあ、バルシェン殿! 御高名はかねがね!」
「こりゃまた濃いのが来おったのう……」
凄いタレ目のよく喋る美丈夫がアルフォンス。
蒼い全身甲冑の寡黙なデカブツがトラスタ。
自己紹介をしたのはアルフォンスだ。トラスタの方は村へ来てから一言も発していない。
「ぼくが! 来たからには! この村の平和は約束されたも当然! さぁ、調査のついでにさっくり巣くった魔物共を討伐して参りましょう!」
芝居がかったこの仕草よ。お前は普通に喋れんのか。しかもこいつ、ずっとフルのことチラ見してやがる。アピールか。邪なアピールしてんのか。
そしてもう一方はずっと黙り。どころか身動ぎ一つしやしねえ。寝てんのか。起きんかいコラ。
ドラゴンは嫌でも目立つからって話だったが、二人とも欠片も俺のこと気にしてないよ。こいつらに比べたら俺なんか地味もいいとこだ。
キャラが濃すぎてお腹いっぱいだ。胸焼けしそう。早々にお帰り願いたい。
「都の騎士殿をこんな寂れた村に長々と引き留めるわけにはいかんでな、早速じゃが調査に向かいたいところじゃが」
「まーかせておきたまえ(ウインク)。この(ウインク)、僕が(ウインク)、スピード解決してあげるとも!」
いちいちウインクを挟むなー!
なんか腹立ってきた。どさくさに紛れて火口から蹴落としてやろうかな。どうやって誘導してやろうか。
「あー、その前に一応、現状報告しておきたいんじゃが」
じいさんはこれまでの経緯を二人に説明している。そういうプロセスは捨て置いて「調査」「何も無し」「さようなら!」の流れで速攻叩き出してやりたい。
「一角熊と聞いた時は僕の! この僕の必殺剣の出番かと思ったが!
ふぅむ、割と暢気なもんだね。いやー、残念! はっはっはっ!」
「じゃが暢気ですませるわけにもいかん。今まではその程度の魔物すら出なかったのじゃからな。原因があれば突き止めて、解消したい。自警団を続けていくにはこの村の規模は小さすぎる」
「そうか。そうだねえ。男手が見回りにとられても困るだろうしねえ。
よし、ではこの僕が! 一肌脱ごうじゃあないか!
いざゆかん! 獣の跋扈する草原へ!」
「いや、魔物が出てくるのは主に森の方でな、あちらの森の――方、へ――」
じいさんの様子がおかしいので一同はその指さす方、つまりは森を見る。
そして見上げる。何をか? そこにある巨大な何かをだ。
山ではない。しかし山のようにそびえて見える。
一つ目の巨人。サイクロプスという奴だろうか。それが胸から上を森の木々より高くはみ出していた。
いつからいたのか。
いつの間に出たのか。
口を開けて見上げる間抜けな俺達には分かるはずもない。
「あれは……あれかな、村の守り神的な、石像? いやあ、まるで生きているようだね」
「生きておる……んじゃろうなあ。今までどこに隠れておったのやら……」
いやいやいや、あんな巨体が隠れる場所ないだろう。
幸いにして動き出す気配はない。今のうちに逃げるなり対策を練るなり――あ、こっち見た。
不思議そうな顔で村を見下ろしている。なんだよ、こっち見んな!
げ、動き出した。木々を薙ぎ倒しながら、轟音を立ててこちらへ向かってくる!
そして振り上げられた右手。その手には、大木を削っただけの無骨なこん棒が握られていて――有り体に言えば、すっごくピンチ!
「き、騎士殿、任せても良いのだな!」
いいぞ! じいさん、押しつけた! お願いします騎士様、ナイト様! 死んでもいいからあの怪物を倒してください! 何らかの手段で!
「おぉぅえぇっ? いや、ちょ、想定外……」
泣き言は聞きたくない! お前なら出来る! 出来るはずだ! 自信を持て、立ち向かえ!
虎だ! お前は虎になるのだ!
とか冗談言ってる暇もないくらい危機的状況なわけだが、こちらの陣営の巨体も遂に動き出した。トラスタだ。サイクロプスとは比べるべくも無いが、その体躯は並の大人が子供サイズに見えるくらい巨大だ。一角熊に優るとも劣らない。
重厚な足音が自信を感じさせる。タレ目の優男とは違う、出来る男のオーラを纏っている。この男ならば!
村人全員が見守る中、トラスタは村の端まで移動した。
サイクロプスもまた森の端まで歩み寄り、二人は対峙した。
振り落とされるこん棒。風を切り、地に打ち付けられ、轟音を響かせる。
一方、それを受けたフルプレートの騎士はといえば――
――潰れていた。
お、おう。そりゃ、駄目ですよね……。




